第4話 天地を結ぶ道
居祈は儀式の間、神前に向かって端座し、両手を膝の上に乗せて静かに瞑想した。
高い空に月が出ていた。まるで
腹の痛みは鎮まり、月を楽しむ余裕があった。風流心が疼いて、居祈はほうと感嘆の息をもらした。
が、おもむろに何かがおかしいことに気付く。違和感の根源を辿るのは容易だった。
こんなに月の美しい夜には他の星々も
明らかにおかしなことは他にもある。そして、こちらの方が決定的だった。
上空は夜であるのに地上は昼。夜空の下で茫洋に広がる枯野が陽光に揺れている。まるで空と海とが水平線で分かれるように、ここでは夜と昼とが地平線で分かれているのだ。
居祈はあっけにとられながら今度は自らに目を向けた。儀式と同じ白装束に身を包み、記憶にない袋を肩に担いでいる。なんだか
目の前に道が一本。足元の土はきめ細かくなめらかで、気を付けなければ踏み外しそうな細道。その百メートルほど先を大岩が立ち塞いでいる。その光景は現世に伝わるあの道を思わせ、居祈はたちまちぞっとした。
ここは
黄泉比良坂は言わずと知れた地上と冥界をつなぐ道。緩やかな坂を上った先に千人でやっと動かせる程の大岩があり、黄泉の世界へ通じる穴を塞いでいると現世に伝わる。
これまで周りのことばかりに心奪われていたが、己の死を暗示する道を示され、涙よりも先に底知れぬ恐怖が居祈の体を凌駕した。
まだ十六になったばかりだ。やりたいことがたくさんあった。一週間後には高校の入学式。制服を着るのをとても楽しみにしていたのに。
絶望する己をよそに生の本能が忙しなく働く。記憶の中の書庫を開け、これまでに読んだ神話や伝承話をかたっぱしから脳裏に思い浮かべた。
生まれついたのが神社であり、生まれつき妖が見えた居祈にとって、神話はいつでも身近にあった。おのずから興味を持ち、倉の古書を読み
神話の中で黄泉比良坂は暗く長いトンネルと伝わっているが、目前のこの道は夜と昼との境にあり、暗いトンネルとは呼べない。だからこれは黄泉比良坂ではない。
そう思いたいが、伝承が時を経て形を変えて伝わった可能性を捨てきれない。
居祈が思案していると、枯野のさざめきに混じって何者かのささやき声が聞こえてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます