第8話
そして感動の再会をすることしばらく。
メガネなのに触覚があるってどういうことだと、いろいろ女神に文句を言いたいところだが、
『とりあえず無事でよかった』
「うん。わたしも叔父さんともう一度会えるなんて思ってもみなかった。まさか叔父さんがメガネになってたなんて」
うん。ホントそれな。
「でも意識があったのならどうしていままで話しかけてくれなかったの! わたしすっごく寂しかったんだよ!」
『あーそんな恨みがましそうな目で俺を見るなって。それには色々と事情があるんだよ』
◆◆◆
そう、時間は数十分前に巻き戻る。
無事、異世界から帰還した俺は、突然なにかを決心したようなひよりの手でダンジョンに連れてこられていた。
おそらくダンジョンに潜るために、年齢をごまかす必要があったのだろう。
そういうところは姉さんにそっくりだと思いつつ。
メガネとして手持無沙汰になりつつあった俺は――ひより越しに元の世界を堪能しながら、誰にも悟られないよに魔法の訓練をしていた。
もちろん叔父としてひよりの探索も気になる。
彼女は俺の家族だ。
メガネと同じくらい優先するのは当たり前だ。
だけど悲しきかな、俺はメガネに転生してしまった。
自分で動くこともままならなければ。もう二度と、このダンジョンに訪れる可能性がないかもしれないのだ!
『せっかく周りの被害を気にせず魔法を放てるダンジョンに来れたんだ。このチャンスを逃すわけにはいかないよな』
それにこちらの声が伝わらない以上。
姪っ子に万が一のことがあったとき、サポートできるようになっておかねばならない。
ということで――とりあえず現状確認の意味で、自分は何ができるのか、ひよりに悟られないよう思いつく検証を可能な限り続けていたのだが、
『はぁはぁ、いくら、ダンジョン初心者だからって不用心に進みすぎだろ!』
無警戒にダンジョンを進んでいく二人の少女に向けて、俺は声にならない叫びをあげていた。
メガネ疲れって言葉があるのは知っているが、メガネになってまで疲れるなんてことがあるんだな。
警戒感なくおしゃべりしながら進んでいく二人を襲おうとしたモンスターを気づかれずに処理することしばらく。
気づけば100単位のモンスターを狩っていた。
いくら俺が異世界帰りの元勇者だからって、一日に討伐したモンスターの数で言えば過去最高だろう。
だが、苦労した甲斐以上に収穫もあって――
『なるほど。つまりメガネ単体じゃ能力を発揮しきれないってわけか』
地上では試せなかった性能テストの結果。
わかったことは『俺、すげー便利』ということだった。
どうやらこの固有スキル『メガネ』というスキルは、俺の想定以上にチートなスキルだったらしい。
そのステータスの説明欄にある通り、メガネという概念が関わるのであればどんなことができるということが判明したのだ。
【暗視モード】【ズーム機能】といった普通のメガネに備わっている特殊機能は当然として。
例えば【透視モード】で任意に壁の向こう側をのぞき見できたり。ゲームのように【千里眼モード】で三人称視点で視点を自由自在に変えるなど様々な使い方ができるようなのだ。
しかも驚くことに、このスキル、目に見えない電波すら干渉できるのか。
適当にいじっていたら知らない配信番組が、目の前に現れたときにはかなりびっくりした。
『まぁ、その映像はひよりには供給されなかったみたいだがな』
そんなわけで、ひよりの初探索を見守りながらゴ〇ゴ13世よろしく。
大事な姪っ子を刺客から襲おうとするモンスターを返り討ちにしていくのだが
一つ問題もあって――
『うーん。魔法は問題なく使えるけど、何か魔力の動きが鈍いというか思った通りの威力が出ないのが難点だな』
そう、概念系のスキルには問題ないが、どうも出力系の魔法を使うと威力が落ちてしまうのだ。
このくらいの低層のモンスターであればまだ対処できるが、これが高レベルのモンスターになると話が変わってくる。
原因はわからない。
スキルというくらいだから何かしらの条件が関わってくるんだろうけど――
『いったい何が原因なんだ?』
ステータスからもわかる通り、俺は相当破格な性能を持ったメガネだ。
これだけのステータスがあれば、普通は低層のモンスターを一体倒すなど何でもないはずなのだが。
『それに俺を装備しているはずのひよりが強化されていないのも気になる』
現に、いまのひよりは同級生についていくだけで精一杯のようだ。
普通、高性能な装備品を装備したのなら、ステータスも強化されるものじゃないのか?
それともそれは向こうの世界の基準で。こちらの世界は違う問うことなのだろうか?
『ううんわからん』
今は完璧な魔力制御で、かまいたちのように局所的な風の刃を発生させモンスターの喉笛を掻き切っているからいいが、さすがに魔力効率が悪すぎる。
もし初級魔法の威力で倒せないモンスターを相手にすることになったら、今の俺では家族を守り切れない。
二人の会話を盗み聞くところによると、どうやら高校受験? のためにダンジョンに潜る必要があるらしいが、
『まぁさすがにこの二人もいきなりパーティーを組んで、ボスモンスターに挑むなんて無謀はしないだろう』
と思っていたら、いつの間にかボスの部屋にたどり着いていたよ⁉
な、なぜだ。二人の実力では、この階層のモンスターを倒してボス部屋までたどり着けないはずなのに
『――って、し、しまったぁあああ! 調子に乗ってモンスターを倒しすぎああああああああ!』
適当なところまでサポートして、あとは適当なところで撤退してもらうつもりが、秘密裏に処理する自分のかっこよさに酔いすぎて、本来の目的を忘れていたぁ!
そうだよ! なんだか知らないけどこの子ら、自分の実力を学園側に証明するためにダンジョンに潜ってたんじゃん!
同級生の少女曰く、攻略サイトに戦い方が載っているから大丈夫ということなのだが、どうも怪しい。
よほど自分の腕に覚えがなければ、初めて組んだ探索者と一緒にボスモンスターに挑戦しようなんて考えないはずだけど、
『いったい何を考えているんだ?』
この部屋に続くボスモンスターはオークジェネラルだそうだが、どれどれ。
レンズの機能を【透視モード】に切り替えて、扉越しにモンスターの姿を捉えれば、 やけに威風堂々と武器を構え、玉座に腰かけるオークが見えた。
ううん。オークにしては確かに風格を感じさせる姿だが、
『オークジェネラル? あいつが?』
異世界で冒険しまくってきた俺だからこそわかる。
ここからでもわかる手ごわそうな風格は明らかにジェネラルクラスを超えている。
くそ、せめて正確に相手の強さをおおまかに数値化できるスキルがあれば、と悩んでいたらポンと再び謎の声が頭の中にに響いた
【スキル『鑑定』を再獲得しました】
おっ、さすがは勇者のメガネ!
ステータスだけでなく勇者時代に仕えたスキルも思い浮かべるだけで再習得できるのか。
メガネチートさまさまだな。
どれどれ、奴のステータスは――っと
<名前> オークロード(ユニーク個体)
<種族> オーク種
<推定レベル> 56
おい、ユニーク個体って、オークロードじゃねぇか⁉
マズイぞ!
オークジェネラル程度だったら今の俺なら何とかアシストすれば討伐できるかと思っていたが、いまのコイツ等じゃ絶対にゃ勝てない。
どうにかして、ひよりたちにこのことを知らせたいけど――、
『だぁああなんでこんな肝心な時に声が届かねぇんだよ』
魔法は使えるのに、念話も届かないってどういうことだよ!
試しに魔法を使って地面に文字を書くなり、土魔法で転ばせて危険を知らせようとしたが、
『大事な姪っ子を傷つけることは俺にはできないッッ!』
そして案の定、ボスモンスターに挑戦した瞬間。
何かを企んでいたらしきひみこが、ひよりの背中を撃ちやがった。
『ちくしょう。やっぱり自分の試験合格が目的だったか』
初心者のひよりを誘った時点で『絶対なんかあるなー』とは警戒してたけど、十代の女子の考えること怖すぎだろ!
ステータスを見るからに彼女もなかなか優秀な探索者のようだが、圧倒的レベル差をわかっていないのか。オークロードにいくら魔法を撃ち込んでも、効いている様子がない。
いよいよこれは撤退しかないか? と思ったら今度はひよりの転移結晶を奪って逃げやがった⁉
『くそ、いくら証拠隠滅のためとはいえやりすぎなんじゃねぇのか!』
幸いにも俺は、帰還魔法を習得している。
なのでこっちも転移魔法を使えばひよりを無事に地上へ送り届けることができるが、転移対象がひよりでなく、『メガネ』にかかった場合のことを考えると迂闊なことはできない。
となれば今ここで、ひよりに何とかしてもらうしか方法はないのだが。
『ダメだ。ショックから立ち直り切れていない!』
信じていた仲間から裏切られたのだ。
ここは非情な異世界じゃない。当然と言えば当然か!
すると一人残されたひよりに狙いを定めたのか。
いきり立つオークロードが雄たけびを上げて、武器を振り回し、こちらに突っ込んできた。
『――ッ! そうはさせるかよ!』
迎撃は不可能と判断し、即座に回復魔法をひよりに掛け、オークロードが突撃するよりも早くひよりにかかった麻痺毒を解くが、回避が間に合わなかったのか。
衝撃に吹き飛ばされる形で、ひよりの体が宙に舞った。
迫りくる岩壁と悲鳴。このままじゃ壁に激突する!
とっさに風魔法を使ってクッションを作りひよりの身体を保護するも、今度は威力不足で壁に激突した。
『くそ、普段のチカラさえ使えれば、こんなパワーだけの相手なんてわけねぇのに――』
下卑た笑い声をあげ、勝ち誇ったような足取りでひよりに迫るオークロード。
即座に立ち上がって逃げるようにひよりに語り掛けるも、頭を打って意識が朦朧としているのか。
うわごとのように母親に助けを求める声が聞こえてきた。
「……怖い、怖いよ、助けてよお母さん」
恐怖にふるえる姪っ子の言葉に、自分の無力さに歯噛みする。
くそ、どうして俺はいつもこうなんだ。
家族がピンチな時に助けられなくて何が頼れる叔父さんだ! 主人公だッ!
大事な姪っ子のピンチに指をくわえて見てる事しかできねぇのか⁉
おい俺!
もしお前が、世界を救った勇者のメガネってんならなぁ――、
『奇跡の一つや二つ叶えて見せろよ!』
すると柔らかな手のひらが俺を包み、この世で最も聞きたかった言葉が頭に響いた。
【個体名――『辰見ひより』が勇者のメガネを装備しました】
キタァアアアアアアアアアアアアッッ!!
単独で魔力を使っていた時とは違う。
たしかな全能感が全身を駆け巡る。
あれほど不自由だった魔力の流れが確かなものとなり、これまで俺を縛り付けていた枷のすべてが解放されていくのが魂で理解する。
これならいける!
『おい、よくもやってくれたなコラ。うちの可愛い姪っ子、泣かせてんじゃねぇぞクソ豚が!』
そうして全魔力を開放する勢いで、俺は全身を輝かせると、
勇者のみが使える最強の光魔法――フォトンブラスターを解き放ち、憎きオークロードをダンジョンごと跡形もなく吹き飛ばすのだった。
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