第9話


 そんなわけでいままで話したくても話せない状況にあったことを説明した俺とひよりは、とある病室に向かっていた。

 

 え、なんでダンジョンにいないのかって?


 そんなのダンジョンを派手に破壊したからに決まってるだろ!

 あのあと騒ぎを聞きつけた警備隊らしき探索者がボスの部屋に押し寄せてきて大変だったのだ。


 まぁ? この俺のチート能力を使って無事、逃げ切ってやったわけだけど。


「それでアイツのことは本当に訴えなくていいのか」

「……うん。今はあんまり騒ぎにしたくないから」


 病院の待合室で流れるニュースを見れば、低層から中層へと続くダンジョンの惨状がニュースになっていた。

 ううむ。我ながら暴れすぎたようだ。

 なんか、経済的損失が100億がどうとか流れているけど、聞かなかったことにしよう。


 そんなわけで、ここ最近の社会現象の流れを姪っ子に説明してもらいながら、病院の中を歩いていくと、どこかくすぐったそうに笑う姪っ子の声が聞こえてきた。


『うん? どうしたひより? なんか変なこと言ったか俺?』

「ううんなんでもないよ。それより叔父さん。メガネ越しに話すのってなんか落ち着かないね。ちょっとこそばゆい」


 まぁ、そこは慣れるまで我慢してくれ。

 そんなことよりひよりよ。変に思われないかこれ? なんか周りの視線がやけに俺たちに集中しているように見えるんだが。


 そう。現在、俺はひよりにメガネを装備してもらった状態で、世界を練り歩いていた。

 自分の足で色々見て回れないのは不便だが、メガネが贅沢など言っていられないのだが、


「いまどき通信機能が付いた端末なんていくらでもあるし、たぶん大丈夫なんじゃない? 周りの人には叔父さんの声聞こえていないみたいだし、ただメガネが珍しいだけじゃないかな?」

『最初に受付のおばちゃんの前で声を出した時に、めちゃくちゃ変な目で見られたもんな』

 

 なので今は、周りに俺の声が聞こえないように『念話』で会話中だ。

 はじめはお互い念話で会話すればいいんじゃね? とも思わなくもなかったのだが、脳内で会話するのは色々不都合が多すぎたのでやめた。

 なにせ――


(心の声で駄々洩れになっちまうからな!)


 思春期の姪っ子の心を除く趣味はないうえ、ダイレクトに感情が伝わってくるのだ。

 いくら俺がいい歳したおっさんとはいえ、あんなどでかい好意の感情を向けられて照れないはずがない!


 しかも運が悪いことに、ひよりが『念話』を習得していないせいか。俺の考えは向こうに伝わらないらしい。

 なので今は端末機器で会話中という体で周りには誤魔化してもらっている真っ最中なのだ。


(――それにしてもメガネが珍しいか)


 まったく、嘆かわしい時代になったものだ。

 俺がいた頃は普通にメガネ女子など、その辺を歩けば普通にいたのに


『いまはコンタクトディスプレイの時代か――。俺がいない5年間で時代はずいぶん先に進んだんだな』

「叔父さんついたよ。ここがお母さんの病室」

『ここが――』


 そうして、何のためらいもなく病室に入ろうとしたところで、俺はひよりに待ったをかけた。


「どうしたの叔父さん。やっぱりその、お母さんとは顔合わせずらい?」

『いや、せっかくのお見舞いなのに肝心の愛娘が傷だらけのボロボロってのもあれだと思ってな。いまきれいに直してやるよ』

「え⁉ そんなことできるの⁉」


 ああ、なんたって異世界帰りのメガネだからな。

 この程度の回復魔法なんてちょちょいのチョイよ。

 驚くひよりをよそに、俺はひよりの身体に回復魔法と浄化魔法を同時に掛ける。

 

「ふぅあああああ、すごいよおじさん。痛みがどんどん引いていく!」

『ふっふっふーだろう? 肩こり腰痛から目の疲れまでありとあらゆるメンテが可能なんだぜ』


 回復痛が気持ちいいのか、病室の前でふやけた声を上げるひより。

 俺単体で魔法をかけた時より効果が表れているのを見ると、どうやら本格的に装備品扱いになっているんだな、俺。

 すると姪っ子の口から興奮気味な声が漏れた。


「すごい! すごいよ叔父さん! あんなにつらかった肩こりがなくなってる! 本当にメガネは偉大だったんだね」

『ふっ、だから言ったろ、メガネにできないことはないんだって!』


 ついでにアイテムボックスから見舞いの花を見繕う。

 たしかこの辺に、向こうの世界で採集したっきりの素材アイテムがあったはずなんだが――


「うわぁきれい。見たことのない花だけど、これも叔父さんが異世界でとってきたの?」

「ああ! 向こうの世界ではエルフの里でしか咲かない花でな。万病に効く素材として有名だったんだ」

「……本当に異世界にいたんだ。さすが叔父さんだね」


 メガネの偉大さを再認識してくれたようで何よりである。

 それより――


『ごめんな肝心な時に役に立たなくて。何をおいてもどんなことをするって約束したのに。一人で大変だったんじゃないか?』

「ううん。わたしが好きでやってる事だし、家族なんだから当然だよ。それに叔父さんが生き返ったって知ったらお母さんも喜ぶと思うし」


 そして改めて部屋の扉をノックして、病室に入ると、

 そこには真っ白なベットの上に寝かされた姉さんの姿があった。


―――

 ちょっと長くなりそうなので前後半にわけます!

 次回は、12時更新予定です!


 いいね♡、コメントしていただけると創作の励みになります!

 今後とも『メガネ無双』を楽しんでいただけたら嬉しいデス!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る