4-11 オークションの会場舞台
「あれ?」
水が入った冠水瓶を演台に置きにきたミナライくんが、ガベルとサウンドブロックに目を向ける。
「おかしいなぁ。こんな位置にガベルとサウンドブロックを置いたかな? ん? あれ? サウンドブロックが汚れてる? 誰か素手で触ったのかな?」
白手袋をつけた見習いオークショニアはポケットの中から磨き布をとりだすと、優しくサウンドブロックを拭って所定の位置に戻す。
サウンドブロックを磨いたついでにガベルもピカピカに磨きあげ、さらには演台のホコリもチェックして、ミナライくんは満足そうに頷きながらその場を離れた。
(あ!)
突然、ガベルが大きな声をあげる。
(ど、どうした! ガベル)
(サウンドブロック! ボクの女神様だ! ボクの女神様が会場にいらっしゃった!」
ガベルのはずんだ声に、サウンドブロックのイライラが再燃する。
(どこにもいないじゃないか……)
会場の扉口からはじまって、会場内をぐるりと見渡すが、女神様の姿はどこにもいない。
そもそも、『黄金に輝く麗しの女神』様が会場に登場したら、周りの参加者たちが騒いですぐにわかる。
オークションにはたったの二回しか参加していないのに、『黄金に輝く麗しの女神』様は有名人になってしまった。
参加者のほとんどが『黄金に輝く麗しの女神』様を知り、女神様の行動をチェックしている。
しかし、オークション会場にそういった兆しはない。
(もう! サウンドブロックはどこを見ているんだよ! 二階だよ! 二階!)
(え? 二階?)
(そう! 二階の特等貴賓席!)
ガベルに言われて、サウンドブロックは特等貴賓席――五つ用意されている貴賓席のなかでも最上級の特別豪華でセキュリティの高い貴賓席――へと意識を向ける。
が、当然のことながら、貴賓席エリアは薄暗く、目眩ましの結界が張られているのでよくわからない。
(ここからだとよく見えないが……)
(嘘でしょ? あんなに輝いていらっしゃるのに! ああ……今日も……いや、今まで以上にボクの女神様は輝いていらっしゃるよ! すごく! すごく! とっても綺麗だ!)
(いや、だから、貴賓席の中がそんなに簡単に見えたら、貴賓席の意味がないだろ?)
やっぱり、ガベルの様子がおかしい。
幻でも見えているのか。
もう一度、サウンドブロックは特等貴賓席に意識を向ける。
(げげ――――っ!)
(ど、どうしたの? そんな変な声をだして!)
(いや! だって! 特等貴賓席に『黄金に輝く美青年』様がいるぞ!)
(え? 美青年様が? う――ん。幕が邪魔で見えないや……。ボクの女神様はよく見えるんだけどなぁ)
(そ、そうなのか? 俺のところからだと美青年様はよく見えるぞ……)
あの、無駄にキラキラ光って、意味不明なくらいにカッコいい男性は、まちがいなく『黄金に輝く美青年』様だ。
前々回、ストーンボックスが出品されたときにつけていた仮面ではないが、あれは間違いなく『黄金に輝く美青年』様だ。
(うわあっっ!)
(どうしたの?)
(い、い、今、今、だな……。美青年様と、ばっちり目があっちまったよ! どうしよう! びっくりした。驚きすぎて、心臓が飛び出るかと思ったぜ……)
(いいなぁ。ボクの女神様もこっちを向いて欲しいな。ボクに向かって手を振ってくれたら、もう最高だよ)
(やめとけ。死ぬほど驚くから……)
(そうだね。女神様に見つめられたら、嬉しくて死にそうになるかもね)
会話が噛み合っているようで、微妙に噛み合っていないような気がするが、サウンドブロックは軽く受け流す。
それよりも、さっきから背中がゾクゾク、ゾワゾワして居心地が悪い。
(ガベル……特等貴賓席をあまりジロジロ見るのは、シツレイだからやめろよな。ザルダーズには『サンラズ』の戒めがあるだろ?)
(あ、うん。えっと……『視線を送らず』、『身元を探らず』、『多くを語らず』だったよね)
(そうそう。それだ! それって、俺たちにもあてはまるからな。貴賓席にいらっしゃるってことは、そういうことだぞ!)
ザルダーズは、賓客に対して、『視線を送らず』、『身元を探らず』、『多くを語らず』の『サンラズ』を貫いている。
スタッフにはその精神を刷り込ませ、その徹底した教育と指導力は、各分野から高い評価を得ている。
(そうだけど……。でも、ちょっとくらいならいいよね? ボクたち、ヒトじゃないよ? 『サンラズ』って、ニンゲンが決めた、ニンゲンのルールだよね? 『ケンシュウ』ってのをボクたちは受けてないよね?)
(そ、そうだよな。俺たちは、木製品だもんな。ヒトじゃないもんな。ちょっとだけ……見るくらいなら、ダイジョウブかな?)
ガベルとサウンドブロックは身を寄せ合い、そろそろと特等貴賓席を見上げる。
(わ――っ。ボクの女神様が微笑んでくださったよ! すごく綺麗!)
(ひえ――っ。美青年様に睨まれた! すごく怖い!)
(なんか、ドキドキしてきた)
(お、俺も、ドキドキする。美青年様……怖い。たぶん、すげ――エライ人だ。こんな場所に来ちゃいけないめっちゃくっちゃエライ人だ……)
サウンドブロックは恐怖のあまりカタカタと震えている。
ガベルは嬉しさのあまりカツンと音をたてて跳ね上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます