4-10 演台の上

(今日のオークションは開始前からイロイロとタイヘンダネ――)


 チュウケンさんの大奮闘によって、揉め事を起こしている男性参加者が、ひとり、またひとりと、椅子の上にガックリと座り込んでいる。


 いい気味だ! とサウンドブロックは拍手喝采する。


(ねえ、ねえ、サウンドブロック! 今日もいらっしゃるかな?)

(はぁ? 誰がだ?)


 ガベルとサウンドブロックは、オークショニアが立つ演台の上に並べられ、すでに準備を終えている。


 入場時からトラブルがあったが、今はなんとか落ち着き、オークションもあと十分ほどで開始されるはずだ。


 見習いオークショニアがスタッフに混じって、オークションの舞台準備のために忙しくウロウロしており、ベテランオークショニアは、最後の舞台チェックを行っている。

 一方、姿が見えない若手オークショニアと中堅オークショニアは、舞台裏で出品物の最終確認をしているはずだ。


(誰がって……もちろんボクの女神様だよ? 今回もいらっしゃるのかな? ああ……ドキドキしてきた)

(なんで、ガベルがドキドキするんだ?)

(え? サウンドブロックはドキドキしないの? ボクは心臓が破裂しそうだよ)


 心底驚いた様子で、ガベルはサウンドブロックを見る。


(ん? なんか、ドキドキっていうか、イライラしてきたんだけどな!)


 言葉が刺々しくなる。

 ガベルのオシカツスイッチが入ってしまった! と、サウンドブロックは内心で舌打ちする。

 大事なオークション前に、自分以外のモノに対してウツツヲヌカスなんて許せない! とサウンドブロックは思った。


(え? なんで? 嘘? サウンドブロックはドキドキしないの? 女神様の美しい声、黄金に輝いている姿。凛とした立ち振る舞い。思い出しただけで胸が張り裂けそうなくらいドキドキする。パドルを挙げてコールされる瞬間は、息を飲むくらい美しくて……その瞬間に立ち会えるなんて……どんな美術品を眺めるよりも価値があるじゃないか)


 ガベルは夢見る乙女のような声で、うっとりとしている。


 ガベルの様子がまたおかしくなった。


 ほぼ一か月――正確には二十七日と十八時間二十六分――ガベルとサウンドブロックは離れ離れになってしまっていた。


 ガベルと一緒にいた収納箱のたどたどしい説明から推理するに、その間、ガベルはずっと「サウンドブロックがいない。サウンドブロックがいない」と泣き続けていたようである。


 長い間、ひとりぼっちにしてしまったから、拗ねてしまった……のか?


(ガベル? どうした? ヘンだぞ? 質の悪いワックスでも塗られたのか?)

(そんなことないよ? ボクはいつもどうりだよ? それよりもボクの女神様の素晴らしさが理解できないサウンドブロックの方がヘンだ。サウンドブロックはボクの相棒なのに、ボクの女神様の尊さがわからないの? がっかりだよ。見損なった)


 え? え? ええええっっ! なんだ、その論法は! っていうか、なんだ? この……蔑むような、憐れむようなガベルの視線は!


 冷たく言い放つガベルの表情もすごくステキで背筋がゾクゾクしてたまらないが、のんびり余韻に浸っている場合ではない。


(二十七日と十八時間二十六分の間になにがあったんだああっ!)


 サウンドブロックが震え上がり、カツンとガベルに当たる。


(痛いよ。サウンドブロック! 大人しくしてよ。前々から思ってたけど、サウンドブロックって落ち着きがないよね? ボクが演台から落ちたらどうするんだよ)


 冷たい……。冷気以上に冷たいガベルの言葉に、サウンドブロックは戦慄する。


(え? ガベルの心が……俺から離れていってる? 嫌だ! そんなのは嫌だ!)


 サウンドブロックがガベルの方ににじり寄る。


(ちょっと、サウンドブロック、どうしたの? 暴れないでよ。これ以上、こっちに来られたら演台から落ちちゃうから。やめてよね!)


 つれない……。

 つれなすぎるガベルの冷たい態度に、サウンドブロックの木目の色が変化する。

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