第4話

 リティスと共に彼女の執務室に入ると綺麗に整頓された書類やシックな家具が目に入って来た。彼女とは会って時間があまりたっていないが男はどこか彼女らしい部屋だなと思っていた。

 長机を挟んでおかれているソファの片方に座ると、リティスは炎と水の魔法を使って紅茶を淹れてくれた。その紅茶を飲みながらリティスはこの国の歴史についてぽつりぽつりと語り始めた。

「……世渡り人様がおっしゃった通り、この国は他国と比べて魔族が多く暮らしています。それも、人間と変わらない生活を送って。」

「王宮の執事とか国王も魔族でしたよね。」

「はい。この国は約七百六十年前までは魔族の国でした。魔族、と言っても世渡り人様が既にお会いしている人型をした魔族のみで構成されている国だったのです。」

 そこからリティスが語った話はこうだ。もともと魔族の国であったこの地を、魔族を異常に敵視する現ディノン王の祖先にあたる当時勇者と讃えられていた者が何百人もの人間の兵士や魔法士を引き連れて魔族の国を攻め落とした。

 そして当時の魔族の国を治めていた王は自分の首を差し出すから他の魔族だけは助けてほしいと言ったそうだ。そうして勇者は王の首を討ち取り約束通り他の魔族の命は取らなかった。そして自身が新たな王となり、国を新しく建国したのだ。

「魔族は長寿な種族も存在します。先程あの場所にいた魔法士のほとんどは祖先が討ち取られ種の存続の危機に晒されたり自身の家族や親戚が勇者にとって討ち取られたものばかりなのです。そういう過去を持ったものが集まっていたのであのような事態に……不快な思いをさせてしまい本当に申し訳ございません。」

「いえ、俺も無神経過ぎました。ただ、一つ質問いいですか?」

「はい、大丈夫です」

「王は魔族なんですよね?けどさっきの話を聞く限り王の祖先が人間側で勇者って讃えられてて、どちらかといえば魔族側に血がつながってる気がするんですけど……」

「そのあたりもややこしいのです。」

 リティスが小さく溜息をつくとこの国の王族について話し始めた。

 確かに先程の話が史実通りなのであれば魔族であるディノン王は確実に討ち滅ぼされた魔族側の血縁のはずである。

 しかし、勇者は国を取っただけで話は終わらなかった。魔族よりも人間が強い、偉い、ということを魔族たちに示すため国がまだ魔族のものだった頃の王妃を勇者が自分の妻に迎え子を成した。この世界では昔の日本のように妻は旦那を立てるために注力することが常識だった。

 そしてその王妃との間にできた子供が人間と魔族のハーフであり、その後も同じように人間と魔族の婚姻が王族の間での掟となり変わっていき魔力量では人間は魔族にどうあがいても敵わないため、魔族の強い魔力に人間の魔力は負けていきどんどん魔族の血が濃くなっていき現王は魔族なのだという。

 この世界での子は夫婦の魔力が混ざり合うことによってできるため、魔族の血が濃くなっていくことは仕方のないことらしい。

 そのため現国王の王妃も人間であり、王女は将来的に位の高い人間を婿に迎えることが既に決定している。ただしこれは、王子が今後誕生しなかった場合の話であり、王子が生まれれば自動的にそちらの方が王位継承件は強くなる。

おそらく王子は王女よりも魔族の血が濃くなった状態で生まれてくるためで、どちらにせよ人間を婿か嫁に迎えないと行けないのだ。

 それがこのアスマティス王国の王族に生まれた子供の宿命なのである。

「なるほど……」

「世渡り人を世界各国が求めるのは魔族にも劣らない魔力を保有しているから、というのも多いんです。我が国は魔族も多く暮らしていますから……」

「事情はよく分かりました。俺もこれ以上魔族の方を傷つけないよう気を付けます。」

「はい。何かわからないことがあれば遠慮なく私に聞いていただいて構いませんので!……すみません、大分時間が経ってしまいましたね。では気持ちを切り替えて本日の本題の魔法の訓練に参りましょうか!」

 

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