トレーニング中に半身不随になった主人の親友。車椅子ラグビーで選手復帰を目指す③
失意と絶望の中、あっという間に月日が流れ、Sは車椅子での生活に慣れる為の訓練とリハビリを行える病院へ転院した。本当はもっと早くに転院する予定だったが、寝返りも打てない状態のせいでSは酷い床擦れになってしまった。
Sの床擦れは手術で取り除かないといけない程、酷い状態だったという。
「一番困ったのは、看護師さんが俺の身体拭きに来てくれるんやけど……。俺、男やん? 感覚なくても朝勃ちすんねん。生理現象やし、仕方ないんやけどさ。恥ずかしすぎて消えたくなったわ」
Sは当時の事を思い出したのか、両手で顔を覆って恥ずかしがっていた。「下半身の感覚がなくても勃つん?」と
「入院生活で一番寂しかったのは、誰も見舞いに来てくれんかったことや。いきなりこんな状態になってしまったから気を遣うし、なんて声をかけたら良いのか分からんやろうけどな」
そう言ったSは少し寂しそうに笑っていた。
◇◇◇
病室にいる時はスマホを弄る、食事を食べる、寝る。病室から出たら、リハビリと検査ばかりの日々を送っていた。
やる事がないSは、寂しさで胸が一杯になっていた。会社やラグビー部の人間がお見舞いに来てくれたが、一回来てくれただけで誰も来なくなったのだ。
勿論、皆が忙しいのも理解しているし、来てくれるだけでありがたい。けれど、Sになんと声をかけたら良いのか分からないという表情を見たら、また気軽に来てや! なんて台詞、とてもじゃないが言えなかった。
そんな中、
「その時に貰ったのが、このお守りや。
Sの首から白いお守りが下げられていた。その言葉を聞いて、
「俺、神様にもう一度走れるようにして下さいって、ちゃんと頼んだんやで! ほんで、いつになったら歩けるようになるねん?」
今はリハビリ施設も退院し、身体障害者用の大型車も購入して在宅ワークに励むSだが、部屋には埃の被ってない競技用の車椅子とラグビーボールが置かれている。
「練習中に怪我して足が動かんようになってしまったけど、ラグビーは好きやからな。車椅子ラグビーの選手として舞い戻ってやろうと思ってるねん。それが俺にできる唯一の恩返しや」
Sは白い歯を見せながら笑う。このエッセイには書いていない大変だった出来事が沢山あるが、Sは今も前向きに生きている。
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