トレーニング中に半身不随になった主人の親友。車椅子ラグビーで選手復帰を目指す②

 足が動かなくなった日、Sはバーベルを担いでトレーニングを行っていた。身体も温まっていたし、今日は自己新記録を狙おうと調子に乗っていつもよりも、プラス5キロ程重くしていた事を今でも覚えているという。


 バーベルを担いだ状態でゆっくりと腰を落とし、徐々に足に力を入れ、それから慎重に元の体勢に戻り、またゆっくりと腰を落とす――いつも通りのペース配分でトレーニングをしていたつもりだった。


 パキッ……。


 首に違和感が走った。嫌な予感がしたSは急いでバーベルを元に戻し、ベンチシートに座って首を摩る。痛みはなかった。だからこそ、対応が遅れてしまったのだとSは話していた。


「あの時の音が未だに忘れられんへんねん」


 Sは首を摩りながら、続きを話してくれた。


 暫く安静にしていたら、だんだん足に力が入らなくなってきたという。さすがにこれはまずいかもしれないと感じたSは、トレーニングに付き合ってくれていた上司に救急車を呼んで欲しいと声をかけた。


 救急車が到着した頃には、完全に足に力が入らなくなっていた。救急隊員に足が動かないと伝えると、男四人がかりでストレッチャーに乗せられ、病院に到着するまでの間、いくつか質問を聞かれていたという。


 身体に異常が起こっていたのは明らかだった。

Sは不安を抱いたまま病院に到着してすぐに手術室に入った。だが損傷が酷く、既に手の他の施しようのない状態だったらしい。


「何もできませんでした」


 Sは何を言われているのかが分からず、「僕は今、どういう状態なんですか?」と聞き返す。


 すると、医者は険しい表情で「脊髄が損傷しています。リハビリをしても歩けない可能性が非常に高いです」と断言したのである。


「も……もう一回、詳しく説明して下さい。すみません、できればもう少し分かりやすく……」


 突然の事にSは激しく動揺してしまい、医者が何を言っているのか理解できなかった。多分、医者は分かるように丁寧に説明してくれたと思う。けれど拒否反応が出たのか、先生が話してくれている途中で吐いてしまった。

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