トレーニング中に半身不随になった主人の親友。車椅子ラグビーで選手復帰を目指す①

「キャタピラー!! 歩けるようになったか!?」


 大熊猫パンダが車椅子に乗る身体の大きな男性に向かって駆け寄っていく。私は大熊猫パンダが発した台詞に内心ヒヤヒヤしながらも、二人の側に近付いていった。


大熊猫パンダの奥さん、初めまして! Sといいます! この通り、大熊猫パンダとは大の親友です!」


 Sは久しぶりに大熊猫パンダと会ったのか、熱い抱擁を交わしていた。私はSの大きな手を握り返すと、手のひらに新しいマメができている事に気が付く。


「初めまして、ぽんずと言います。主人が失礼な事を言ってしまい申し訳ありません」

「全然、大丈夫です! 大熊猫パンダとは、この会社に入社してから長い付き合いですし、僕がこの状態になっても変わらない態度で接してくれる数少ない親友ですから、逆に感謝してます!」


 私の心配をよそに、Sは白い歯を見せてニコニコと笑ってくれた。Sの話を聞くと下半身付随になってから、多くの友人達が気を遣っているのか、よそよそしい態度で接してくるようになったらしい。


 Sがそういう事をされるのが嫌だとなんとなく察しているのか、大熊猫パンダは足が動かなくなる前と変わない態度で接しているようだった。


「あ! ごめん、ちょっとトイレ行ってくるわ! 尿意やら便意を感じへんから、定期的に行かな大変な事になるねん……」


 Sがゴニョゴニョと文句を言いながら席を外した後、「ちょっと! いくら親しい友達でもキャタピラって呼ぶのはやめときや!」と慌てて注意した。


 だが、大熊猫パンダは少し考え込んだ後、真面目な顔付きに変わる。


「俺がSの事をキャタピラ呼びするのはな、アイツが今にも歩き出しそうな気がするからやねん。だって、未だにSが下半身付随なんて信じられへんし、俺を嵌める為にわざと車椅子乗ってるような気がしてならんのよなぁ……」


 恐らく、この二人にしか分からないモノがあるのだろう。

それ以上の事は何も言わなかったが、Sがトイレから戻ってきた後、大熊猫パンダとSは当時の事を話し始めたのだった。

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