どうして、春になったら変態が湧いて出てくるのか?〜最近の変態達が賢くなっていて驚いてしまった話〜③
電車を降りた私は連絡通路を早歩きで通り、動物園前駅のホームに降り立った。幸いな事に駅のホームには飲み会帰りの女性客数人がいた。
安心した私はポケットからイヤホンを取り出し、Every Little Thingの〝fragile〟を聞き始めた。その頃の私は1990年代頃の音楽を夢中で聞いていたのを今でもよく覚えている。
その変態に遭遇してしまったのも『出会えた事から全てが始まった――』のフレーズに差し掛かったタイミングだった。
「っ!? び、びっくりした……」
結構な勢いで誰がぶつかってきたので、私は驚いてしまった。この時はまだ小心者だった為、スマホを弄っているフリをして、ぶつかってきた相手をチラリと見る。
私にぶつかってきたのは、ネイビーのトレンチコートを着た身なりの良い紳士だった。しかし相手はかなり酔っているのか、耳や首の後ろが異常に赤黒くなっている。
私はアレに絡まれたら厄介な事になりそうだなぁ……と思ってしまった。
なぜならイヤホンを装着したままの状態でも、うにゃうにゃと大きな声で何かを言っていたのが丸聞こえだったし、ちゃんとした日本語が喋れないくらい呂律が回っていなかったからだ。
警戒した私はボリュームを小さくし、近くにいた女性客を見た。酔っ払いの男が彼女達の側を通り過ぎたにも関わらず、楽しそうに談笑し続けている。
やっぱり、偶然ぶつかってきただけか――。
そう判断した私はスマホに意識を向けた。しかし数分経過した頃、紳士はまたしても私にぶつかってきたのである。
不意打ちをくらった私は驚いて背後を振り返った。紳士はよく見ると頭の天辺が薄くなっていた。ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、相変わらず大きな声で訳の分からない言葉を喋っている。
同じ日本人であるはずなのに、何を喋っているか全く聞き取れず、私は恐怖心を抱いてしまった。
(やっぱり、深夜は怖い人が多いな。夜の〝新世界〟は、きっと〝魔境〟に変わるんだ。これからはバイトも終電に間に合うように上がらせもらおう……)
そう誓った私はボリュームを更に下げ、楽しそうに談笑する女性客の側に移動した。鞄をギュッと握り、電車が来るまで辺りを警戒する。しかし、相手も私が警戒しているのを感じたのか、近くで姿を見かける事はなかった。
暫くして電車接近のメロディが鳴り響く。このまま目的の駅に辿り着けるかと思ったが、本格的な事件は私が電車に乗った後に起こる事となる――。
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