EP10 新たなる未来へ

一騎かずき美衣名みいな!」

「ヒデ先輩!」

まもるさん!」


 英人ひでとと衛が、一騎と美衣名に合流する。


「大丈夫ですか、衛さん!」

「おいこら妹よ、俺には一言もなしか」

「お兄ちゃんの心配なんてしてないわよ、と」


 英人に手を貸すように、美衣名も衛を支える。


「行こうぜ。アニキと時宮ときみや先輩んとこによ」


     ※     ※     ※


「星から与えられた力、だと……!?」

「そうだ。俺たちブレイク・エージェントに代表される、25世紀後半から、26世紀初頭の能力者たちは皆、例外なく星からの生命エネルギー供給を受ける事で、その力を行使する事ができる」

「何? この力の源は、私たちの生命力ではないのか!?」

「そうだ。俺たちはこの力を星から与えられ、星の為に働かされる奴隷みたいなもんだ。だが星は気付いていない。このまま俺たちに力を供給し続ければ、星の未来はこんなもんじゃ済まないって事に」


 A.D.2700。世界は死の星となった。だが、これよりも恐ろしい未来が、この星にはあると言う。


「……だが、俺にはそんな事はどうでもいい。火渡ひわたり氷哉ひょうやたち21世紀の能力者たちが持つ力は、俺たちの物とは似て非なる物だ。あれと同じ力を手に入れられる可能性はゼロじゃない。俺は、それを見てみたい」

「……随分と他人任せな願望だな。自分が手に入れようとは思わないのか?」


 あいの蹴りをガードし、悠邪ゆうやは呟く。


「この紛い物の力でそれができれば、な」


     ※     ※     ※


「星は自らが力を与えた者たちによって滅ぶ。過去も未来も全て捧げて! ならば私は、星の歴史を守り、存続させる道を選ぶ!」

「なら……僕は!」


 しゅんの放つ衝撃波に対し、氷哉が返す衝撃波がそれを相殺する。


 僕は――。


     ※     ※     ※


「貴様が私だけを残した理由は分かった。だが、一つだけ問おう。何故私なんだ」

「簡単な事だ。お前が、火渡と同調した者だからな」

「何……!?」


 哀の出現地点に現れた悠邪の蹴りが、哀の身体を弾く。


「俺は火渡さやかのクローン細胞を使って作られた能力者だ。そしてそれは、俺が火渡の子孫だからこそ適合した」

「貴様が、氷哉たちの……!?」

「ああ。明らかに因果律が矛盾しているが、それは瞬が消した。奴が『最果ての魔術師』とか呼んでる力でな。だから俺は火渡一騎と同調した。当然の結果だ。だがそれはただ似ているだけだ。俺自身の、25世紀の能力者という全く別の核に、火渡の力を上塗りしただけの紛い物だ。しかし、お前はどうだ? お前は血の繋がりもなく火渡氷哉と同調した。それは純粋に、能力の性質が同じだという事に他ならないんじゃないかと俺は考えた」

「私の力……。同調……」

「お喋りは構わないが、余所見はするなよ」


 哀がハッとして悠邪の姿を追う。

 だが、追う間もなく現れた悠邪の拳が哀の腹部に直撃する。


「ぐは……っ!!」


 これに堪らず、哀の身体が崩れ落ちる。

 雪の上に倒れ伏す哀に、悠邪は追い打ちを掛ける。

 首を掴み、圧迫していく。


「骨が折れるか、息が止まるか、どっちが先だろうな」


 死。

 私の力。

 星の力。

 同調。

 氷哉の力。

 死を前にして、哀は自らの生命力を確かに感じた。

 同調の感覚。あの感覚を思い出せ。

 最初は不快に感じた感覚だが、あれがなければ氷哉と出会えなかった。氷哉に感情を揺さぶられる事もなかった。彼と、想いを重ねる事もなかった。


 氷哉――。

 私の力が、星の力が私たちの未来を奪うなら。

 私はこんなもの要らない。

 氷哉。君と同じ力が欲しい。君のように、自分の想いを力に変える事が出来るなら――。


「はあああああああああああああああああああああああああっ!!」


 哀の咆哮が木霊する。


 氷哉――!!


     ※     ※     ※


「哀……?」


 氷哉は自身と強く共鳴する力の存在を感じた。


     ※     ※     ※


「私は未来を作りたい。氷哉たちと生きて行く未来を……。誰かに決められた未来なんて願い下げだ!」


 哀の力が炸裂する。哀の姿が消えては悠邪の前に現れる。悠邪のテレポートは、できているのかいないのかも分からない程、哀のテレポートの速度がそれを上回っている。いや、速度ではない。時空間の移動を、哀が完全に制圧しているのだ。


「これが……、これがお前の本当の力か……!」

「終わりだ!」


 哀の手刀が、悠邪の胸部を貫く。悠邪の身体が、その動きを、熱を失っていく。

 悠邪の身体が完全に動きを止めた所で、哀は手刀を抜いた。

 悠邪はその場に倒れ伏す。


「ハァ……ッ、ハァ……ッ! 氷、哉……!」


 歩き出そうと哀が足を踏み出すが、その足が崩れ落ちる。

 だが、そんな彼女の身体を支えてくれる存在があった。


「哀ちゃん!」

「衛……、みんな……」

「あとは氷哉を迎えに行くだけだな。行こうぜ、時宮」


 哀は頷いた。


     ※     ※     ※


 氷哉は自身の中に共鳴する力を確かに感じる。


「僕は……」

「氷哉。私はこの世界の果てを知る者だ。星は未来と歴史を全て捧げ、何もかもをも亡くした。無だ。星の最果てには無しか残らない。それでも君は、私と戦うのかい?」

「ええ。僕は……」


 世界の果てが無であると言うのなら、瞬の作り上げたこの世界も同じだ。例え歴史という形で星の過去が保存されたとしても、未来がなければ意味がない。


「A.D.2506で能力者たちの力を強制的に開放したのは、世界を滅ぼし、敢えてこの時代を作る為、ですか?」

「その通りだ。2500年代の能力者の力は今、さやかに支配されている。事が終わった後、星の力を使い尽くす前に能力者を全て消し去る。最後に私が消えれば、世界にはもう二度と能力者は生まれない。星の歴史は永遠に保存される」

「……させない」


 共鳴が、勢いを増す振り子のように。氷哉の力を増幅させる。


「させはしない。あなたが過去だけを選ぶと言うなら、僕は未来も過去も、両方を選ぶ」


 氷哉の放つ衝撃波と、瞬の繰り出す衝撃波の激突。


「みんなと……。哀と、さやかと、英人と一騎と、美衣名ちゃんと衛さんと……! みんなと進んで行く未来の無くなった世界なんて、僕は認めない!!」


 新しい未来を作る。未来のない世界など、それこそ何もないに等しい。

 未来を作り、今を守る。それは過去を保存する瞬の目的をも内包している。


「はああああああああああああああああああっ!!」


 山が震える。この時代に唯一、雪の降らない場所で、二人の力が交錯する。


「哀が……。いや、みんなが、力をくれる」


 共鳴は広がっていく。二人の力の振り子が揺れれば揺れる程、世界に、星の記憶に広がっていく。


「これは……! 星は求めているという事か……! 自らの未来を……!!」


 瞬の身体が衝撃の波に呑まれ、消えて行く。


 ――おにいちゃん。


「さやか……。分かったよ」


 氷哉は力の行使を止めた。そこに、哀たちが駆けて来る。


 ――おにいちゃん。


「さやかが呼んでる。行こう」

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