EP6 矢はそれぞれの未来へ
ずっと、深い闇のそこにいた。
そう。多分、これからも。
けど、ずっと聞こえていた。
見えない光の中から、自分を呼ぶ声が――。
※ ※ ※
A.D.2506年。9月。
「おはようございます、
「やあ、
「はい。三年ぶり、くらいですね」
「そうか。もう三年か……」
瞬は天井を見上げる。
その月日の流れに思いを馳せているのだろう。氷哉もそれに倣う。
三年。思えば、長いようで短い月日だった。
「ところで、瞬さん。僕に用事というのは?」
「ああ。今日を以って君のリハビリ期間を修了し、チームに戻ってもらう事になった」
「え、じゃあ……」
「
瞬の言葉に、氷哉はまるで幼子のように喜びを露わにした。
そう、三年だ。見せてもらうよ、氷哉。この月日の流れの中で、君がどう変わったのかをね。
※ ※ ※
「やっっっっっっっっとお帰りかよ、氷哉ぁ!」
「痛い、痛いよヒデ!」
「うるせぇ通行税だ通行税! ウチの敷居を跨ぎたきゃあ大人しくしてろっ!」
英人は散々氷哉の肩を叩き、やがて腕を氷哉へ向けて突き出した。
「よく帰って来たな、ダチ公」
「うん、ただいま!」
「ったくビックリしたぜー? 何にも言わずにいなくなっちまいやがって! なんだよ、能力が足りないから研究施設で調整ってよぅ! おまけに連絡もまともに取れやしねぇんだから、
「あはは……、ごめん」
「ま、いいってことよ! さ、行こうぜ! まずはお前のお帰りパーティーだ! そいつが終わったら、チームの顔合わせがあるからな!」
※ ※ ※
「さて、今日付でチームに復帰する、
「えっと……」
氷哉の目に留まったのは三人だ。
「
「
「
「火渡氷哉です。よろしくお願いします」
自己紹介を終えると、メンバーは各々の席に着く。
「では早速だが、指令を伝える」
※ ※ ※
反クロノブレイカーズ勢力が、施設の一部を占拠・強奪した。それを奪還するのが今回の任務である。
「そう簡単に通らせてはくれないか……」
「十秒で片付ける。行くぞ、氷哉、
「はい!」
しかしここにも、反勢力の者たちは警備体制を敷いていた。
彼らを瞬時に薙ぎ倒し、氷哉たちは螺旋階段を駆け上る。
「氷哉君、哀さん、ここ!」
先行する美衣名が、オペレーションルームのある階へ辿り着く。氷哉たちは施設内部へと侵入した。
※ ※ ※
「がら空きってほどでもねぇが、楽勝だなこりゃあ!」
こちらは英人率いる二班である。彼らは地下駐車場を奪還し、三班の陽動となる事が目的だ。
「いや、そうでもないみたいだぜ、ヒデちゃん」
「あーらら……」
「大丈夫、がんばろっ!」
「もちろんですよ
※ ※ ※
悠邪、風香、矜介の一斑は正面ゲートからの突破が目標である。
「矜介、風香。五秒で片付ける」
「あいよッ!!」
「りょーかーい!」
※ ※ ※
初期化された自我。
塗り替えられた記憶。
※ ※ ※
「行くぞ。あとは強行突破だ」
「もちろん!」
氷哉たちはオペレーションルームへと辿り着く。
敵襲に怯む彼奴らを倒し、奪還に成功する。
「任務完了。あとは、指揮系統を失った彼らを各個撃破するだけだ」
※ ※ ※
それは全て、この三年という月日の中に存在する為の、偽りの光。
繰り返される真実と、偽りの交差の中。
少年は堕ちていく。
※ ※ ※
「!?」
順調に任務をこなしてきた氷哉たちだったが、しかし氷哉と哀が、突如として立ち止まり、膝をつく。
※ ※ ※
いくらもがこうと、抜け出すことのできない深い闇の底へ。
二度と取り戻せない全てを捨てて。
※ ※ ※
「これ、は……」
「同調……!?」
※ ※ ※
少年は目覚める。
※ ※ ※
氷哉が辿り着いた部屋の中は、淡い緑色の光で包まれていた。
それは、部屋の奥に鎮座する液体ポッドの中身の色である。
「これ、は」
その中身を確認したとき、氷哉は頭を抱えてその場に崩れ落ちた。
激痛の中、氷哉の顔が憎悪に歪む。
「
※ ※ ※
――全ての運命をも変えられる力を手にして。
※ ※ ※
「アニ、キ」
一騎は導かれるかのように、氷哉と同じ部屋に辿り着いた。
「一騎……。思い出したよ、全部」
「なに、を……」
一騎は、部屋の奥のポッドを見上げる。
そこに眠っている、一人の少女の姿を、双子の弟である彼が見紛う筈はなかった。
「なんで、なんでこんな所に……!! さやか!!」
「一騎、お前は、沢渡瞬が正しいと思うか……?」
「は? 何を……」
「答えろ!!」
一騎が気付いた時には、その額に銃口が突き付けられていた。
「答えられないなら、殺す」
※ ※ ※
「悠邪、もうすぐ準備が整う。オペレーション・ディザスターの発動は近い」
※ ※ ※
「そこまでだ」
一つの銃声が室内に轟いた。
しかしそれは、虚空に向かって打ち出された威嚇射撃である。
哀、英人、衛、美衣名も合流した事で、五対一の戦闘になった室内は、しかし怒りに暴走する氷哉の圧倒的な力を前にしては誰も太刀打ちできなかった。
そこに現れたのは、
「海神……悠邪!!」
「おっと」
五人でも歯が立たなかった氷哉の力を、悠邪は軽々と越えてみせた。
「うあああああああっ!!」
「温いな」
そのまま弾き飛ばし、氷哉を一撃で戦闘不能にする。
そして興味がないと言わんばかりに、氷哉には目もくれずにポッドへ近づく。
「さや、か……」
「まだ、こいつをお前に返してやる訳にはいかないんだとよ。悔しいか? それとも悲しいか? いずれにせよだ。貴様という存在を証明して見せろ。貴様は誰なのか、何の為に戦うのかをな。……ったく、胸クソ悪ィ」
さやかを連れて、悠邪はその場から消えた。
※ ※ ※
泣いている? 誰が?
哀は目を覚ました。氷哉との戦闘で意識を失っていた彼女は、誰かの泣き声が聞こえたような気がして意識を取り戻したのだ。
「氷哉?」
「馬鹿だ、僕は……。怒りに任せて、何もかもを失くして……」
「氷哉……。私は、ここにいる」
「哀、さん……」
「しかし、これからどうしたものか……」
と、ここで突如、哀の身体をかすかな倦怠感が襲う。なんという事のない程度のものだったが、哀はその正体に即座に思い至る。
「これは、ジャミング……!?」
そして、部屋のそとから騒々しい音が近付いてくる。足音である。
「――以上六名、確認しました」
それは軍用の特殊スーツに身を包んだ兵士たちであった。彼らの中から一人が哀たちの前に歩み出てくる。
「トライユニヴァース王国軍、兵士長のアルと申します。あなたがたの保護にやって参りました」
「保護、だと……?」
哀は言外にジャミングなどしておいてか、と兵士長を睨み付ける。
そんな哀をよそに、氷哉は立ち上がって彼女の前に立つ。
「トライユニヴァース王国、と言いましたよね?」
「はい。確かに」
兵士長・アルの言葉に、氷哉は哀へと頷いて見せる。
「行こう、哀さん。ジャミングは彼らの身の安全が確保できるまで仕方ないよ。でも、彼らなら信用できる」
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