第64話 妖精族
「え、妖精ですか?」
あのふよふよした光が妖精?妖精と言えば小さな人型に羽が生えていて、過激な
「うむ。奴らはまさしく虹湖を出入り口に使っていてな、昔は竜族や人族とも交流があったのだが、時折、気に入った他種族の子供を自分の国に連れて行くのよ」
「連れて行かれた子はどうなるのですか…?」
エッラも伝説を知っているのだろう、不安そうに聞いた。
「特に危害は加えられぬと聞くぞ。あ奴らは悪戯が過ぎるゆえ、変な伝説が付きまとっているのじゃろな。なにしろ気に入った者だからの、危害どころか、加護を与えて一生面白おかしく共に暮らすらしいぞ。だが妖精国は時間の流れが
「なるほど、妖精たちの仕業となれば納得ですね。お嬢さんには竜の里への
ヴィントが頷いた。
「…知らぬこととはいえ申し訳ございませんでした。本はお返しします」
「ふ、ははは!いや、連れ去られなくてよかったの。部屋に欠けが出来たことで妖精の術が解けたのじゃろう。雷様に感謝だな。そなた、色々厄介なものに好かれるようだ」
ヒュドラムがリュクスの方を見て、大笑いをした。
「うむ、危なかったな主。普遍語を操れるようになってから連れて行こうとしていたのだろう。しかし主は、いつも私の想像を超えてくるなぁ」
リュクスはくくっ、と笑ってマグノリアを見た。
滅多に笑わない男の笑顔を見て、一行は驚いた様に目を瞠り、ヒュドラムは興味深そうにマグノリアとリュクスの顔を見比べた。
当のマグノリアは居たたまれなくなる。
「そ、その『普遍語』っていうのが古代語のことなの?」
「うむ?今はそう呼ばれているのか。そうだ、原種族が使っていた言葉だな」
「原種族?」
「銀の…いや、リュクスよ、お主が眠っている間に世の中は随分変わってしまったのよ。原種族は今は『神』と呼ばれておるぞ。竜族も人族も原種族の末裔なのだがな」
エイラードからやって来た者たちは話の展開について行けずに、ただ見守るしかない。
「そうなのか」
「うむ。妖精族や竜族はまだ原始の魔法を保っているがな、人族はその数を増やし、魔法も量や質を変えつつあるのだ。いずれ我らとの交流もなくなるやも知れぬ…そうなれば我らも…」
ヒュドラムは
「さて、これで我らの疑義は一応晴れたわけだが、そちらも何か聞きたいことがあってやって来たのであろう」
気を取り直したらしいヒュドラムが、王子に問いかけた。
「はっ、そうでした」
ゼルスタンが背筋を伸ばして、胸ポケットから厳重に包まれた小さな箱を取り出した。中には小瓶が納められている。
「こちらなのですが」
そう言って、エイラードで近年起こった一連の事件を説明した。
聞きながらヒュドラムは小瓶を不機嫌そうに眺めていた。おおよそ中身を察しているのだろう。
「つまり、この中身の出所を知りたいわけだな…」
「ああ。最近死んだ竜はいるのか」
マグノリアはまた失礼な聞き方をするリュクスにハラハラとする。しかし当の竜は気にしていないようだ。
「うむ、少し前に里を出て行った者がいる。南方の、竜を信仰している部族の傍に行くと言っていた。あの地竜の親竜だ」
「長よ、私が見て参りましょうか」
「む、ヴィントよ、行ってくれるか」
「はい、数日中には戻って参りましょう」
神妙な顔で一つ頷くと、ヴィントは
「では、ヴィントが戻るまでこの里でゆるりと過ごすが良い。部屋も十分にあるし、食料は狩場があるゆえ好きに使え。作物も少しは育っているやもしれん。里から出ぬ限り危険もあるまい」
それだけ言うとヒュドラムも去っていった。
一同はようやく一息ついて力を抜いた。
「驚くべきことばかりで、頭が痛いな…」
ゼルスタンが溜息まじりにぼやいた。さすがのアントンも疲れた顔で頷く。
「いやはや、全くですね…我々人間がいかに狭い世界で生きて来たか…」
「けど、当面の問題は『肉』ですよね。狩場があるって言ってましたよ。狩りに行きましょう、晩御飯を!」
キャットが両の手を握りこぶしにして、力強く言った。
「…まあ、そうだな。よし、手分けして色々見て回ろう。決して一人にならないように、特に女性は気を付けてくれ」
「了解です!」
マグノリアはエッラとナタン、ギネヴィアと共に館の外へと散策に出た。先ほどハーブ園らしきものを見かけたので何か副菜になるものでもないかと見に来たのだった。
リュクスはイーアンに請われて狩りへ行った。渋っていたが、赤竜と地竜も誘えば安全だとイーアンに説得されて仕方なく付いて行ったようだ。あるいは、マグノリアがキャットに
ハーブ園はというと、長い間手入れがされていないわりに、様々な種類の薬草が茂っていた。お肉に合いそうなハーブを何種類か摘み、キイチゴやチェリーもなっていたのでエッラと騎士たちがワイワイ言いながら収穫している。
マグノリアは背丈の高いミントを摘もうと茂みをかき分けて、丸く綺麗な石が置かれていることに気が付いた。
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