第18話 取り調べ
マグノリアは、領主の館の小さな部屋にいた。他には騎士が三人いて、その内の一人はこの領主館の三男、エミリオだ。とてもバツの悪そうな顔をして、椅子に座る男の後に立っている。
「さて、ヴァイスマン嬢?」
マグノリアの前に座り、足を組んでいた男が口を開いた。彼は騎士隊の隊長でシルトと名乗った。
三十前くらいだろうか、薄茶色の髪に曖昧な青色の目、そこそこ整った顔をしている。
―でもこうして見ると、エミリオさんの方がハンサムね。それに偉そうに見せようとしているのか、足を組んでいるけど、毎日リュクスの尊大な態度を見せられているから、ちょっと安っぽく見えるわ。
そんなどうでもいいことを考えていたら、返事がないことにイラついたのか、シルトが再び言った。
「ヴァイスマン嬢!どうだね、容疑を認めるか」
眉を吊り上げると眉間のしわが深くなって、三白眼気味になる、ちょっと残念なイケメンだ。まともに現れたなら、工房の女性たちの熱い視線を集めただろうに。
そう、騎士たちは突然工房に現れて、聞いたこともない薬の話をして、主にシルトが工房内を荒らして行ったのだ。書類やレシピをぶちまけ、蒸留室を破壊した。―あとで絶対弁償させてやる。
「何度も言いますけど、身に覚えのないことを聞かれても答えようがありません」
「身に覚えがないのに、なぜこんなものが見つかるのだ」
シルトは赤黒い液体が入った小さなガラス瓶を、指に挟んで振って見せた。
「だから何ですか、それ?」
「何かって?君が一番よく知っているのではないか?セイン・リーゼンバウムの身内である君が」
「…なぜ叔父の名が出てくるの」
「質問はこちらがしているのだが。まあ、いい。教えてやろう。これはな、死人を生き返らせる薬だ。十年前、焼け死んだ子爵家が扱っていたものだ。君もその一味だったのだろう?それで今もこうして密かに薬を作っているのだ」
十年前といえば、マグノリアはまだ十才にもなっていない。そんな年端もいかない子供を犯罪者の一味などと断ずるのはいくら何でも無理がある。
「へえー、初耳です。そんな薬があるんですか。教えてくださってありがとうございます。材料は何で出来ているんですか」
シルトは机をバンっと叩いた。
「シラを切るんじゃないッ。工房から見つかったのが何よりの証拠だ!」
目の前に座る人物が犯罪者に違いないと言わんばかりの粗暴な振る舞いだ・
だが
「知りませんたら、知りません。私たちが何年も真っ当に働いてきたことは、ここの領主様だってご存知ですよね?」
マグノリアはエミリオの方を見た。
「う、うん、そうだね。隊長、やはり何かの間違いでは…」
「黙れ、エミリオ!そもそも、この娘の居場所を漏らしたのはお前の婚約者だろうが。こいつは国家の
シルトの言葉にエミリオは何も言えなくなった。その剣幕に、もう一人の騎士も驚いているようだ。
「…そういえば、君の養父、ヴァイスマン博士だったかな。彼も何かの間違いだと訴えにここに来たよ」
その言葉にマグノリアがシルトの顔を見た。
「彼もまた、魔法の研究をしていたのだったね。もしかして
「…
「そうか?では彼に聞いてみようか。君がやったのか、それとも彼が犯人なのか」
シルトは身を乗り出して、意地の悪そうな笑顔をマグノリアに近付けた。
そんなことになったらお人好しのラスのことだ、マグノリアを庇って「自白」するかもしれない。いや、そうはならなくても養父の仕事や生活を盾に自供を迫ることだって考えられる。
この男は、理由はわからないが、どうしても犯人を仕立て上げたいようだ。
「…それが騎士のやり方ですか」
「何?」
「人を脅して、証拠をでっち上げて。それが正しい騎士のやり方かって、聞いてんの!」
「何だと?罪人の一族のくせに!」
「あなたみたいな汚い人が『罪人』っていうんだもの。やっぱり叔父様は無実だったんじゃないの?今みたいにでっち上げたんだわ!」
マグノリアは椅子から転げ落ちた。床に手をついて、シルトに殴られたのだということをようやく理解する。同時に左頬に鋭い痛みと、口中に広がる鉄臭い味を感じた。
「「隊長‼!」」
二人の騎士が慌ててシルトを押さえに来た。
「いけません、隊長。被疑者に、しかも女性に手を挙げては!」
薄い色の金髪を短く刈りあげた騎士が、シルトの腕を掴んだ。その隙にエミリオはマグノリアを助け起こした。
「離せ!その女、さっさと吐かせてやる」
強い力で金髪の騎士が振り払われる。再びシルトは鬼の形相で、エミリオが庇っているマグノリアに手を伸ばした。
だが、次に吹っ飛んだのはシルトの方だった。
シルトは壁に打ち付けられ、うめき声をあげている。騎士たちは恐る恐る顔を上げた。そこにはひどく冷たい顔をした、黒衣の男が立っていた。扉が
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