第15話 竜は竜でも……
ソルダムさんは剣を鞘に戻して、諦めの混じる声を落とす。
「とことんやるつもりだったけど、ここまでみたいだな。
私は彼のこの言葉に納得ができず、声をぶつけようとしたんだけど、エイの手によって口を塞がれた。
「ちょっと、なんで簡単にあきらめ――あぶっ」
「彼は俺たちを守るために言ったんだよ。このままだと、弓矢がこちらに飛んでくる」
「それはそうかもしれないけど……」
「フフ、彼は殊勝な若者だな。自分の気持ちを押し殺してまで、俺たちを守ろうとするなんて。その気持ちを汲んで、ここで
「はっ?
「それじゃあ、この状況はどうするんだい?」
「それは~~~~~~あ、そうだ。エイの超能――」
「法に抵触するから無理」
「この、あたまでっかち。それじゃ、それじゃ、それじゃ」
私は何か良いアイデアはないかと頭を捻る。
だけど、時間はあまりない。
すでにソルダムさんは諦めて、腰に差していた剣を鞘ごと抜いて、集落の人に渡そうとしている。
「あああ、もう、なにか――はっ!? エイ、竜神は今どこにいるの?」
「お、いい着眼点。竜神が出てくるまで時間稼ぎをして、この場をカオス化しようって魂胆だね」
「そのとおり! で、竜神は?」
この問いに、エイはにこりと笑って、地面を指差してこう答えた。
「ここだよ」
彼の声と同時に、ドシンとした揺れが響き、夜の静けさに溶け込んでいた木々たちは葉をこすり、ざわめき始める。
この音を聞いたソルダムさんは差し出そうとしていた剣を引っ込め、チェリモヤおじいさんや集落の人たちは慌てた様子で周囲を見回した。
ドシンドシンとした音は幾重にも重なり、揺れは次第に大きく近づいてきて、森の闇深い場所にある茂みから神の名を冠する巨体が現れる。
「ひ~、りゅ、りゅうじんさまじゃあぁぁぁ~」
歯の隙間から抜けるような情けないおじいさんの声に混じり、他の人たちの悲鳴のような声が弾ける。
私は茂みから姿を現した竜の姿を目にした。
トカゲのような顔。巨大な頭に鋭い牙。土色の皮膚になが~い尾っぽ。やや前傾姿勢で、小さな手が胸元にちょこんとついている。全長は5m前後。
背中には竜に付き物の羽などはなく、頭にも角なんかはない。
私は竜神らしき存在に対して指を差しながら、エイに問い掛ける。
「あの~、アレが竜?」
「ああ、そうだよ」
「でも、あれってさ、竜は竜でも……恐竜じゃん」
そう、姿は三畳紀・ジュラ紀・白亜紀にいた恐竜そっくり。
私の思い描いていた、身体が寸胴ででっかい羽根のある竜でもないし、蛇みたいにひょろ長い胴体を持つ龍でもない。
私は恐竜そっくりな竜神の姿をまじまじと観察する。
唾液が滴り落ちる鋭い牙。想像よりも身長は低いけど、月の光を浴びて巨体から伸びる影は小さな私を飲み込む。
(強そう……)
両手首に装着した肉体強化の道具シャムシャムのおかげで、私の身体機能は地球人の超一流の格闘家クラス。
だけど、あの獣の前では通じなさそうな……。
(考えてみたら、どんなに強くても人間じゃ熊にだって勝てないよね。ど、どうしよう?)
心から滲み出てきた恐怖が手を震えに包む……ちょっとだけ考え無しだった自分を反省。
と、ここで、突然ソルダムさんが大声を上げた。
「ユニ、エイ! 村の男衆がいる状況じゃ、もはやどうにもならない! だから、お前たちは逃げろ。俺が時間を稼ぐから!!」
彼は剣を抜いて構えを取る。
その姿に竜神はのそりと巨大な頭を彼へ向けた。
その動きに合わせて、
「お前たち、竜神様に敵意を向けるんじゃない。弓を仕舞え!!」
弓が竜神に当たるのを恐れてか、彼らは手を下げた。おかげで私たちに向かって弓を射られるという状況は回避できたけど……それ以上にヤバい気配が辺りを包む。
私はエイをちらりと見る。
彼はおじいさんたちの様子を見ながらふむふむと何かを納得した様子を見せていて、竜神に意識を向けていない。彼は文化とやらを守ることが優先で、手出しする気はないみたい。
ここは私とソルダムさんだけで何とかしないと……だけど、怖い。でも、怖がっていても仕方ない!
だったら、とにかく――気合しかない!!
――エイ
エイは
(なるほど。竜神はクニュクニュの契約に縛られて人は襲えないが、敵意を向けた相手には人であっても攻撃できるとみられるな。そのことをチェリモヤはわかっていて、すぐに弓を下ろさせた。つまり、こちらも無暗に敵意を向けたり攻撃をしたりしなければ……)
「ユニ、ひとまず落ち着いて――」
「うぉぉぉぉぉぉ!! 気合じゃぁあぁあぁぁ!! 先手必勝!!」
ユニはくすんだ白いローブを脱ぎ捨てて、身軽な学生服姿となり、ソルダムへ意識を向けている竜神に突貫して拳を振り下ろす。
その姿を見送ったエイは虚脱の混じる溜め息のような声を漏らした。
「あああああああ、もう……」
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