第11話 姫を救いに来た王子様

 私はソルダムさんの秘めたる想いに触れるため、言葉を重ねる。


「竜神を倒すためにいろいろ頑張ったのはわかったよ。でも、そこまでしてるのに、他人の私たちに協力を求める必要あったの?」

「それについては、正直迷った。だが、君もエイさんも、並々ならぬ腕前の持ち主と見た。だから、思い切って持ち掛けたんだ」



 現在、私はシャムシャムと言う道具で地球人ではトップクラスの実力者。

 エイは強化ボディを纏って超能力も使える。

 さすがに力の中身までは見通していないだろうけど、佇まいから私たちを凄腕と判断したみたい。

 それができるってことは、ソルダムさんもまた、かなりの凄腕なんだろうな。

 

 だけど、それだけじゃ理由は足らない。

 彼は本当の理由――いえ、想いを隠してる。その想いの中身はわかりきってるけど……でも、切り込んじゃう。


「私たちが強いから力を借りたい? じゃあ、足らないなぁ」

「え?」

「絶対に失敗したくないから、勝利の可能性を高めるために声を掛けたんでしょ?」

「そ、そうだけど、それはあたりまえ――」


「ナツメさん」

「うぐっ!」


 ナツメさんの名前を出しただけで、ソルダムさんの顔は真っ赤になって、頭から蒸気まで出してる。


 私はにやにやしながら言葉を続ける。

「どぅへへ、やっぱり好きなんだぁ~」

「いや、ま、そうだけど……」

「そのために村から飛び出して、旅に出て、さらに竜神を倒す力を身に着けて戻って来たんだもんね。やるじゃん!」

「え、あ、ありがとう」


「でも、旅の間に乾季が来なくて良かったね」

「それについてはずっと懸念していたよ。旅の間も焦燥に駆られていた。だが、幸い乾季は訪れることなく、間に合った!」


「そうだね。それで、竜神を倒して、ナツメさんを救って、そのあとどうすんの?」

「え、どうするって……?」

「ええ~、私に言わせる気~。決まってるでしょ、やることは~。ねぇ、姫を救いに来た王子様! ドゥッフッフッフ~」

「いやいや、王子とか姫とか……まぁ、それは、もちろん、こくはくを……ごにょこにょ」



 ソルダムさんは背を縮めて、魔法を消した左手の指で頬を掻いている。

 私はその様子を目にして、少しだけ頭を悩ます。


(う~ん、でも…………ま、いっか。ここはソルダムさんの心意気に力を貸してあげましょうっか)


「よろしおま! その心意気買いまひょ、大船に乗った気で構えとき!」

「え?」

「え?」


 ソルダムさんとエイの疑問の声が重なる。


 私は二人の疑問の声に、同じく疑問を返した。

「どうしたの二人とも? あ、エイの方は瞑想やめたの?」

「別に瞑想をしていたわけじゃ……。俺たちは、君が妙な言葉遣いをしたから驚いただけだよ。何だったの、今の?」

「あ~、いまの? お母さんが読んでる漫画に出てくる主人公がこんな口調だから、真似してみただけだよ」


「あのね、急に身内にしかわからないネタを入れられても、知らないこちらは戸惑うだけだからね」

「え~、そこはわかってよ~」

「わかるわけないじゃないか。ソルダム、気にしないでくれ。彼女は少々変わり者なんだ」

「あ、ああ、そうみたいだな……まんがって?」



 なんでか混乱しているソルダムさんに、エイが何やら補足を伝えて納得させた。

 ともかく、私たちは互いに協力するという形を取ることになった。



 ソルダムさんの目的は、竜神を討伐してナツメさんを救うこと。

 私の目的は、ナツメさんを助けて、竜神からクニュクニュを手に入れること。

 エイの目的は、竜神からクニュクニュを手に入れること。



 エイがソルダムさんには聞こえない小声で話しかけてくる。

「わざわざナツメを救うという危険を冒す必要性もないんだけど?」

「クニュクニュを手に入れようとしたら、どのみち竜神を何とかしないといけないし、ついでじゃん」

「はぁ、現地の問題にこれほど深く介入することになるとは……」


「フフフ、私を守るためだから仕方ないね」

「言っとくけど、限度があるからね。君の安全が保証できないと判断した場合、首根っこに縄を引っ掛けてでも連れ帰るから」

「は~い、了解」


「あと、どんな危機的状況に陥っても、俺たちの技術や兵器での援護はできないからね。それは君の身の安全よりも、優先される事項。だから、わかった!」

「は~い、了解」

「はぁ、本当にわかっているんだか……」

 


「お~い、二人とも何をしてるんだ? 早く来いよ。儀式が始まっちまう」


 儀式を行う祭壇の地へ向かおうとしているソルダムさんに呼びかけられて、私は早足で向かう。

「おっと、ほらほら、エイも行くよ。クニュクニュとソルダムさんの愛の告白のためにね!」

 私はソルダムさんの元へ駆け足で向かう。

 その後ろからエイは私の背中を見つめつつ、溜め息一つ溢して歩き始めた。



――エイ


 彼は姫を救う王子という、幼稚なおとぎ話に夢見る少女の背中を見つめる。

(告白ねぇ。そんなもの成就するはずもない。竜神に傾倒する少女。そんな少女がソルダムにぶつける感情は…………それを目にした時、ユニはどうする? ……どうする、だと?)


 エイはユニの反応を気にする自分に驚く。そして、その答えをすぐに知る。

(雷球、あれにユニが触れようとして、俺は情けなくも取り乱してしまった)


 鳥肌に覆われた心に声が響く。

(そう、ぎょしている感情のタガが外れ、思わず大声を出してしまった。それは何故か? それはあのままでは汚染される可能性があったから。それも稀有な力に。そうなればユニは――違う! 俺にあったのは、同情でも心配でもない。恐れと好奇心だ)



 彼の心の奥底に沸いた恐怖……それはユニの秘めたる力を知っているから。そしてそこに、学術的好奇心が結びついた。

 そうだというのに、心配などと言う戯言で、本心を封殺しようとした自分の姿を大いに恥じる。


(フフ、稀有けうな空間干渉型魔法。そして、ワレワレの進化のカギを握るかもしれない少女。その秘めたる才は事前調査済み。さらには、『地球人』であること。だから容易たやすく……そして、いま、ワレワレ――いや俺は、監視者たちの目の届かない、見知らぬ宇宙域にいる。つまり……)

 

 彼はユニの小さな背中を両眼りょうまなこに捉え、薄く笑う。

(彼女自身が、ワレワレの求める進化の姿を体現するやも。そのためには、強い精神性が求められる。これから先に待ち受ける問題。どう乗り越える? どう答えを出す、ユニ? それに興味を抱いた。ならば、先程止める必要はなかったな)


 エイは宇宙船がある方角を見つめる。

(リアン、君は頭が固いからな。独断するぞ)

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