第10話 魔法、これが見たかったんだよ

 こそこそと私たちを覗き見ていた怪しげな青年ソルダムさん。

 彼は竜神に捧げる生贄の少女ナツメを救いたいと願い、風習に否定的な余所者よそものである私たちに協力を求めてきた。

 

 彼にとって、この申し出は大きな決断だったようで、鼻息荒く再度言葉を重ねる。

「どうか、ナツメを救い出すために力を貸して欲しい! 協力してもらえないだろうか!?」

「協力、か……」



 ちらりとエイを見る――眉をひそめてる。乗る気じゃなさそう。

 とりあえず彼のことはおいといて、ナツメさんがにえになるまで時間がないのでソルダムさんから駆け足で話を聞いてみることにした。


「助けるにしても時間があまり残されてないから、理由を端的に説明して頂戴。それを聞いて判断するから」

「ああ、わかった。なるべく短く終わらせる。まずは、俺が村を出た理由なんだが~~」



 ソルダムさんは語る。村を出た理由と、ナツメさんをにえから救いたい理由……それは以下の通り。



・数年に一度乾季が訪れて、その時、村で一番美しい少女が竜神の生贄となる。

・ソルダムさんは次に生贄になるのはナツメさんと知り、彼女を救うべく、旅に出た。

・それは竜神を倒す方法を調べるため。


・そして、今から一年前。彼は見事、竜神を倒すすべを見つけて戻って来た。


・だけど、まずはその思いを秘匿にして、生贄を捧げる風習を止めるべきだと集落の人々に説いた。

・その思いは竜神に傾倒する集落の人々には受け入れらず、彼は村八分となる。



 ソルダムさんは左腰に差していた剣を右手で抜いて、私たちに見せつけてきた。

「旅人のあなたたちなら知っているだろう。この鉄製の剣を。青銅よりも固く、切れ味鋭い剣! これならば、竜神を傷つけることができる。現に俺は、この剣を使い、外で何匹もの竜神の眷属を狩っている!!」


 私は鉄の剣を目にして、小さな声でエイに尋ねる。

「ここだと、鉄の剣って凄いの?」

「細かく調査してないからはっきりとは言えないけど、まだまだ青銅の武器が主流で鉄は珍しいね。そんな剣を手に入れているところを見ると、彼が旅に出て重ねた努力は本物なんだろう。竜神と呼ばれる同種の生命体も打ち倒しているようだし」


「そっか、抜けてそうだけど頑張り屋さんなんだね。でも、鉄の剣で竜を倒せるもんかな?」


「大抵の生命体ならば可能だよ。ただし、今回の生命体はクニュクニュによって肉体を強化されているだろうから、鉄ごときじゃやいばは届かないと思うよ。アダマンタイトやヒヒイロカネぐらいじゃないと」

「さらっと伝説の金属の名が出てるけど、エイが口にするってことは実在するんだ。だけど、彼の剣はそうじゃない……う~ん」



 エイの話から、鉄の剣だけではクニュクニュによって肉体が強化された竜神を倒せるとは思えない。

 その思いが眉間に皺を作る。

 すると、ソルダムさんは口元を緩めてニヤりと笑った。


「ふふ、まぁ、不安を覚えるのは仕方ないか。だけど、俺の手にあるのは鉄の剣だけじゃない! 魔法もある!」


 そう言って、彼は左手にバチバチと音爆おとはぜさせて、火花散らせる球体を産み出した。

「この魔法は雷の魔法! どんな生き物にも必ず効果のある至高の魔法だ! これならば、竜神にだって勝てる!!」



 ソルダムさんは左手に浮かぶ雷球を見せつけるようにずずいっと前に出す。

 私はそれに惹かれるように体が前のめりになった。


「ま、魔法だ! そうだよ、魔法だよ! これが見たくてやってきたのに完全に忘れてた! うわ~、すご~い。本当に存在するんだ!!」

「あはは、凄いだろ! 雷属性の魔法は習得が難しくて珍しいからな。でも、ナツメを救うために、死に物狂いで会得したんだ!!」



 彼は雷球を睨みつけるように見つめ、自信満々に微笑む。

 その微笑みは、これまでの彼の苦労と研鑽の表れなんだと思う。


 私の隣に立つエイは彼の雷球を碧眼に映し込み、親指と人差し指を顎元に置く。

(魔法文明初期レベルの魔法。それに鉄の剣。技術も魔法も遅れた惑星だな。だけど、魔法の系統は空間干渉型。発展していけば、高位存在すら凌駕する可能性を持つ稀有な魔法系統……)


「エイ、どうしたの? 難しい顔して?」

「ああ、思いも寄らぬところで珍しいものを見れて満足してるだけだよ」

「へ~、エイにとっても魔法って珍しいんだ。ねぇ、ソルダムさん、これって近づいたら危ない? 出力とかコントロールできるの?」



 私は指先を前に伸ばして、ソルダムさんに近づく。

 すると突然、エイが怒鳴るような声を張り上げた。

「触るな、ユニ!!」

「ひゃっ!? なになに、どうしたのいきなり?」

「え、いや、危険だから……」

「わかってるよ。別に触る気はなくて、指で差してただけだから。でも、心配してくれてありがとう」

「……ああ、こちらこそ大声を出して済まない」



 エイは謝罪を口にすると、両目をつむって小さな息を吐いた。

 らしくない姿を見せたから恥ずかしがっているかな?


 彼のことはそっとしてあげて、ソルダムさんに理由の核心――秘めているであろう想いについて、私は鋭く切り込んだ。

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