第9話戦場のメリークリスマス
レノンの作った素晴らしい楽曲。そして、それを見事に再現したラノンの歌声は、その場に居た全ての人間の心をがっちりと掴んでしまった。
「60年以上も経って我々に届けられた、レノンの反戦メッセージだな…曲も詞も最高だ!」
と、涼風が絶賛すると…
「1980年のレノンの銃殺は、『平和運動』でカリスマ的な存在となったレノンを、ベトナム戦争で非難を浴びていたアメリカ政府がファンの仕業に見せかけて暗殺したのではないか?という説もある程だね…」
シチローが、あの事件の疑惑について複雑な表情で語った。
確かに当時、ニューヨークに移り住み大規模な反戦運動を巻き起こしていたレノンに、アメリカのFBIやCIAが四六時中張り付くように監視をしていたのは、紛れもない事実であった。しかし、あの悲劇的事件の真相が何であるのかは、今はもう誰も知る事は出来ない。
「感動したわ!」
「戦争反対~!」
「テロリストだけど、テロ反対~!」
そのレノンの意志を引き継ぐかのように、子豚やひろき、そしてゆみが涙目で声高々に世界の平和を訴えていた。
『音楽は世界を救う』
そんな言葉がぴったりとくる位に、その歌はそこに居る全ての人達の心にある願いを根着かせてしまったようだ。
『平和』それは、核兵器廃絶然り、民族間あるいは宗教間の争い然り、人類が長年の間切望しながらもなお叶えられずにいる永遠のテーマである。
「思えば、我々MI6も任務遂行の為、時には理不尽な作戦を選択する事もあったが、反省しなければならないな……こんな歌を聴かされてしまっては、コレはもう使う気にはなれない…」
懐から取り出した銃を見つめながら、そんな事を呟くドボン。彼等もまた、この僅かな時間でレノンの作った歌により平和の大切さを心にしっかりと植え付けられてしまっていたのだった。
そんな中……セイだけが少し気まずそうな表情で、ぽつりと呟いた。
「やっぱりマズかったかしら…」
「えっ、マズかったって何が?」
「人質交渉がこじれると思って……前もって色々と仕掛けてきたのよね……爆弾とか」
「え゛!!!」
まさか、こんな雰囲気に落ち着くとは思ってもいなかったセイが、この埠頭の至る所に爆弾を仕掛けておいたのだと言う。さすがは同業者の間でも恐れられているという『必殺爆弾仕掛人 セクシー・セイ』である…作戦に抜かりは無い。
「もうすぐ、建物の周りから爆発するわ…」
「こんな平和的な歌聴かされてるそばから爆弾かよっ!」
そんなチャリパイ~アルカイナ連合の耳には、ラノンの歌声が痛烈に突き刺さる。
「♪どれだけ~街を~焼き尽くせば~君の気は収まるんだ~♪」
「耳が痛い歌詞だね…」
メンバーのシンが、そうしみじみと呟いた。
♢♢♢
「爆発の時間だわ…」
なんとも冷静な表情でセイが呟くと、倉庫の外で地響きを伴った爆発音が幾つか聞こえてきた。その振動で、倉庫の壁が小刻みにビリビリと震える。
「何だ、これは?」
何も事情を知らないドボンは、落ち着かない様子で倉庫内をキョロキョロと見回す。
「おいっ!ちょっと外の様子を見て来い!」
数名の部下にそう命じると、辛辣な表情で腕を組むドボン。
(なにか嫌な予感がする…あの音はどう考えたって爆発音だ…この近くで何か建物の解体でもやっているのか?それにしたってこの音は大きすぎるぞ…)
ドボンの中で渦巻く疑念…この稼業を長年やっていれば、自然と身に付く危険を嗅ぎ分ける嗅覚。ドボンは、その嗅覚が鳴らす警鐘をしきりに感じながら、苛ついた様子で部下達が出て行った倉庫の出入口を見つめていた。やがてその扉が勢い良く開き、血相を変えた部下達が戻って来た!
「大変だジェームズ!」
「どうした!」
「アナタのドボンカーが爆発で木っ端微塵に!」
ドボンの顔から、血の気が失せていった……
「ぬゎんだとおおおぉぉぉ~~~!!
MI6にケンカふっかけるたぁ~いい度胸してやがる!そいつはどこのどいつだっ!!」
「恐らく、アイツらです!」
部下達はすぐさまに揃って、シチロー達の方を指差した。
「ゼッタイ殺ス!!」
鬼の様な表情で懐から取り出した銃をシチロー達に向けて構えるドボン。
「あれっ?もう銃なんか使う気にはならなかったんじゃ無かったの~?」
「やかましいっ!愛車ぶっ壊されて黙ってられるか~っ!」
既に逆上しているドボンに今更何を言っても無駄であろう。ドボンが引き金を引くよりも一瞬速く、四方八方に飛び退くシチロー達!
DAN! DAN! DAN! DAN!
「ヤロウ!本気で撃ってきやがった!」
素早く倉庫内に積まれている木箱の影に隠れるが、今度はその場所へMI6の一斉射撃が襲いかかる。
「シチロー!こうなったらこっちも応戦だ!」
いち早くそう叫んだのは、アルカイナの羽毛田だった。
元々戦闘は得意分野のテロリストである。
こんな展開もあろう事かと、既に全員に武器も配ってある。
「お前らにも銃を配っておいただろ!」
「コレの事ね……まさか本当に使う羽目になるとはね…」
攻撃こそが最大の防御である……ベレッタを握り締め、チャリパイも覚悟を決める。
《MI6vsチャリパイ~アルカイナ連合+黄昏の詩人》
の熾烈な戦いが始まった!
♢♢♢
倉庫に積み上げられた木箱を隔てて、MI6とアルカイナの銃撃戦が始まった!
MI6サイドの人数はおよそ十人あまり。人数はほぼ互角であったが、アルカイナで実際に撃ち合いに参加しているのは、羽毛田とサト、セイの三人。チャリパイで辛うじて戦力になっているのはシチロー位である。接近戦ともなればてぃーだの活躍の場もあるのだが、銃撃戦となるといささか勝手が違う。子豚とひろきに至っては、ギャーギャーと大声を上げているだけである。
「こらあ~!シチロー!アンタもっと良く狙って撃ちなさいよ!」
「シチロ~~ッ!あっちにも敵がいるよ~!早く早く~!」
「やかましいっ!お前らも戦え!」
しかし、人数は少なくともアルカイナの三人の戦闘能力は抜きん出ていた。
《射撃の名手》サトは、積荷を縛っている直径僅か3ミリのワイヤーを正確に撃ち抜き、MI6の3人を荷崩れの下敷きにした。
羽毛田は、敵陣地の脇に設置されていた消火器を撃ち抜き、煙幕で相手をパニックに陥らせる。
そして、その煙幕に向かって女だてらに両手に《U‐Zi》を抱え持つセイが、圧倒的な火力にまかせとにかく派手に撃って、撃って、撃ちまくっている。
「なんだ!あの三人は!」
「まるで【外人部隊】並みの戦闘能力だぞっ!」
アルカイナの思いもよらない強力な応戦にド肝を抜かすMI6。
「クソッ!これでもくらえっ!」
苦し紛れに敵が投げつけた手榴弾が陣地に飛び込んでくれば…
「笑止!球筋が甘い♪」
カキーン!
「打ち返された!」
なぜか金属バットを持っているゆみが『ドラゴンズ新加入の中田翔』ばりの見事なスイングで、適陣地へと打ち返した。
「う~ん。これは心強い。テロリストも時には役立つものだな」
「アタシ達の出番は無いわね」
「詩人さん、ティダさん、お茶どうぞですにゃ」
涼風とてぃーだはメイと一緒に、呑気にお茶を啜っていた。
「しかし…平和の歌を聴きながらの銃撃戦とは…何ともシュールなものだな…」
「♪もう~その~重い銃を~下ろしてくれ~♪」
この銃撃戦の最中、ラノンはまだ歌っている。
そして…アルカイナの最後の一人、シンはといえば…
zzz… ZZZ……
寝てるし……
果たしてこの銃撃戦、いったいいつまで続くのだろうかと思いきや、その終結は意外に早く訪れた。
「もういい!撃ち方やめ~~い!」
突然そう叫んだのは、MI6のジェームズ・ドボン。
「なんだ?…一体どうしたんだ?急に…」
突然の休止宣言に、顔を見合わせて戸惑う羽毛田とサトそしてセイ。
「おい!どうした!降参か?」
羽毛田の問いかけに、ドボンは左手の腕時計を見つめて何やらブツブツと呟いていた。
「只今丁度、午後三時。【ティータイム】だ…銃撃戦なんてしている場合では無い」
「はぁあ~?」
弾痕だらけの荒れ果てた倉庫の中で、MI6のメンバー達はそそくさとテーブルを設置しティーカップを並べ始めた。イギリス人というのは、こんな時でさえ【三時のティータイム】をやらないと気が済まないらしい。ドボンは、真剣な表情でこんな提案をしてきた。
「この続きは、そうだな一時間後の四時からでどうだろう?」
ダージリンの香りを嗅ぎながらのそんなドボンの問いに、一気にやる気の失せてしまった羽毛田が、呆れ顔で持っていた銃を放り投げる。
「や~めた!馬鹿らしい!やってられるかっ!」
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