第3話 ちょっと前の話
瀬戸大橋を渡って岡山に戻った魔法少女のマルルとキリエは、またしても異世界モンスターの集団に襲われる。
数が多かったために殲滅ではなく、進行の邪魔になるやつだけ倒しながら先へ進んでいくと、誘導されていたのか2人は無人の遊園地、いや、テーマパークに辿り着いていた。
そこに入った途端、待ち伏せしたモンスターが一斉に魔法少女の2人に襲いかかる。
「嘘?! モンスターが統率を取った動きをするなんて」
「マルル、襲ってくる数を調整してくれ、そこで私が確実に仕留めていく」
「うっとおしいホー!」
2人が敵を倒す作戦を確認したところで、突然使い魔フクロウのトリがぬいぐるみ状態から復活。そのまま空高く飛び上がると、集まってきたモンスターを口から吐き出す謎ビームで一掃した。
この攻撃で周りにいたモンスター、少なくとも200体が一瞬で蒸発する。
「スッキリしたホ」
「トリさんすごい!」
「もっと褒めるホ!」
トリはマルルに褒められて目を細くする。こうしていると本当に動くぬいぐるみだ。キリエはそんな使い魔を見てため息を吐き出した。
「全く、いつ起きるかはお前の気分次第か」
「俺様は俺様の好きに生きるホ。お前たちもそうするホ」
「それが出来れば……」
キリエは話の途中でそれを切り上げ、すぐに周りを警戒する。さっき一掃したばかりなのにまた追加のモンスターが次々に2人の周りに現れたのだ。
魔法少女達はその後も襲い来る敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ――。全てを倒しきった頃にはもう空に一番星が輝いていた。
「結局ここで足止めか……」
「キリエ、今夜はあそこにしない?」
マルルが指さした先にあったのは、割と豪華そうなホテル。非常事態なので、もうそこには誰もいない。2人は魔法の力で無人のホテルに入ると、折角だからと一番高そうな雰囲気の部屋に入る。
「こう言うシチュエーション、久しぶりだ」
「これからもホテルに泊まる?」
「いや、一刻も早く大阪に戻らないと」
「だよね……」
ホテルには保存食が備蓄されていて、2人はそれを夕食にした。ふかふかのベッドに腰掛けながら、彼女達は話を始める。
「トリさん、起きている時間長くなってきてるよね?」
「けど、せめて1時間以上活動出来るようになってもらわないと。10分が20分になったところで……」
「こうしてちゃんとした部屋で休んでると、私がキリエに出会った頃を思い出すな……」
話は他愛もないような雑談から始まり、いつしか自分たちのルーツに繋がる話題へと流れていった。そう、それはまだ平和だった2年前――。
2年前の大阪、マルルとキリエは中学に進学したばかり。2人は同じクラスになったもののお互いに面識はなく、当時は何ひとつ接点はなかった。
時間が流れてクラスメイトが徐々に打ち解け始めるようになった頃、まだ友人同士ですらなかった2人を繋げる出会いがやってくる。
「ねぇ、そのストラップ、魔法少女のやつでしょ? 僕も好きなんだ」
マルルに話しかけてきたのは、クラスメイトのクリス。ハーフで目が青く背も高い金髪の男子。大阪に染まっていない帰国子女だった。クラスでも割と注目されるポジションだったため、周りの女子がざわつき始める。
彼は顔を左右に動かすと、もう1人の女子にも声をかけた。
「君もおいでよ。一緒に話をしよう」
この時に彼が誘ったのがキリエだった。3人の共通点は魔法少女が好きな事。キリエの場合、魔法少女モノの文房具を使っていた事で趣味バレ。
この頃の彼女は、男子の前で顔を赤らめるような普通の少女だった。
「やっぱ、子供っぽい……かな?」
「そんな事はないさ。立派な趣味だよ!」
「そうです! 魔法少女は女の子の憧れ!」
3人は、時間があればお互いに趣味の話をして親交を深めていく。全員がそれぞれぼっちだったため、中学に入って初めて出来た友達とゆっくり打ち解けあっていった。
若葉のまぶしい初夏の一番気候のいい時期を前に、クリスは女子2人を前に両手を広げて笑顔で話しかける。
「2人共、連休に僕の家に遊びにこない? 見せたいものがあるんだ」
この話を聞いた女子2人は顔を見合わせてうなずき、その誘いを受ける事にする。クリスの父親は研究者で、自宅にも立派な研究施設があった。
その研究は魔法少女の研究。科学の力で人工的に魔法少女を作り出そうと言うその研究に、2人は胸を躍らせるのだった。
連休の初日にクリスの家に招待された2人は、彼の案内のもとにその研究施設へと足を運ぶ。
「うわ~すごい」
「まるでアニメの研究施設みたい」
「だろ? 良かったら適性試験を受けてみる?」
この施設では、魔法少女になる資質を持つ少女の研究もしていた。2人は彼の誘いを受けて、好奇心だけでその適性試験を受ける。
病院にあるMRIみたいなそれっぽい機械に寝そべって詳細に調べられた結果、2人共魔法少女適性率80%以上。
この結果に、マルルとキリエは手を取り合って喜んだ。
「私達、魔法少女になれるのかも!」
「リアルで魔法少女になれる? 嘘みたい!」
「2人ならきっと魔法少女になれるさ! そんな気がするよ!」
5月の連休の後、3人の関係に少し変化が訪れる。特にマルルがそれを実感していた。その日もまた魔法少女談義でクリスとキリエの意見が割れる。
「だからさ、やっぱ魔法少女は可憐さが大事だと思うんだ」
「いや、やっぱり強さが重要だよ!」
「「マルルはどう思う?」」
2人から同時に答えを求められたマルルは困惑。お互いに仲良くなったのはいいものの、仲良くなりすぎたからか、その頃からそれぞれの主義を強く主張するようになっていたのだ。
相容れない主張は関係性をギクシャクとさせ、マルルはその調整に四苦八苦する事に。
「やっぱ初代こそ至宝だよ!」
「いや、シーズン4のテーマの重厚さは他の追随を許さないから!」
クリスとキリエは他の話題では息が合ったりするものの、趣味の魔法少女関係に関してはお互いにこだわりが強く、中々意見が合わなかった。オタクにありがちな争いを最後に抑えるのは、いつだってマルルの役目。そう言う意味では、3人は中々バランスの取れた関係を維持していた。
ただ、あんまりにも言い争いが続くので、根本的な解決を望んだマルルは2人の意識調査を開始する。
「ねぇ、クリスはキリエの事どう思ってるの?」
「と、友達だよ」
「ねぇ、キリエはクリスの事どう思ってるの?」
「と、友達だよ」
2人はシンクロしたみたいに同じ反応。その結果を踏まえ、後日、内容を変えて質問を続ける。
「クリスはキリエの事好き?」
「と、友達としてなら?」
「キリエはクリスの事好き?」
「と、友達としてなら?」
ここでも反応はピッタリ同じ。この結果を踏まえ、マルルは2人をもっと意識させる計画を練り始めた。
そんな彼女の企みが実行に移される前に、事件が発生する。
ある日、クリスの家に招待されていた3人は研究施設の爆発に巻き込まれてしまったのだ。その爆発によって異次元とこの世界を繋ぐ研究のために作られたゲートが突然暴走し、中からモンスターが現れてしまう。
「嘘、何アレ?」
「も、モンスター?!」
初めて見る異世界の化物に、少女2人はパニックになった。モンスターは暴れまわり、研究施設を破壊しまくる。施設の防衛装置が暴れまわる怪物を狙うものの、その攻撃は何ひとつ通用しなかった。
足がすくんで抱き合ってしゃがみこんでいた2人に、クリスが何かを持って現れる。
「2人共、これを使って!」
彼が2人に渡したのは魔法のステッキ。それを使えば変身出来るらしい。ステッキを渡された2人は直感で自分達の成すべき事を悟り、渡されたそれを頭上に掲げる。
「光と風の加護により我を高次に導け! 魔法少女マルル!」
「闇と地の加護により我を高次に導け! 魔法少女キリエ!」
2人共、無意識の内に心の底から湧き上がる声に従って名乗りを上げる。ここに2人の魔法少女が誕生したのだった。
その後、2人は直感に従って戦い、何とかモンスターを倒す事に成功する。
「はぁはぁ……勝てたぁ……」
「はぁはぁ……疲れた……」
「2人共すごいよ! 最高!」
クリスは、間近で見る魔法少女の活躍に大興奮。2人を称える拍手は、破壊され尽くした室内にしばらくの間響き渡ったのだった。
「家がボロボロになっちゃったね」
「私達、これか……キャッ!」
落ち着いたところで今後の話をキリエが話しかけていると、2人の魔法のステッキにヒビが入ってバラバラになってしまう。
ステッキが消滅したため、必然的に2人は元の姿に戻った。
「壊れちゃった……」
「ねぇクリス、これ……」
「大丈夫、元々試作品だからね」
大事なステッキを壊してしまった事で不安にかられた2人を前に、クリスはカラカラと笑ってまるで何でもないように振る舞う。
そうして軽く両手を広げ、爽やかに笑いながら2人に声をかけた。
「そうだ! 今から行こうか」
「行く?」
「西日本魔法センターだよ!」
クリスの話によれば、その聞き慣れないおかしな名前の場所は、古来から魔法少女の伝承を受け継ぐ組織らしい。そのセンターに残されていた資料をもとに、クリスの父は人工魔法少女の研究を進めていたのだとか――。
その後、色々あって今2人はモンスターに蹂躙された西日本を取り戻すために戦っている。マルルは思い出話の流れから、かつての友達に思いを馳せた。
「今頃、クリスはどうしてるかな?」
「父親の東京研究所で頑張ってるでしょ」
そう、モンスターが大量に発生した事件、通称『災厄の時』を境に、大阪の様子は一変する。この状況をどうにかするため、クリスは父親が所長を務める東京の研究所に居を移したのだ。その時に彼と2人は別れる事に――。
その話をするキリエの横顔から淋しさを感じたマルルは、彼女の顔を覗き込む。
「キリエは会いたい?」
「バッ、今はそれどころじゃないだろっ!」
からかわれたキリエは顔を赤くする。その様子を見たマルルは優しく微笑むのだった。
「じゃ、そろそろ寝よっか。おやすみ~」
「ああ、おやすみ……」
明かりが消えると、静かで落ち着いた時間が流れ始める。横になったマルルは隣で眠っている強がりな少女を眺め、何があっても彼女を守ると強く心に誓うのだった。
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