第4話 閉じ込められた魔法少女達

 現在、魔法少女一行はどこか分からない暗い洞窟の中を歩いていた。魔法の力で明かりがなくてもある程度は判別出来るものの、それ以上先の景色は分からない。


 静かな洞窟内では小さな音も大きく響き、先の見えない恐怖は不安ばかりをいたずらに増幅させていた。2人は自分達の感覚を頼りに出口を探すものの、どこまで歩いても一向に出口に辿り着けない。

 1時間ほど歩き回ったところで、暗闇があまり得意でないキリエは周りの景色を確認しながらつぶやく。


「まさか、こんな事になるなんて……」

「大丈夫だよ。きっと出口は見つかるから」


 マルルはぬいぐるみ状態のトリをなでながら彼女を慰めた。2人はいつこの暗闇の牢獄から開放されるだろう。



 ――話は少し前の時間にさかのぼる。岡山から快進撃を続けた魔法少女達はついに兵庫にまで辿り着いた。この県を抜ければ目的の場所まで後少し。当然モンスター達の抵抗も激しくなる。頼みの綱のマスコットは制限時間があるため、おいそれとは頼れない。

 2人の疲労がピークに達しようとしたその時、無数のモンスターの中からボスっぽい人間型が現れた。2人はその姿に見覚えがあり、思わず同時に言葉を漏らす。


「「あっ……」」」

「お2人共、よく覚えていましたね。そうです、私はあなた方が倒したフェリルの兄、ゲイン」


 そう、それは以前2人を試し、その結果、最後はトリに倒されたあの死神っぽい容姿のモンスター、フェリルの兄だったのだ。彼は軽く自己紹介を済ませると、怒りの形相で2人をにらむ。

 キリエはフェリルの最後を思い出して、思い切り笑った。


「あはは、お前あいつの兄貴かよ!」

「くっ、笑っていられるのも今の内です。我が部下よ! 目の前の敵を殲滅せんめつせよ!」


 ゲインの命令が下り、配下の有象無象のモンスターが一斉に雄叫びを上げる。数にして100や200じゃない、500、いや、もしかしたら1000体のモンスターが今まさに魔法少女達に襲いかかろうとしていた。


「そっちがそう来るなら、こっちも出し惜しみはなしだ! マルル!」

「トリさん、起きて!」


 キリエの指示で、マルルはぬいぐるみ状態のマスコットのお尻を思いっきり叩く。これがいい刺激になって、トリはバチッと目を覚ました。


「マルル、もう少し優しく起こすホ。俺様はデリケートなんだホ」

「それより周りをよく見ろ!」

「なるほど、分かったホー!」


 キリエに一喝され、すぐさま彼は状況を把握する。トリは短い翼で上空に飛び上がると、口から謎ビームを吐き出して襲ってくる敵の大軍を丸焦げにした。

 このパターンは読まれていたのか、自分の部下がどんどん倒されていくのにゲインは眉ひとつ動かさない。それどころかニヤリと笑みを浮かべる始末だった。


「キリエ、やっぱりおかしい」

「何?」

「あいつに余裕がありすぎる。これ、罠だよ!」


 マルルが敵の作戦に気付き始めた頃、無双状態だったトリの様子がおかしくなる。上空をホバリングする事も難しくなり、徐々に高度を下げ始めた。

 そう、活動可能限界が迫っていたのだ。


「まさかあいつ、これを狙って自分の部下を捨て駒に?」

「多分そう。だから余裕なんだよ」

「くそっ……」

「もうダメホ。後は任せたホ~」


 敵モンスターの軍勢の8割ほどを一体で倒したトリはここで力を使い果たし、強制的にスリープモードに入る。大幅に数を減らしはしたものの、それでもまだ二割の敵が2人を狙っていた。

 このタイミングで、ボスのゲインは2人の前に立ちふさがる。


「直接やろうってのか?」

「いえいえ、魔法少女のお2人に是非共私から挨拶をしておきたくてですね」


 ゲインはそう言うと、2人に向けてそれぞれに手をかざす。次の瞬間、魔法少女達は彼の能力によってどこかの洞窟に転移させられてしまった。


「フハハハ! 出口のない洞窟で苦しみながら一生を終えなさい!」


 2人を転移させる事に成功したゲインは、悪役らしい高笑いをしばらくの間続けたのだった。



 ――そう言う経緯で、彼女達はこの謎の洞窟をさまよっていた。歩き回った2人は少し休憩しようとその場に腰を下ろす。頭上を見上げながら、キリエはこの洞窟の特徴について話し始めた。


「それにしても、ここはどうなっているんだ? 風を頼りにしても、出口に辿り着くどころか更に奥深くに誘導されているみたいだ」

「闇雲に勘に頼ってもダメって事なのかな?」

「こう言う時、マッピングの魔法を使える仲間がいれば……」

「あ、その手があった!」


 キリエの愚痴にヒントを得たマルルは、紙とペンを取り出した。ペンを得意げにくるくると廻すと、ドヤ顔を決める。


「私がマッピングするよ」

「手動で? 出来る?」

「うん。ここはやらなきゃでしょ!」


 こうして、マルルが即席マッパーになって洞窟の探索は続く。幸いな事にこの洞窟は全くの無人で、襲ってくるのは闇の恐怖くらいのもの。

 モンスターから邪魔をされる事もないと言う事で、地図作成は順調に進んでいった。


「ここもダメか」

「じゃあまた分岐点に戻ろっか」

「しかたな……うわっ!」


 暗闇の中で足元がよく見えなかった事もあって、ここでキリエが足を踏み外す。前を歩いていたマルルは、その気配をすぐに感じ取って彼女を抱きとめた。


「だ、大丈夫?」

「あ、ああ……」

「キリエが傷物にならなくて何より」

「いや、言い方……」


 その後も総当たりでマップを埋めていき、最後の分岐点まで埋める事が出来た。


「多分、この道が出口。罠があるかもだから慎重に」

「分かってる。行こう」


 2人は罠を警戒しながらゆっくりと進む。感覚を研ぎ澄ませながら歩くものの、意外とあっさり出口らしき場所まで辿り着いた。

 しかし、最大の罠はこの出口に仕掛られていたのだ。その罠を見たキリエは絶望する。


「嘘だろ……。ここまで来て……」

「出口が塞がれているのはお約束だけど、敵もベタが好きだよね」


 マルルは逆にこのお約束な展開に呆れていた。そう、出口が大きな岩で塞がれていたのだ。落胆しているキリエをマルルは励ます。


「こんなのふっ飛ばせばいいんだよ」

「あ、ああ。そうだな……」

「これ、キリエの斬撃じゃ無理そうだから私に任せて」


 マルルはそう言うと、魔法銃を目の前の岩に向けて構える。的が大きいので外しようがない。彼女は銃にありったけの魔力を充填して引き金を引いた。

 射出された魔法弾は出口を塞ぐ岩に直撃し――そうして、そのエネルギーは吸収されてしまった。


「嘘っ?」

「ただの岩じゃないぞ、魔法力を吸収するんだ!」


 そう、ここで簡単に出口に辿り着けるなら、敵がわざわざ閉じ込めたりなんかしない。出口がすぐ側にあるのに脱出出来ない、その絶望感を味合わせるためのいやらしい嫌がらせだったのだ。


「私が斬る!」


 マルルが失敗したと言う事で、次はキリエが破壊を試みる。魔法力で硬質化と巨大化をしたブレードが岩に直撃。普通の岩なら一瞬で粉砕出来る威力だ。

 しかし、この攻撃もまた魔法エネルギーを吸収されてしまい無効に終わる。


「これでもダメか……」

「じゃあ複合攻撃で行こうよ」

「OK!」


 単独攻撃がダメなら協力技だと、今度は2人で技を合わせる事にした。まずはマルルが銃弾を撃ち、間髪入れずに全く同じ場所にキリエが強化したブレードで突きを放つ。タイミングが合えば、与えるダメージは数倍にも膨れ上がるはずだ。

 何度もコンビで戦ってきた2人にとって、タイミングを合わす事くらい造作もない事だった。


「てーい!」

「そこだあーッ!」


 数倍に強化された魔法エネルギーは、確かに岩に強烈なダメージを与える。与えはしたものの、集中していたはずの破壊エネルギーは即座に分散し、岩を破壊するには至らなかった。


「これでもダメ?」

「嘘だろ……」


 渾身の一撃が思うように効果を発揮しなかった事で、2人はその場にペタリと座り込む。と、そこでトリが復活する。


「やかましくて眠れないホ! ……てか何で暗いホ?」

「トリ、目の前の岩を吹き飛ばしてくれ……」


 脱力したキリエが投げやり気味にトリに命令する。大体の事情を察したフクロウは、その場で大きく息を吸い込んだ。


「任せろホーッ!」


 トリの発した謎ビームが、出口を塞ぐ岩を一発で吹き飛ばす。外からのまぶしい光を浴びながら、彼は振り返ってドヤ顔になった。


「さあ、先に進むホ!」


 魔法少女2人はこのテンプレパターンに顔を見合わせ、ため息を吐き出すとゆっくりと立ち上がる。こうして、無事に洞窟からの脱出に成功したのだった。

 そこで2人を出迎えたのは海に沈む大きな夕日。マルルはその雄大な景色に息を呑んだ。


「綺麗な夕日……」

「半日も歩き回ってたのかよ」

「一体どこの海岸……。ここ、島根だ!」

「マジで?」


 スマホで現在地を確認した2人はまた大阪から遠ざかった事に落胆する。慎重派のキリエはすぐに意識を切り替え、周りを警戒した。こう言う時のお約束、洞窟を出た後の待ち伏せを危惧したのだ。


「大丈夫。モンスターの気配はないみたい」

「本当だ。でも何故?」

「あの岩はお前達の力じゃ破壊不可能だったホ。だから油断したんだホ。トリに感謝するホ。今すぐするホ。ほれほれホ」

「ぐぬぬ……」


 それが事実とは言え、調子付かせたトリにキリエは素直になれなかった。悔しがる彼女とは対象的に、マルルはあっさりトリを立てる。


「トリさん有難う。助かったよ」

「うむ、苦しゅうないホ。さあ、キリエも感謝するホ」

「あ、ああ。あり……」

「あ、ぬいぐるみに戻っちゃった」

「は?」


 どうやら本来復活するより早く無理やり起きたため、稼働時間が最初から短かったらしい。頑張ってお礼を言おうとした途端にぬいぐるみに戻ってしまったため、キリエは行き場のない思いを思いっきり吐き出した。


「最後まで聞いてから電池切れになれよーっ!」


 マルルはそんな彼女を見てクスクスと笑う。その笑い声につられてキリエも笑った。目指すは諸悪の根源、大阪の地。魔法少女達の旅はまだまだ続く。

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