第6話 美少女後輩と夜の公園①

「もう外は真っ暗だな」


 学校から外に出ると、空は真っ暗に染まっていた。

 どうしてこんな夜遅くまで学校にいたかというと、何だかんだで部活動紹介の後片付けも手伝っていたからだ。


 本当は部活動紹介が終わり次第さっさと帰るつもりだった。

 だが直哉に後片付けの手伝いもお願いされ、今度こそは帰ると断ろうとはしたものの、結局また押し切られてしまった。

 もしかして俺は直哉の押しに弱いのか……?


 それに後片付けはどうにも集中してできなかった。

 原因はやはり星崎さん。

 あの複雑そうな表情で部活動紹介を後にした星崎さんのことは、どうにも気になってしまう。

 だがどんなに考えたところで、真相は彼女しか分からない。

 今日のところはこのもやもやを抱えながら家に帰るしかないだろう。



 しばらくの間はこのもやもやを抱えた状態で過ごすことになるだろうと覚悟していたのだが、しかし自宅の近くにある公園の前を歩いているとブランコに座っている人影が見えた。

 こんな時間にブランコに乗っている人が一体どんな人物なのか少し興味が湧いたので目を凝らしてみると、なんとその正体は星崎さんだった。

 公園の外からだと表情こそ見えないものの、こんな真夜中の公園に一人ブランコに座っているというのは普通の状況ではないだろう。

 ちょうど星崎さんと話がしたかったというのもあったが、何よりも純粋に星崎さんのことが心配だということもあって、迷わず俺は星崎さんに話しかけに行く。


「こんな夜中に公園のブランコに座って何をしてるんだ?」


「えっ!?あっ、先輩でしたか」


 星崎さんは俯いていたせいか、どうやら近づく俺の姿に気づいていなかったようだ。

 なので急に話しかけられたことに少し驚きつつも、俺と分かるとすぐに落ち着きを取り戻した。

 なんだかそれが他の人より多少は信用してもらえてそうだと思えて嬉しかった。

 俺は星崎さんが座っているブランコの隣のブランコに腰を下ろして、


「それで、どうしてこんな真っ暗闇の中にいるだ?」


 と星崎さんに再度同じ質問をする。


「それは……夜風に当たりたくなっちゃって」


 またもや曖昧な答えが返ってきた。

 それに夜風に当たりたくなったということは、わざわざこんな時間帯に家から出てこの公園に来たのだろうか。

 だがよくよく星崎さんの服装を見てみると、制服姿ではなく私服姿であったため、それは間違いなそうだった。


「どうして当たりたくなったんだ?」


 答えてもらえるか分からないが、このまま曖昧なままでいたくなかったため、少し踏み込んでみることにする。

 しかし今回はすんなりと星崎さんは答えてくれた。


「ちょっと感情が爆発しそうになったんです。それでこのまま家にいても家族に理不尽な八つ当たりをしちゃいそうだなと思って、それで家を出てこの場所にいたという訳です」


 そう言って話す星崎さんの姿は、あまりの覇気のなさになんだか遠くへ消えてしまいそうにすら感じてしまう。

 それにしても感情が爆発しそうになった、か。

 それは一体どんな感情なのだろうか。

 一番初めに思い浮かぶのは怒りだが、星崎さんは理不尽な八つ当たりという言い回しをしているため、どこか違う気がする。

 ではその感情とは一体何なのか。

 考えに耽っていると、ふと最近の俺と星崎さんの関係性や繰り広げた会話が急に脳裏に浮かんできた。 



 俺はここ数日で星崎さんとの距離が明らかに近づいたと思っていたし、実際その通りだと思う。

 でもそれは表面上の仲が深まったというだけで、俺は星崎さんの本質にある部分が一体何なのか、全くと言っていいほど見えていなかった。

 それは多分、星崎さんが意図的に隠しているから。

 本人が隠しているのだから深堀りはしない方いいだろうと、今の今まで俺は疑問に感じることもなくそれが当然だと思い、そういう会話を自然としてきた。

 おそらく今回も俺はその空気を感じ取って、星崎さんの本質に触れずに会話をするのが正解なのだろう。

 でも俺はもう嫌だ。

 嫌なんだ。

 相手の纏う空気を察して、それ以上踏み込まずにこのままの状態を続けるのは……

 何も知らずに、このまま進むのが……



『……ごめんね、もとき……』



 過去に味わった決して取り返しのつかない後悔の記憶がふと頭をよぎった。

 もうあんな後悔は二度としたくない。

 

 拒絶されてもいい。

 このまま何も変わらずに時が過ぎるより遥かにましだ。


 俺は覚悟を決めて口を開いた。


「俺に話してくれないか。星崎さんが抱えているものを」

 


 






 



 

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