第4話 美少女幼馴染とクラス替え

「最近何かいいことでもあったのかい?」


 入学式の準備の手伝いをしていると、生徒会副会長であり俺の数少ない友人の一人である今田直哉いまだなおやが話しかけてきた。


「いや、特に何もなかったよ。春休み中はほとんど家の中で過ごしてたしね」


 美少女後輩が隣の家に引っ越してきた、と言うと色々と追及されて面倒くさそうだと思い、俺は星崎さんのことを隠すことにした。


「そっか。いつもより基樹もときが機嫌良さそうに見えたんだけど気のせいだったかな」


「そうだよ、直哉の目が悪くなったんじゃないか」


 俺たちはいつものように軽口をたたきあっていた。

 つまるところ俺たちは小学生からの腐れ縁であり、お互いに名前で呼び合っているのだ。

 それに誤魔化しはしたものの、俺の表情をここまで読めるのは直哉ともう一人いる腐れ縁くらいだろう。


 そして少しの間があいた後、真剣な表情で俺に向けて直哉が口を開いた。


「今年こそはできるといいな」


 その言葉だけで俺は直哉の言いたいことが分かった。

 それを聞いた俺は一言で返す。


「ああ、そうだな」


 そうなってほしいと願いつつも、俺の声はどこか諦観しているように感じ取れてしまったのだろう。

 直哉は何だか心配そうな表情を向けてきた。

 

 俺は中学生の時から…いや、正確には小学校を卒業した数日後から青春を謳歌するであろう学生には致命的と言っていいとある重大な問題を抱えていた。

 またその問題の明確な解決方法も見つかっていなかった。

 しかし今年ようやくその問題が解決するのではないかと、どこか期待してしまっている自分が心の奥底にいた。

 

 つまり俺は期待しているのだ。星崎さんに。


 その後入学式は何事もなく終わり、俺は片付けを手伝った後にすぐ帰宅した。

 帰った後は一日中家で読書をして過ごしていたのだが、昼間に直哉から言われたことが頭をよぎり、あまり集中できなかった。



 そして始業式の日が訪れた。

 もちろん昨日のようなたまたま一緒のタイミングでお隣さんの玄関の扉が開くことなど起きるはずもなく、これまで通り一人で登校した。

 そして学校に着いた俺は、下駄箱の前の壁に貼ってあったクラス替えの書かれた紙に目を通したのだが…


「……まじかよ」


 唯一同じクラスになったら面倒なことになりそうだと思っていた生徒の名前が、見事に俺の名前があるクラスにあった。

 今年は大変な一年間になりそうだ……



「また一緒のクラスだね、基樹」


 さっそく新しいクラスの教室に入り、窓際の一番後ろに位置する自分の机に座っていると生徒会副会長であり腐れ縁でもある直哉が嬉しそうに近づいてきた。

 そして…


「久しぶり、もとくん!ようやく同じクラスになれたね!」


 俺の姿を見つけると、すぐに近寄ってきた元気な声のやつがもう一人…


「ひ、久しぶりだな、ゆり」


 俺は若干顔を引きずらせながら手を挙げて答える。


 彼女の名前は秋風あきかぜ由里乃ゆりの

 俺のもう一人の腐れ縁であり、彼女とは小学生からの付き合いである直哉よりもさらに前である幼稚園からの付き合いである。

 つまるところ俺の幼馴染であり、昔からの名残で彼女は俺のことをもとくんと呼び、俺はゆりと呼んでいるわけだ。

 しかしこれだけなら別に同じクラスになったところで特に問題ないわけなのだが……


「どうしたの?せっかく同じクラスになったのに、なんだかバツの悪そうな顔して」


 そう言ってゆりはジト目で俺を見てきた。


「……いやぁ、それはちょっとね……」


 ゆりから向けられている視線から目を逸らし、クラス全体を見渡す。

 するとやはりというべきか、俺たちはクラスメイトたちの視線を一手に引き受けていた。


 その原因は間違いなく目の前にいるゆりが原因だ。

 まず第一に顔がいい。そして茶髪のセミロングがとてもよく似合っている。

 噂によると、同学年の男たちが繰り広げている学年一の美女は誰か論争でまず間違いなく名前が上がるほどにその容姿は整っている。

 さらにそれだけではなく、明るく誰に対しても分け隔てなく接する性格も相まってめちゃくちゃモテるのだ。

 もちろん俺は昔からの付き合いであり、ゆりに対して特別何かを思うことはないが、他の男からすれば、至近距離で話すだけでもドキドキなのだろう。

 だが彼女はそういったことに対して全くの無自覚な天然であり、おそらく自分がモテているという自覚もない。

 今はその天然が原因でこの状況が出来上がっているわけだが……


「もしかして……しばらく会わないうちに彼女でもできちゃった?わたし、もとくんに近づかない方がいい……?」


 そんなことはつゆ知らず、ゆりは会話を続けてきた。

 しかもなんだか寂しそうな表情をしている。

 そんな表情されると、こっちが申し訳なくなってくるだろ……


「彼女なんていないよ、俺にできるわけないだろ。だからそんな顔するなよ」


 俺は耐えられなくなって口を開いた。


「そっか、そうだよね」

 

 そう言うと、ゆりは安心したのか表情が元に戻った。

 まったく、せわしない幼馴染だなと俺は思いながら、


「これからよろしくな、ゆり」


 と改めて挨拶を交わす。

 そう言うとゆりは顔を上げて、


「うん!」


 と満面の笑みで頷いた。


 俺は覚悟を決めた。

 同じクラスになった以上、これからもゆりは俺に絡みに来るだろう。

 だがどうやら俺はゆりを突き放すことはできないらしい。

 ならばこれからもこれまで通りの俺たちで過ごすしかない。

 しばらくの間、俺はゆりと話しをする度にクラスメイトたちから怪訝な視線を浴びることになるだろうが慣れていくしかない。

 そして誤解のないように俺たちは別に付き合っているわけではないということを周りに説得していくしかないだろう。

 それにしても、これからのことを考えると気が重い……

 


 




 


 

 

 

 


 




 


 


 

 

 

 




 



 

 

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