第3話 美少女後輩と初登校

「それにしてもこの街はとても落ち着いた街ですね」

 

 横で歩いている星崎さんがふと呟いた。

 今俺と星崎さんは学校へ行くために、俺たちの家から歩いて15分ほどの距離にある最寄りの駅に向けて歩みを進めていた。

 俺たちの通う高校はこの街から電車で二駅先にあるのだ。

 そして歩きながらおそらく初めて見るであろうこの街の風景を見たり、雰囲気を感じたりしては星崎さんがこのように感想を漏らしていた。


「この街はお年寄りの人が多いからね。だけど俺はこの街の物静かなところとかが意外と気に入ってる」


 やはり電車で学校がある都心方面に行けば当然喧騒もあるだろう。

 なので落ち着いた雰囲気はこの街の良さと言えるだろう。


「私も喧騒がある場所よりかはこの街のような落ち着いた場所の方が好きです。ですがその割にはカラオケやボーリング場、スーパーにカフェなど様々な施設があるんですね」


 俺たちが歩いている道の横にあるカラオケの店を尻目に星崎さんが呟く。


「お年寄りが多いと言ってもある程度学生も住んでるしね。意外と施設が揃ってるおかげで助かってるよ」


 わざわざ娯楽施設のために電車に乗って別の街へ行く必要がないのもこの街の良さだろう。

 こんな風にこの街に関することなどを話しながら歩いていると駅が見えてきた。


「もうすぐ駅に着くよ。どうかな、道は覚えられそう?」


「はい、そこまで複雑なルートではありませんでしたから。明日からは一人でも大丈夫だと思います」


 星崎さんは心配しなくても大丈夫と思わせてくれるような表情でそう言った。

 一人でも大丈夫か…

 しかし俺は、星崎さんからすればなんてことはないであろう一言にどこか寂しい気持ちを覚えた。

 でも今日俺たちが二人きりで登校しているのは偶然家の前で遭遇したからだ。

 仮に明日からも一緒に登校するのであれば、俺たちがそれ相応の仲でないとむしろおかしいだろう。


「それなら良かったよ」


 そんな俺の心境は胸の内にしまい込み、俺はそう言って星崎さんに笑みを向けるのだった。


 その後は特に何事もなく電車に乗り込んだ。

 朝早くとはいえ、ある程度通勤する人はいるため座席は空いていなかった。

 だが満員電車と呼べるほど人が乗っているわけでもない。


 電車が動き出すと、星崎さんは手すりに掴まりながら無言で外の景色を眺めていた。

 俺もまた無言で一年間見続けてきた外の景色を眺める。

 そして時折星崎さんの横顔を見る。

 見れば見るほどに星崎さんがいかに美少女なのか思い知らされる。

 大きくぱっちりと開いた目に綺麗に整っている口角。

 思わずその横顔に俺の視界が固定されてしまいそうだ。

 しかしその横顔を見てふと思う。

 今の星崎にはこの景色がどう映っているのだろうか。

 俺の目には……



「道案内をして頂いてありがとうございました。おかげで道に迷うことなくスムーズに学校に着くことができました」


 電車を降りて少し歩くと、すぐに俺たちの通う高校に到着した。

 学校に着くとすかさず星崎さんがお礼を言ってきた。


「いいよ全然、俺の目的地もこの学校だったわけだし。むしろ着くのが少し早すぎたんじゃないかな。まだ誰も教室にいないだろうし」


 実際新入生の集合予定時間よりも相当早い時間帯に学校に到着してしまった。

 おかげで学内にはほとんど人影が無かった。


「それなら無人の教室の雰囲気を満喫することにします。では先輩、ここまでありがとうございました」


 そう言って星崎さんは新入生が利用する下駄箱へ向かった…のだったが…

 くるりと180度方向転換して俺の元へ戻ってきた。


「あの…先輩…」


 そして何だか少しもじもじした様子で何かを言いかけている。


 なんなんだ…星崎さんのこの雰囲気は…


 さっきとは打って変わってまるで違う様子に俺は内心ドキッとしつつも平静を装っていた。

 そしてほんの少しの静寂の後、星崎さんは口を開いた。


「その…私の制服姿、変じゃありませんか…?」


 その声音には明らかに緊張が含まれており、また少し顔が赤く染まりながらも、俺の目をきちんと見ながら制服姿を見せる素振りをしてきた。

 俺はその言葉とその振る舞いを見て、ついさっきまでの緊張が一瞬にして全て抜け落ちた。

 そしてその瞬間、俺が思うことはたった一つだけだった。


 この後輩、マジで可愛すぎるだろ…


 今日は入学式という晴れ舞台であり、また今日は多くの初対面の人と会うことから、自分の格好がこのままで大丈夫なのか気になったのだろう。

 だが問題なのは俺に対する言い方だ。

 家の前で話した時と同様、自然と上目遣いになっているところも可愛いし、彼女の透き通った声から発せられる緊張の含んだ声音もあまりに俺に突き刺さった。


 この子があまりにも愛おしすぎる…


 そんな感情に支配されながらも、俺は勇気を持って言ってくれた星崎さんに対して本心をぶつけることにした。


「大丈夫、ちゃんと似合ってるよ」


 そう言うと星崎さんは肩の力が抜けたのかさっきまでの緊張した面持ちから安心した面持ちに変わり、俺に優しい笑みを浮かべて、


「ありがとうございました!行ってきますね!」


 と言い、今度こそ新入生が利用する下駄箱へ歩いて行った。


 この後俺は予定通り入学式の手伝いをしたのだが、表情はなんとかいつも通りに装っていたものの、胸の奥底で高揚している感情はなかなか抜けなかったのであった。

 

 




 

 


 

 






 

 

 


 

 

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