第2話 かっこいいお姉さん
「えい」
女の子が私の腕に抱き着いてくる。
「大胆だね」
私はそれを受け入れながら、目的地に向かう。
バーで軽く話し、すぐに連れ出すことに成功した。詳しくは聞いていないし、知るつもりもないが、彼女に振られたとかなんとかで傷心なのだろう。そこに付け込んだという言い方をすればバーテンダーの視線にも納得がいくが、傷心を癒すためにここに来るのだから同じ穴の貉だと思う。
「お姉さんはかっこいい系統なんだね」
女の子が弾んだ声で言う。
「……あ、うん」
言葉に引っかかりを覚えて声を詰まらせても、女の子に気にした様子はない。
「好きなんだ、こういう服装とか」
「似合ってるよ! すっごく好き!」
にこにこ話す顔を見ていると、この子を振った人はもったいないと素直に思う。良くも悪くも、この子の発言に裏表はない。
そうして会話を続けているうちにホテルを見つける。
「ここでいい?」
「うん……」
そういうつもりで来ただろうに、女の子は途端に恥ずかし気な表情になる。腹のあたりがぐっと熱くなる。
私はこういう出会いを求めていたのだ。だからそれ以外はみな些末なことだ。
女の子の背に手を添え、ホテルの中に入る。特殊な部屋ではなく普通の部屋を選んだ。二人でエレベーターに乗る。ホテルに入ったあたりから女の子は私の方を見ない。様子を見る限り嫌になったのではなく、単に恥ずかしいだけだろう。
試しに腰に手を回してみる。ぴくりと反応したものの、抵抗はしない。
「まだ……」
やっと聞き取れるくらいのか細い声だった。今回はとんでもない当たりを引き当ててしまったかもしれない。気分が高揚していく。
エレベーターが目的の階に到達する。腰に手を回したまま部屋に女の子を連れていき、ドアを開ける。女の子を先に入れ、私があとから入り、ドアを閉める。その音が薄暗い室内によく響いた。
音の余韻が消える間もなく、女の子が私の胸に飛び込んでくる。私の悪戯のせいか、随分と焦らしてしまったらしい。
染まった頬に、荒い息遣い。そっと顔を上げ、私の瞳を見つめる。明るい茶色の髪の毛が、動きに合わせて揺れる。
『……いで! 気持ち悪い!』
女の子の顔と、違う女性の顔が、重なる。
思わずボタンを外そうとする女の子の腕を掴んでいた。
「なんで?」
大きな瞳。長い地雷ライン。ピンクのアイシャドウにきらめくラメ。
なんとなくの雰囲気は似ていても、この子は全くの別人だ。
「まずシャワー浴びようよ」
女の子が私を見つめている。
「一緒に」
期待に応えるために、一言添える。女の子が微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます