11月の足音

白雪れもん

第1話強者への挑戦

年に一度11月26日に開催される小学生男子なら一度は憧れる大きな大会。

――「東品街道駅伝」をご存じだろうか――

東品駅~門川駅を小学生五人でタスキをつなぐ一大レースだ。

一人約11㎞。対象は小学六年生男子限定。この大会に優勝すると賞金200万円が渡される。

47都道府県から六人づつ。つまりは282人が参加する。こんな大勢なら観客ももちろん全国からやってくる。そんな中で優勝出来たら注目される、いやテレビにも特別ゲストとして出演できること間違いなしだろう。

だがもちろん、その大会出場権を握るのも一県全ての小学生が集まりそこで選ばれてやっと出場権が決まるのだ。そんな甘くない。

そして、この咲手県にも夢見る少年が一人。

「はっはっ」

息を荒げて顎に汗が滴っているこの少年は「長谷川礼二」

50m7.7秒 100m15.6秒の期待大の新人だ。

彼は短距離の天才と言われた。だがそれは遠まわしに長距離は無理だと言っているのと同じ。

「見返してやるんだ、はぁ、、町の奴らを、、、」

礼二は町の人にそういわれたことが悔しく、長距離走を走れるように目指した

家族は猛反対、短距離で有名になればいいだの、短距離でも十分すごいだの俺からしたら煽りにしか聞こえない言葉が家じゅうを飛交っていた。

「俺さー逆張りキッズなんだよねー」

学校の中休み、礼二はめんどくさそうに後ろを向いて鉄棒に両腕をかけ、頭だけが上に向いた状態で話す。

「逆張りキッズなんだーウケるー」

こいつの名前は「佐々木二郎」別名長距離の魔術師。

長距離走が得意で110mの校庭を26周することができる男だ。

かつてこいつのことが大嫌いだった。長距離走が得意な奴が大嫌いだった。

だが、こいつとの和解は1年前にさかのぼる。

             ――1年前の夏休み——    

まるっきり素人のころ、短距離にすべてをかけて、長距離のトレーニングを全くしていなかった陸上を始めて2か月の頃の話。

調子に乗っていた真っ最中の頃だった。          

「なぁ、お前、長距離走が得意なんだろ?勝負しろよ!!」

誰もいない土曜日の校庭に声が響き渡る。親同士が仲良くPTA室で話している中俺ら二人だけが校庭で遊んでいた。

「いいよ、いい暇つぶしになりそうだ。でも、長距離専門と短距離専門だと勝敗は明確にわかるはずだけど(笑)」

二郎はあざ笑うように礼二に向かって言葉を放った。この言葉により、礼二が余計に闘争心を燃やす。

「やってやるよ!!ボコボコにしてやるけどな!!」

礼二は自信満々に顔に向かって指を差し、ふふん!と負けじと煽り返した。

「わかったわかった。じゃあ小学生の長距離は2㎞、つまり100mのこの校庭20周でいい?」

「おう!よくわかんねぇがたった20周なら余裕だわ!ぶっちぎりで勝ってやるよ!!」

礼二は負ける気がないそうだ。

「舐めてるな、20周を」

二郎はボソッと誰にも聞こえない声でつぶやいた。

「ん?何か言ったか?」「いや、何にも?」

こうして、誰も知ることがないひと夏レースが始まった。

「おぉ、走るのかい?じゃあワシが審判をしてやろう」

いつの間にか背後に立っていた校長先生は何も言わずに審判を始めた。

「そんな接戦にはならないと思うぜ!?俺がぶっちぎりで勝ってやるんだからな!」

余裕気な礼二を横目に二郎はおかしくて笑ってしまうほどだった。

「3・2・1スタート!!」

スタートの合図と共に礼二が全速力で走り出した。

「おいおい長距離担当さんよ!!差がどんどん広がってくぜ!?大丈夫かい!?」

礼二は煽りの言葉とともに三周の差をつけた。だがおかしい、足の感覚が鈍ってきた。足が重い、体が思うように動かなくなってきた。

「来たな、限界が」

気づくと二郎は真横にいて余裕の表情で普通に走っていた。

何でここにいる?一周の差をつけたはずだろ!?

「ど素人の短距離専門はな、330mを超えるといつもの環境と変わり足が重くなってくるって勝手に思ってるんだ。その点長距離専門はいいぜ、長距離は勿論、短距離なら最初からラストスパートを走ればいいだけだ。」

なんでこいつはこんなに長い間話していても息が乱れない?でもまぁいい、このチャンスは逃さない。このまま話しながら最後まで並走し、最後の最後で抜いてゴールだ。

たとえ卑怯だといわれても長距離専門に短距離専門が勝ったという称号は必ず手にして見せる。

「大、、丈夫か、、、?こんなに、、、話して、、、、?レース、、、終わっち、、、まうぞ?」

ん?なんでだろう?声がうまく出せない頭がくらくらしてきた思考もよく回らない。

喉が痛い、乾いている。砂漠のようにからからになっているのがつばを飲み込んだ拍子でよくわかる。耐えろ、、耐えるんだ、、、、

「何言ってる?お前の足がふらふらし始めて、まだ半周もしていないぞ?」

は?どういう意味だ?そんな声も出すことができない、意識はまだ保てる。

「やっぱりそうなんだな、お前は短距離にすべてを費やしてきたからこの現状がよくわからないのか。」

「お前は今にも倒れそうだぞ?目も開かなくなってきてる。サッカーや野球でもしとけばよかったな。短距離だけに力を加えると、350m程度で足がもたつき始めるんだ。」

まだまだこれからって時に、意識が薄くなってきてるなんて

「少しは期待していたが、残念だ。」

その言葉を発するとともに、二郎が横から消えた。前に小さなシルエットが見える

礼二は悟った。長距離と短距離の埋まることがない差を

「勝者、佐々木二郎!!」

結果は聞かなくてもわかる。二週の差をつけて二郎が勝利した。

それが分かった段階で、、、、、

「俺が気を失って、よく覚えてなかったんだよ。」

「あーそんなこともあったねー。振り向いたら倒れててびっくりしたよ。」

で、そっから

「お前イキっといて魔術師にぼろ負けしたんだって?」

「天才って言われ始めて調子乗ってるからだよ!!ガハッハッハ!!」

みんながあざ笑う。スマイルスクールで一人いた小菅が一部始終見ていて、そのことを広めたそうだ。

気を失ったことを母親と校長先生から知った俺は、二郎に稽古をつけてもらうよう話に行った。

「断る」

食い気味で否定された。まぁ、こいつの性格上断られることはわかっていたが、さすがに早すぎない?

「ちゃんと目標は決めてあるんだ!!」「なんだ?県大会優勝か?そんなちっぽけなことには付き合わないぞ。」

県大会をなんだと思っているんだこの野郎。十分すごいだろうが。

「それも考えていたが、変えたんだ」「なんだ聞くだけ聞いてやる」

そこから5秒ほど沈黙があり、息を吸い、大きな声で言ったのが、、、

「東品街道駅伝優勝を目指している!!!」

え・・・・二郎は啞然とした。こんな長距離センス皆無のクソガキが、こんな高い夢を持つことを考えなかったのだろう。でも、俺は本気だ。

「この前ぼろ負けしたことが、何故か5-2組じゅうに広まってる。あわよくば地域にだ。短距離の天才が長距離の魔術師にぼろ負けしたって」

「悔しいんだ!!こんなことが広まって!!天才の名がなかったことになってしまう!」

礼二は目に涙を浮かべながら叫んだ。顔を見るだけで相当悔しがっていることがわかる。

「気に入った!」「え?」

涙を浮かべてはなった言葉はなかったかのように話をつづけた。

「そこまで本気で目指してんならとことん付き合う!!」

「そしてこの名を日本中に轟かしてやるんだ!!」

そう、これが後に伝説となる試合のニュースキャッチコピーとなる言葉。

            「天才と魔術師の共演だ!!!」

今、新たな陸上伝説の始まりの鐘の音が響き渡る!!!!

                               ――続く――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

11月の足音 白雪れもん @tokiwa7799yanwenri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ