第2話 手紙。
夕方、郵便受けをのぞいた小夜は、小夜に宛てた一通の手紙が入っているのに気づいた。坂城桂。見たことのない名前だ。生成色の封筒はシンプルだけどカッコよくてどきどきする。
そっと鞄に仕舞い、何気ない顔で部屋に入る。そして手紙を開封した。
『佐々木小夜さま
おたより、ありがとうございます。本の間から見つけたときは、開けて良いのか少し驚きました。
ちょうど私も読み終わったところでお手紙に気が付きましたので、貴女の感想がとても共感できるもので、嬉しい気持ちになりました。
(略)
普段あまり本を読まれないとのこと、僭越ながら同じような感想を抱いた本などを、何冊か紹介させていただいてもよろしいでしょうか。
この本は、……でしたが、こちらは主人公が………といった感じで面白く感じられます。またこの著者ですと、☆☆がテイストが似ていて大変読みやすく感じられました。
ご参考になれば幸いです。
坂城圭』
*
坂城桂は、予約していた本を受け取って家に着いた。先日少女に譲った一冊だ。
その本を探しに行ったのだけれど、必死だったから、思わず譲ってしまった。
手に取った瞬間の絶望的な表情と、譲った後の満面の笑顔の落差がすごくて、桂は思わず思い出し笑いをしてしまった。
ぱらぱらとページをめくる。以前に読んだことがあったのだけれども、今の仕事に合致する部分を確認したくて借りたはずが、気がつけば最後まで読み耽っていた。
あの少女も、こうやって一気読みしたのだろうか。予約してからほんの数日で回ってきたのだ。少女の歳なら初見だろうか。さぞ楽しかっただろうな。などと想像していたら、裏表紙のポケットから何かのぞいているのに気がついた。
あれ、なんだこれ。
引っ張り出してみる。たまに、こういうところに番外編ペーパーのような付録がついていることがあるのだ。
しかし、出てきたのは封筒。宛先には「先を譲ってくださった方へ」……僕のことか?
薄桃色の、桜の散る封筒はいささか季節外れだけどきちんとしようという心意気に溢れていて微笑ましかった。もしかしたらこの本の季節に合わせたのか。いや、それでも四季を描いていたように記憶しているけど。
などと考えつつ、おそるおそる封筒を開封する。
『先日の親切な方へ
先日はこの本を先に譲っていただき、本当にありがとうございました。なんとか感謝の気持ちを伝えたいと思い、この手紙を書いています。図書館の人のご迷惑になってしまうかもしれませんが、自重できなくて。すいません。
お伝えしたかったのは、感謝の気持ちとそれから感想です!
とても、そうとても面白くて!どうにもこの気持ちを伝えたいと思い、この手紙を書いています。
(略) 佐々木小夜』
文末には、少女の名前と住所が書いてあった。本物だろうか。
桂は少しだけ逡巡して、仕事机の抽斗から便箋を取り出した。
おそるおそる書いた返信の返信は、弾むような速さで返ってきた。可愛らしいキャラクターの封筒が、若さを感じられて、桂は微笑んだ。
こうして、二人の文通ははじまり、ぽつぽつと続いていった。
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