#7 side:シーナ
昔から自分はこの世界に向いてないんじゃないかなって思っていた。
周りと比べて魔法への適正は断トツで低かった。魔法書通りの詠唱を唱えたって魔法はでてこなかった。
真面目に勉強しても頭には一切入ってこなかった。私って頭悪いんだ、そう思ったときから全てのやる気がなくなって学校にも行かなくなった。
初めて剣を持たされた時、とてもとても重かったのを覚えている。身体のトレーニングなんてしたことなかった。
とてもだけどこんな重いものを振り回せそうになかった。
それでも、冒険者になる夢は諦められなかった。
あの日、いつものように冒険者の仕事で家を出ていったパパとママは今でも帰ってきていない。きっとどこかでまだ戦っているのかもしれない。
だから私が冒険者になって二人を助けに行くんだ。
Eランクのクエストは街の人が依頼する仕事だから、戦えない私でもお金を稼ぐことができた。
地道に受けるクエストの数を増やしていって、そしてDランク冒険者になった。
重たい剣は扱えないけど、軽い短剣ならなんとか大丈夫だった。
Dランクになって初めてのクエストは、王都郊外の人の畑を荒らす魔物の討伐。
ねずみの魔物と書いてあるから、私よりも全然小さい魔物だろうと思った。
事実、私でも簡単に討伐することができた。
これが初めての魔物討伐だった。
「やった………!」
心の底から湧き上がってくる達成感と、私でもできるんだという今までに感じことのない自信を得られた。
ようやく第一歩進むことができたなら、この勢いで駆け上がっていくしかない。
自信を持つことってこんなにも偉大で光栄で、そして簡単に手に入るがゆえに恐ろしいものだということを知った。
イノシシの魔物が討伐対象であるクエスト。
そのために森へ入れば当然ながら他の魔物とも出会す。
今回はイノシシの角を持ち帰ればクエスト完了となる。
「そうは言ってもなぁ……どうやって探せばいいんだろう」
手当り次第森の奥へ進んでいけばそれだけ危険が大きくなる。
一箇所に多くの魔物が集まる場所と考えると、一つだけ思い浮かぶところがあった。
それは水場だ。
「あっ……!いたいた」
水辺で水分補給をしている一頭のイノシシを発見した。
周りにも魔物はいるがどれも小さい。
今なら背後から襲えば簡単に討伐できるかもしれない。たぶん逃げられたら私の足じゃあ追いつけない。
短剣を構え、接近したと同時に油断しているところを刺す!
「あっ………え、あれ……」
空振って地面に短剣が突き刺さっている。
確かにイノシシ目掛けて振り下ろしたはずなのに、その場から姿が消えた。
いやそれよりも、一瞬目の前を何かが通り過ぎた気がした。
──バキッバキッバキッ
私の横には、いつから居たのか分からない魔物が異常な咀嚼音をあげて食べている。
あれは、私が仕留めようとしたイノシシだ。
完全な横取り。
そしてこの魔物にとっては私ですら獲物だった。
「────は……」
目の前に水面──
「っわぷっ………っハァ……ハァ……」
水中に落下し、息ができずに溺れかけた。
慌てて水面に顔を出して呼吸の確保をした。足がつかないほど深い。
水辺からは結構離れていた。
「あっ……、あいつは──」
またしても目の前の景色が変わった。
元いた水辺に戻ったんだ。
「ケッキッキッキ」
高い鳴き声のそれは、人の笑い声のように聞こえた。
二足で立ち、背中には羽が見える。虫のように見えるこの魔物の顔は、嘲笑っているようにしか見えない。
こいつが私を水に落とし、そしてまたここに戻したのだ。
考えずともバカな私でも分かるのは、この魔物がどう見ても強いことと、こいつの目には私がおもちゃとしか見られていないこと。
私を殺すことだけが目的ならば、さっきのイノシシのように一瞬で終わりだ。
「……私をどうする気」
魔物に話しかけるなんてバカだと思うけど、仕方ないじゃん。
私はもう、ここで終わりなんだから。
「ケッキッキッキ………ケッ…ケキッ…ケキャキャキャ」
「っ……!」
高音と雑音が混じり合った不気味な鳴き声を発した。
「はっ……気持ち悪い虫。──くたばれ」
──グシャァ
突然訳も分からず肉塊となって崩れ落ちていった。頬に血がつき、辺りには内臓が散らばった。
「ほら、やっぱりいた。さっきこの子を見かけたんだよ」
地べたに座り込んで唖然としている私の目の前にやって来たのは、冒険者の人たちだった。
「だからって助ける義理は私たちにはないでしょ。冒険者なんだからそこん所は覚悟してやっているんだろうし」
「それでも見捨てていい理由にはならないだろ?」
四人組の冒険者の人たちだ。
やっぱり単独で冒険者になるなんて無茶な話だったんだ。
バカだなぁ……私。
「大丈夫かい?怖かったよね、こんな気味悪い魔物と出会って」
ハンカチを取り出し、私の顔についた魔物の血を拭いてくれながらそんな事を言われた。
初めて誰かにそんな風に話しかけられた。
「これ……私たちの討伐対象じゃない?虫の形した二足歩行の魔物って」
「君、ランクは……?」
「……Dランク」
「あー……そっか。それなら尚更恐怖を感じただろう。この魔物はBランクだし、本来であればこんな森の浅い場所には出ない魔物だからね。行こう、森を出るまで俺たちが一緒にいてあげる」
私に向かって手を差し伸べ、そんな優しい言葉をかけてくれた。
ギルドへ着くまで、この人はずっと私に話しかけ続けていた。当たり障りのない、ほんの何気ない事ばかり。
ギルドに到着して彼らはクエストの報告に向かった。
私はクエストを成功できていないままギルドに戻ってきてしまった。仕方なく、失敗という報告をするしかない。その場合は罰則金を支払わなければいけない。
「あ、あの……私が受けたクエスト、その……」
「──忘れてるよ、これ。はい」
受付に突然ある物を置いて、すぐさま去っていってしまった。
「あら、これはイノシシの角ですね。ありがとうございます、本日のクエスト完了です。お疲れ様でした」
私はこんなものを忘れていない。きっとあの時、虫の魔物の体内から出てきたイノシシの角なのだろう。
すぐにあの人の後を追ってギルドを出た。
「あの……!」
他のパーティメンバーはおらず、彼一人だった。
「何か……?」
振り返り顔が見える。
あの人の顔を見るだけで、心臓の鼓動が今まで以上に激しく動いている。
なんて伝えればいいんだろう。
ストレートに言う?
もしその後、引かれたら?
それでも今この機会を逃したら、次がいつになるのかなんて分からない。
じゃあなんて言えばいい?
「私を…………弟子にしてください!」
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