#3 条件

 ギルドの冒険者ランク昇格には毎回試合を行わなければいけない。それまでにもギルドへの貢献度が満足でなければならないが、それはクエストを頻繁に受けていればあっという間だ。


 一つランクが上というだけでその実力も大きな差が存在している。そんな相手に善戦しなければならないのだ。


「ガヴィルさんにはAランクパーティの手助けをしてもらいたいのです」


 試験でもするのかと思っていたらだいぶ斜め方向の話になった。


「パーティの手助けだと……?しかもAランクパーティの?」


「はい。手助けと言っても護衛のようなものなんですけど。Aランクのクエストを受けようとしているパーティがいるのですが、そのクエストというのが少々特殊なものでして、受諾できないでいるんですよ」


「でもなんでまた、それを俺に?」


「だって、ガヴィルさんは元はAランクパーティに居たじゃないですか。ガヴィルさんの実力は分かっているつもりですし、任せられると判断しました」


 単なる試験とは異なり、中々面倒なものとなってしまった。だがカミラに任せられると言われたら断りずらい。


「ガヴィルさんはパーティの補助という役割になります。一応はパーティのクエストですので、もし仮にパーティメンバーが危機に瀕した場合などにお願いしたいのです。もちろん何もなかった場合にもCランクにはなれます」


「分かった、引き受けよう」


「ありがとうございます♪では早速ご案内しますね」


「なっ……!?今からか」


 まさか今すぐの話だとは思っていなかったために戸惑いを隠せない。


 連れられてやって来たのはギルドの受付エリア。


「こちらが今回一緒に行くことになるAランクパーティです」


 男女三人組で構成されたパーティだ。

 男二人はともに魔法使い、そして女が剣士だ。


 男二人はどことなく知り合いのように会話をしているにも関わらず、女の方は少し距離を空けている。


「こちらの三人は臨時のパーティになります。Aランク冒険者三人で構成されていますが、昨日の今日で組んだのです」


 というと女はソロの冒険者か。


「そして、こちらが今回のクエストに同行していただくガヴィルさんです」


 カミラが俺の紹介をした瞬間、剣士の女と一瞬目が合った。


 こうして、臨時で結成されたパーティにまた一人加わったことで初対面だらけのパーティが誕生した。


 クエストの詳細は、Aランクの魔物討伐となっている。

 "辺境の大地に姿を現したドラゴン。近くにあった人の住む村は全壊、クエストを受けた冒険者も死亡した。"

 とある。非常に物騒な話だ。


 当初はBランクのクエストだったというが、ドラゴンという時点でAランクのクエストにするべきだったのだ。


 そしてこのクエスト最大の難所は、その辺境の地と言われる場所までの距離だ。


「おいおい……歩いて3日って、冗談だろ……」


 とうにミトルテ王国を出て、目的地へ向かって森の中を歩いている。


「………ガヴィルさん」


 剣士の女が俺の横を並行して歩く。


「あっ、そういえばお前たちの名前を聞いてなかったな」


「僕はジョズ」


「……トーマスだ」


 前を歩く男二人が後ろに振り向きながらそう言った。パッと見で真面目そうなジョズと、人見知り気質がありそうなトーマス。

 ただの偏見だ。


「えーっと、君の名前は?」


 流れで名前を言うのかと思っていたが、なぜか俺と顔を見合わせて黙っている。

 何か不機嫌なことでも口走ったのだろうか。女に気を遣うのはもう懲り懲りなのだが。


「………シオン、です」


 俯きながら名乗ってくれた。余程名前を名乗るのが恥ずかしいのか、はたまた嫌だったのか。


 肩口で切り揃えた紫の髪が俯く顔に落ちている。


 俺とは剣のスタイルが全く同じようだ。ただ、剣の長さが少し合っていないようで、彼女の身の丈と変わらないサイズの長剣を背負っている。

 大剣として扱うのならまた違ったスタイルの戦い方があるのだろう。


「どうして剣士になろうとしたんだ?」


 唐突にそんな腑抜けた質問をしてしまった。理由は様々だろうに、魔法が使えないからとか、剣が好きだとか。


 だが彼女の質問の答えはそのどれよりも違っていた。


「私、最初は嫌々剣士になったんです。魔法の才能もヒーラーの資格だってないから、仕方なく剣士になったんです。でも、やっぱり冒険者の道はそんな甘くはなくて。魔物を初めて見たとき、足がすくんでしまって、戦うことも逃げることもできなくて。そのときに助けてくれた冒険者の人がいたんです」


 その冒険者に憧れて強くなろうと決めた。

 そう話しているシオンの横顔は笑っていた。


 道中、森を歩きながらも度々魔物が姿を現している。だが、いくら臨時で組まれているとはいえ、個々がAランク冒険者なだけあり苦戦した様子は一切ない。


 カミラに言われた通り、今回俺はほとんど手出ししないことが条件となっている。


 歩くそばから近づいてくる魔物を、自分の身の丈サイズの剣をものともせず自由自在に振り回しているシオン。

 その動きにはほとんど無駄がなく、少ない振り数で確実に敵を葬っている。


 克服したその日から、よほど努力をしたのだろう。とても洗練された剣をもっている。


「──おい!見てくれ」


 真面目そうなジョズが叫んだ方角へ走って向かうと、そこには巨大な縦穴があった。

 底は見えず、暗闇だけが下に続いている。


「……魔力の濃度が半端じゃないな」


 今度はトーマスが言った。


 確かにこの穴からはとてつもない魔力を感じる。そして強大な存在がいることを予感させる。


「ひとまずこんなものは後回しだ。クエストが終わったらギルドに報告すればいい」


 そう結論づけられてみんなが穴から離れだした瞬間、強力な気配を感じたが時すでに遅し。穴の中から吸い込むように強力な重力魔法が発動していたのだ。


 縦穴から吸い上げるようにして重力が発生しているため、地上に立つ俺たちの体は宙に浮き、為すすべもなく暗闇へ引きずり込まれていく。


「───ブラックホールか……!」


 一帯の木々も土壌から根こそぎ吸い取られていた。

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