第2話 もう1つの頭


四肢を見た


誰のだろう。少なくとも、自分のものでは無いだろう。困惑する僕に話しかける声が1つ。研究員の女だ。名前も、立場も、何も名乗らない。ただ、常に笑ってる女。

「起きたようだね。驚いたかい?この四肢はねぇ、今の私の最高の技術を使って作った人工の四肢さ。人工の四肢自体は50年前ほどからあったが、これほどクオリティの高いのはうちしか作れないんじゃないかな?どう?本物そっくりだろぉ?脈、血管、皮膚、筋肉、全てが完璧に作られているんだ。それからねぇー─────」

「おい…」

「え?なに?もしかして聞いてなかった?もー、しょぉーがないなぁーー」

「違う!!!」

「あ?」

「それ、まさか、俺につけるわけじゃないだろうな?」

「…おや、随分と察しがいいようで。」

人工の四肢を付けることは別に反対ではない。最近は人工の人体の質も上がり、人が着けても問題ない程になったと、ニュース番組で見た事がある。しかし、ぼくの病気の原因がどこにあるのか分からないのなら、つまり…

「俺の体を、全部人工にして治すつもりか?」

「君は私が思っているよりもずっと察しがいいらしい。しかし、何が不満なんだ。パーツを全部付け替えたら君はすぐにこのコンクリート部屋から出られるんだぞ?それに、私たちは君の体の病気を死ぬまで研究することが出来る。それに君は世界初の体全てが人工の人間として世界に名を轟かせることが出来る。ウィン・ウィンの関係じゃないのかい?」

「嫌だ…だって、全部体を入れ替えたら、それは元の俺とは言えないじゃないか…」

「…ところで、船井君。テセウスの船、というのを聞いたことがあるかね?」

「テセウスの船…?」

聞いたことがある。それは確か…

「あるところに、大きな船があった。しかし、海を渡っていくうちに、様々な部分が壊れてしまう。壊れた部分を新品の物に取り替え、修理をしていくうちに、その船は全てが新しいパーツに修理されていった。元々の船のパーツは残っていないがそれは元の船と言えるのだろうか。という物だ。私は、パーツが全て新しく置き変わっても元の船だと思うんだが…君は、正反対のようだね?」

「当たり前だ!!お前は自分が…」

「さてと、そろそろ静かにしてもらうか。」

すると、女の横にいたスーツの男が注射を取り出した。

「おい!!少しは話を!!!やめろ!!嫌だ!!俺は…俺は…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいや…だ…」

目が覚めるとそこには僕を縛る拘束器具と椅子が無く、ただ、コンクリートの上で横たわっていた。手足は動く。しかし、自分のものでは無いみたいだ。切り落としたい。今すぐ、この感覚から逃げ出したい。

その日は、一日中何も出来ずに、ただ手足と壁を数分置きに交互に見つめる空虚な時間が過ぎていった。ご飯…もう何日も食べてない。水は部屋にあるボタンを押すと運ばれてくる。あぁ、母さんのご飯が食べたい。でも、ここから出る頃、俺は本当に母さんの子供なんだろうか。愛されるのだろうか。もう何も考えたくない。でも、ずっと無意識に考えてしまう。このまま俺は消えてしまうのだろうか。

その後も、1日づつ体を交換された。腹、胸、背中、腸、胃、心臓…もう、どこが変わったって同じかもしれない。あの女が言った。

「明日は残りのやつ全部替えちゃおっか。」

出られる。嬉しくは無かった。悲しくもなかった。ただ、何も無かった。

次の日、それは今までより長く感じた。

地獄が終わり、目が覚めると、そこは手術台で、血の着いたメスを持ったあの女と、クーラーボックスがあった。起き上がり、

僕は


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