夕焼けの丘
鈴音
夕焼けの丘
ぽつぽつと、雨が降り出してきた。大粒の雨に打たれるのを嫌がった私は、急いで走り出したけど、次第に雨足は強くなってきた。
結局、逃げきれずにずぶ濡れになった所で手頃な雨宿り場所を見つけて、駆け込んだしばらく後。とうとう本降りになって、私は出られなくなった。
この先にある、夕焼けの綺麗な丘でお昼を食べて、お昼寝してから寝起きの一番に見ようと素敵な計画が台無しになってしまったけど、これはこれで中々風情がある。と、お弁当を広げて。
背の高い木々に囲まれて、雨がざざぶり雫がぽたぽたと響く中、お弁当に手をつけた。
塩漬けの、少し硬い肉と、ワインをほんの少し混ぜた水、堅焼きのパン。昔、遠い所へ冒険に出ていた父がよく食べていたものを、真似して作ってみた。
こんなに硬いパンを、どうやって食べるの? と聞くと、水でちょっとだけふやかして食べるらしい。でも、柔らかすぎてもだめだって。
しっかりと顎を使って食べることで、お腹もいっぱいになるし、沢山噛めばそれだけ美味しさが増えていくらしい。
その時はよくわからなかったけど、こうやって雨の中、ゆっくり食べていると、その意味がよくわかる。
大きめのお肉を噛みちぎって、顎が疲れるくらいに噛み続けていると、ただしょっぱいだけだったお肉から、じゅわっと旨みと脂が溢れてきて。それから水を飲むと、本当に少しだけ、お酒好きのお父さんの気持ちがわかった。
それから、パンも同じ。小麦って、こんなに甘いんだ。それに、パンとお肉を一緒に食べるのもいい。あまじょっぱくて美味しさが溢れてきて。うん、顎は疲れるけど、のんびりとご飯を楽しむだけで、こんなに変わるんだ。
……雨は、まだまだ止みそうには無い。少し、空気が冷たくなってきた。けど、ワインのおかげなのか、体はぽかぽかとしていて。ここまでの道のりで疲れた体も、ぽやぽやとして不思議ないい気分になって。
背の高い木を見上げると、滝のような雨水は下に行くに連れて弱まって、葉っぱにぽつりと溜まってはまた小さな粒になって落ちて行って。
心地の良い雨音と、変わらない景色。お腹もいっぱいで、眠たくなってきて。
小さいあくびも漏れてきた所で、横になって。
――目が覚めると、雨はすっかり止んでいた。
お世話になったキノコを少し削り取って、晩御飯の鍋の具にして。落ちていた抱えるほどの木の実も、何個か拾ってかばんにいれて。
それから、ぬかるんで滑る地面を、なんとか進みながら、目的地を目指した。
高すぎる丘を、息を切らしながらなんとか登りきったとき。
目の前が、ぶわっとオレンジに染め上げられて、きらきらと雨の残滓が辺りに輝きを乱反射させた。
鮮やかすぎるその景色と、雨の後の優しい香りが、ここまでたどり着いた私を祝福してくれているようで。
そのまま、暗くなるまでその景色を眺めて、森の実りたっぷりの鍋を食べて、暗い森の中へ帰っていった。
夕焼けの丘 鈴音 @mesolem
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