第15話 お弁当を持って


 酒呑に半ば強引に決められて、菰野さん達と祖父が行く獅子狩りに同行することになってしまった。それを聞いた祖父は大変良い笑顔で


「よし。じゃあ、迅には弁当を頼もうか。お萩が喜ばれるだろう。10人前をお願いして良いか。

なに、お前は後ろに下がって見てりゃいい。酒呑が一緒なら何も問題はない」

とご機嫌だ。お萩の大量注文が入ってしまった。


 この頃の迅は、物を作る速さと量が格段に上がっている。手早くなったというのも、まああるのだろうが、その理由の大半は、箱庭で作っているからだ。


薬の調薬をしていて気がついたのだが、最初は全部自分で段取りを組んでする。二度目からは、ちょっと目を離した隙に、下準備や片付けが終わっているのだ。

どうにも箱庭が手伝ってくれているようだ。それで、試しに調理も箱庭でしてみたら、二度目の作業からはやっぱり手伝ってくれる。


「手伝えるのが嬉しいらしいぞ」

酒吞にそう言われて、作業は全部箱庭ですることにした。


「箱庭、いつも手伝ってくれて、ありがとうな」

迅は作ったものは一種類につき一つを箱庭におすそ分けしてる。


何となくやっていたことなんだが、次に来る時は器はキレイに洗われて置いてあるので、喜んでくれているんだなと思っている。

酒吞に確認するのはなんとなくシャクなのでしていない。そんな迅を見て酒吞はにやにやしているが。


そうした事もあって、先の祖父のセリフになる。

「仕方ないな。わかったよ」


 そうして、当日になった。


 祖父は頻繁に魔物狩りに参加しているようだ。もともと祖父母が田畑をコリに委託したのは、魔物狩りにより多く参加するためだったらしい。


 コリは、村の中で役割分担を円滑にするためのシステムとなっている様だ。迅の母のように全く才がないならともかく、多少とも対抗手段がある者は村に残る。


 村の人々は戦闘特化の者ばかりではない。製造や回復、様々なタイプの巫女等、能力は多岐にわたるのだ。皆が協力しあい、それぞれの役割を果たして村を支えている。


 迅は酒吞がいるので、今回の魔物狩りの参加が認められたのだろう。そうは言っても、実際に戦うわけではない。薬を持って医療要員に近いだろう。それとも食糧班か ?


 祖父は弁当を10人前と言っていたが、やって来たのは4人だ。菰野さんは知っているが、他の3人は知らない。宍原、猫本、柳原と名乗られた。


皆似たような防具をつけている。鉢金、手の甲まで覆う手甲、胸当というか胸甲みたいなもの、名前はよくわからないが足にもプロテクターのようなものも着けている。どれもそれほど頑丈には見えないが、強度は大丈夫なのだろうか。


人数が揃って、今更ながらそんな事が気になってくる。異世界では、なんかこう聞いたことない鉱物でできた、嫌にガッチリした鎧みたいなのを皆が身につけていた。

(ああ、でも、あいつらはそうでもなかったか。勇者の相方は防具は重いから嫌だと言って着けていなかったな)


「大丈夫ですよ、この防具頑丈ですよ」

迅が、考えていることが何故わかったのだろう。菰野がニコニコしながら言ってくる。そういえば彼はいつもニコニコしている。


「あなたのお祖父さんはこの村でもトップクラスですから」

そう言って迅の心配を和らげようとしているのだろうか。

「それに、今日はお萩もありますし」


大変楽しみにしているようだ。だが、相変わらずの胡散臭さ全開に感じるのは、何故だろう。この人、悪い人ではないはずなんだが。


全員が揃うと

「酒吞、気配消してくれ」

祖父が酒吞に声を掛ける。

「獅子共は臆病じゃからな」

ニヤけた酒吞がそう返す。


そうして、皆はお萩を一つ食べてから、山の奥へと入っていく。

お萩は、エナジードリンクか?


結論から言おう。獅子は六匹を仕留めた。

ほぼ肉弾戦だったのが菰野さんと穴原さん。人ってあんなに素早く動けるんだってびっくりした。菰野さんは時々見えなかった。


猫本さんは刀で切り倒すし、柳原さんはクナイ使いだった。祖父は風を起こして、獅子の頭をはねていた。

「ああ、カマイタチだ」

酒吞が教えてくれた。


「猟銃とかは使わないのか ? 」

そう聞くと、

「妖物は火薬の匂いに敏感でな。銃を持っていると近づいて来ない奴がいる」

「銃はな、相手によっては撃てなくなるんですよ。暴発することもありますからねえ」

と教えてもらった。

火薬と相性が悪いのだろうか。


獅子は祖父が氷漬けにした。すると菰野さんが大きな風呂敷を広げてその上に氷漬けの獅子を一匹乗せる。

風呂敷で包むとスルンと風呂敷がぺちゃんこになる。で、再び開くと獅子はいない。それを6回繰り返す。

「いっぺんですむようなもう少し大きな風呂敷が欲しいですね」

不思議な風呂敷を畳みながら、菰野さんが言う。


驚いている迅を見て

「お前、風呂敷を見るのは初めてだったか」

と言われた。

「いや、普通の風呂敷は見たことあるけど。何これ」

四次元ポケットでもついているのか ? と突っ込みたい迅である。

「この村の風呂敷は特別製だ」

ニヤリと祖父が笑う。

この村、本当にどうなってるんだ ! と叫びたい迅。


そんなこんなあったが、食事が出来そうな場所を見つけ、今はお弁当を広げている。


祖父以外はそれなりに汚れたため、迅が覚えた生活魔法の清浄できれいにしたところ、大変喜ばれた。

後衛だから祖父は狩りに行っても汚れることが少ないらしい。だから迅は気が付かなかった、という事か ?


お弁当10人前というのは、1人2人前という意味だったようだ。皆、お萩を美味しそうに食べている。おかずは唐揚げと卵焼き。


迅と酒吞の分は別だ。酒吞は肉々言うので肉巻きおにぎりでおかずは同じ。迅も肉巻きおにぎりを頬張っている。

何もしていないが、お腹は減る。あんなやり取りのあとでも、問題なくおにぎりをパクつく。


段々と村に馴染みつつあると思っていないのは迅本人だけかもしれない。

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