第16話 電話

すみません。今回はとても短いです。




「ああ、じーちゃんも俺も元気だよ」


『そう、よかったわ。この前送ってくれた道の駅のお菓子詰め合わせセット、みんなで食べたわよ。ご馳走様。

お兄ちゃん、えらく気に入ってたわよ。プリン、また食べたいって言ってたわ』


祖母のお菓子がお気に入りだった兄の事だ。今の迅のお菓子も気に入ったのだろうか。


「ああ、届いたんだ。喜んでもらえたようで良かった。にーちゃん相変わらずだね。また、機会があったら送るよ」

(今度はカステラプリンも入れて送ろうか。きっと気に入るんじゃないかな)

と思いながら。


『あんまり無理しなくていいわよ』


「いや、こっちで色々と仕事してるからさ。じーちゃんとこの畑だけじゃなくってさ。前にちょっと話ししてたコリ、あそこで仕事の下請けとかもやってるんだよ。その伝手でお菓子、送ったんだよ」


『それもいいけど。迅は、公務員試験どうするの。このまま受けないでいる気なの。あれは年齢制限とかもあるんでしょう』


母の声は、物言いたげだ。迅は農家を継ぐという話を既にしているのだが、母の中では納得がいかないのだろう。


「このままここで仕事してくよ。じーちゃん、此処にずっといる気だもの」

この話はきっといつまで経っても平行線のままだろうな、と迅は感じている。


『そりゃ、お前がいてくれた方が、安心だけど……』


「だろ。割と色々と仕事があるから、大丈夫だよ」


『でも、将来の事とか考えないと。そんな中途半端な事だけじゃなくて』


「判ってるよ。でも、農家だってちゃんとした仕事だろ」


『それは判っているわよ。そういう事じゃ無いの。でも、色々とあるじゃない。そっちじゃ結婚相手だって見つかるかどうか』


「そんなの、どこだって同じ様なもんだよ」


『村役場の試験とかもあるんじゃないの。そういうのも受けてみなさいよ』


 母はこの村に戻って来ないように、軽い暗示が掛けられていると聞いている。それは母の安全の為だから仕方が無いと今は思う。


だからだろうか、自分の家ひいては家業の農家についても良いイメージがないようだ。祖父母についてはそんな悪い印象はないようなのだが。土地に嫌悪感を持つようにでもしてるんだろうか。


「ま、じいちゃんも俺も元気にやってるから。大丈夫だよ」







 電話を切って、ちょっと溜息をつく。自分が作っているお菓子の詰め合わせを送ったお礼に、母から電話が来たのだ。


 迅は家族の事が嫌いではない。ただマメでもないので、自分から電話をかける事はあまりしていない。なんだかんだと言って電話をかけてくるのは母からだ。


正直言って、何を話して良いのか良く分からない。生活の場が違ってしまうと、共通の話題がわからない。大学に入ってから一人暮らしをしていたし、三年間ぐらいは異世界にも行っていた。丸めてしまえば感覚的には十年近く離れているのだ。


それだけ離れてしまうと、父や兄の話をしてくれても、その話の前提条件も環境も離れているからよくわからない。近所の話をされても更に判らない。


話の弾みようがないのだ。母の話に興味を持つのは難しい。その辺りは、母はわかっているのかどうか。


今回みたいに「将来の事」とかでは、お互いのいる立場が違っていて話し合いにはならない。


それでも、心配はかけたくないので、それなりに話はするようにしている。だが、酒吞の話や魔物の話、祖父の実態については、話せないし話す気もない。


「ま、心配してくれるのは、悪いことではないからな」

そう思う事にしている。


 大学時代、異世界にいた時間、そして現在、長く離れて暮らしているから、お互いにズレているのは仕方ないことだ。そう感じている。



「おい、いっちゃんが来たぞ」

祖父の呼ぶ声がする。薬草の栽培が順調に進んでいる。

「判った、今行くよ」

スマホをポケットに仕舞い、玄関の方へ向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る