SS 小さな男の子とお手伝いさん

仕事が詰まっているのは相変わらずで、休みはまだ続くのですが。

フォローが300を越え、☆も160を越えていました。

皆様、ありがとうございます。

本編の続きはまだちょっと先になりますが、このままだと何だか申し訳ない気がしてきましたので、SSを書いてみました。

本編とは関係の無い話ではありますが、楽しんでいただけると幸いです。


*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「ねえ、おっきいおいちゃん」


酒呑は最初、キョロキョロと周りを見回したが誰も見えない。だが、服の下を引っ張られているのに気がついて、下を見るとそこには小さな男の子がいた。


(こりゃ、面白い)

下に居る自分は相当抑えて入るが、それでも人の接近にここまで気が付かないとは。この小さな子供に興味を持った。


「ねえ、おいちゃんはお手伝いさんなの?」

首を見上げて、一生懸命聞いてくる。


「おう、鈴花から聞いたのか?」

自分を見上げる子供も面白いが少し気の毒だと、酒呑はしゃがんで視点を合わせようとしたが。それでも、酒呑の方がでかい。男の子は嬉しそうにきゃ、きゃと笑った。


「おいちゃん、大きいね。僕も大きくなれるかな」

そう言ってから思いついたように、


「あれ、すずかってだあれ」

「何を言っておる。お主の祖母であろう」

「そぼ?」


「お前のお祖母さんの事だ」

「おばあちゃんは、すずかって言うの?」

「祖母の名前も知らんのか」


「だって、おばあちゃんは、おばあちゃんだよ」

男の子は、首をコテンと傾けた。


「お主にも名前があろう。兄や父母にも、友人にもあるだろう。ならばなぜ祖母はないということになる」

酒呑にそう言われると、男の子はちょっと考え出した。難しかったのかも知れないと思っていると、


「そっか。おばあちゃんのお名前か。すずかっていうんだね」

うんうんと一人で頷いている。


「おてつだいのおいちゃんにも、名前があるの」

「あるぞ」

「なんて言うの」

酒呑はニヤリっと笑うと


「いや、教えられないな。お前が大人になったとき、お前の手伝いをする事になったならば、教えてやろう」


「ええ、なんで」

「そういう約束事になっておる」

「やくそく ? そうなんだ」


約束事という言葉の意味はあまり判ってはいないようだが。それでももじもじしながら、男の子は酒呑を見た。


「じゃあ、早くおとなになるようにがんばるね」

「そうだな」


なんとなく、酒呑は男の子の頭を撫でた。男の子は嬉しそうに、くすぐったそうにキャッキャと笑う。


「ねえ、おいちゃん。僕の名前はね、つちぶちじんっていうんだよ。覚えておいてね」

「おう。覚えておいてやろうとも、ジンよ」


 異能が発現する前の小さな子供の場合、稀に酒呑などでも存在を関知できない事がある。幼子は神の子とも証されるように、存在が希薄なのかもしれない。だから、迅の気配を感じられなかったのは、そのせいではあったのだろう。だが、酒吞はジンと名乗った子供を覚えていた。


成長し、その母と共に無能だと知れた時、ほんの少し気落ちした。鈴花が居なくなった事で洞窟に自らを封じたのは、多少はその事もあったのかもしれない。

酒吞自身はそんな事を認めることはないであろうが。





「おっ、酒呑、今戻ったのか。今日は、いつまでいるんだ? それによって飯が変わるぞ。今日はまだ何も用意してないからな。こないだみたいに直ぐに戻るなら、握り飯ぐらいしかないからな」


迅は、箱庭から出てきた酒呑を見るなりそう言った。丁度、庭で洗濯物を取り込んでいる所だった。

酒呑が戻るときは、食事時とは限らないので、この頃ご飯だけは用意してあるのだ。


「ふん。折角獲物を持ってきてやったのだから、もう少し奮発しろ。美味い飯が整うまでは待っててやろう。取り敢えず、握り飯を寄越せ」


飯を食わなくとも問題はないのだが、酒吞は迅の作った飯を食いたがる。


肩に掛けていた獲物をドサリと庭に置く。

ふと、迅を見て昔を思い出した。一生懸命見上げてきたあの小さい頃の面影が、ふとよぎる。

「全く、あの時と比べるとでかくなったものよのう」


迅は酒呑との昔の会話など全く覚えていない。だから、何を言っているのかという表情だ。


酒呑はそんな迅を面白がって、迅に近寄ると頭を撫でだした。


「お前、何すんだ。やめろ」

「がははは。なりはデカくなったが、まだまだじゃな」

迅は何やらわめいていたが、それもご愛敬だと酒呑は思った。

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