第13話 変化していく日常


 洞窟に戻った酒呑だったが、結局はほぼ毎日会っている。迅経由でなくても、箱庭を通じて出入りが自由なために寝るのに離れを使っているという。腹が減ると、飯を食べに箱庭からやって来る。


ただ、現れる時間はランダムだ。

真っ昼間に来たと思うと、夜になってから来ることもある。朝に来て朝飯を食べて昼寝をしていく事もある。

気ままなものである。


後から出来た離れは、酒吞の為に用意されたものだと彼から聞かされた。酒吞が眷属になったので、行き来がし易いようにと。


「ホント、箱庭ってスキルとかでも無かったんだ。いや、前から意思があるとは思っていたけど」

自分とは意思疎通ができないのに、酒呑とは仲が良さげな箱庭に対して、ちょっとショックな迅であった。


家が日本家屋になったのは、迅に気を利かせてくれたからだと聞いても。


対抗する訳では無いが、祖父にも伝えた事だしと、箱庭に入る時間が増えている。家畜の世話や掃除、酒吞の布団を天日干しなどをしている。


折角だからと、異世界の薬草も煎じて簡単な傷薬等も作り置きしている。箱庭は今でも薬草園を保持している。


この薬草、薬になってしまえば、持ち出しても問題ない。それなのに、調薬するのを箱庭の外で行なうと、薬効が殆ど現れない。


だから薬草を扱うのはもっぱら箱庭になっている。だから迅は簡単なものしか作っていない。そうは言っても自宅の薬箱は、迅が作った薬が中心になりつつある。


 食卓に並ぶ肉については、酒吞が獲ってくるようになった。獲物についてはデカイので迅と祖父では処理しきれない。


それに妖物の場合は色々と前処理もあるというので、コリに依頼して解体等を請け負って貰っている。


「上質な素材を納品してもらって有り難いです」

先日、顔を出した綿貫は嬉しそうだった。


肉については戻してもらっているが、素材として使えそうなモノはコリに卸している。

それで解体手数料と相殺にしてもらおうとしたら、かえって素材の代金を受け取ることになった。


きちんと解体手数料は相殺してもらっているのに返金がある。

「妖物の素材って高いんだ」

と感心してしまった迅である。

肉については、多くは酒吞が平らげるので、余ることはない。


酒吞は今迄狩ってきた妖物を持ってきてはいなかったそうだ。祖母と共に狩ってきた時に、分けてくれることはあったらしいが。


祖母曰く、

「酒の肴にしている」

と言っていたらしい。酒吞が血を飲んだ妖物は崩れ落ちてしまうので、使い物にならないと祖父が言う。


「で、お前は肉を食うので良いのか ? 」

そう聞いてみると

「ああ。持ってきているのは、調理して美味そうな奴だ。他は精を吸ったりしてるがな」


血ではなく、精を吸ってたらしい。

食事をしなくても問題ないらしいが、祖母の作ったものや迅の作ったものは特別らしい。


酒吞が獲物を獲ってくるのは、迅に妖物を見せるためだろうと、祖父の幾太郎は思っている。が、そうとは口に出さない。


迅は、まだ何処か自分の周囲について認識が追いついていない。だから、現実を見せるために獲ってくるのだろうと。


少しずつこの村に慣れるには良い事だろう、そう思ってもいるからだ。



 そんな中で、綿貫が山野辺のおじさんと一緒にやってきた。


「カステラプリンを納品、ですか」

山野辺さんは少々困った様に

「すまないね、迅君。うちの婆さんが、君からのカステラプリンを食べてから、少しずつ体調が良くなってきていると、つい話してしまって」


あの後、カステラプリンを気に入っていると聞いて、定期的に山野辺さんのお婆さんに持っていっているのだ。勿論、箱庭産の卵と牛乳で作っている物を、だ。


元々彼女は体が弱く、祖母の作ったお菓子などで体調を整えていたらしい。祖母が亡くなったことは、精神的にも肉体的にも痛手だったのだろう。


迅の作ったカステラプリンは、身体に合ったらしく起き上がれるようになったそうだ。そこで、山野辺さんが定期的に買いに来ている。


近所だから金銭のやり取りは、と迅は思ったのだが、

「こういう事は、ちゃんとした方が良い。君のお菓子は商品として売られているんだから」


そう言われた。そこで、話をして野菜や果物など、生産物で物々交換してもらうことにした。山野辺さんのところは専業農家で、かなり幅広くやっているし、評判も良いのだ。


「ちょっと材料に問題もあって。あれと同じのは、納品できるほど作れないんです」

タマゴと牛乳には限りがある。酒吞も箱庭の卵が好きだ。

迅が断ろうとすると、


「いえ、全く同じでなくても構いません。勿論、同じならば良いのですけど」


山野辺のお婆さんを元気にしているのは、箱庭産の卵と牛乳のお陰だと迅は考えている。効果を期待されても、と思う。


「あれは祖母のレシピを参考にしてはいますが、そのものではないんです。材料が普通なら、効能は無いと思いますが」

そうも言ってみたが、


「美味しいと聞いてます。それだけでも、十分な価値があります。今、割とカステラプリン、流行っているんですよ。

試作品として少しでもいいので、とりあえず一度、作っていただけませんか」

と説得されてしまった。


 そうして、迅が納品する品物がまた一つ増えたのだった。カステラプリンは、効能はともかく確かに流行っているらしい。





すみません。仕事がちょっと詰まってきました。

暫くお休みします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る