第12話 物見の巫女


 手土産にしたのは、カステラプリンと蒸しパンだ。レシピにはカステラプリンはなかったのだが、レシピを参考にしながらネットなどをみて作ってみたのだ。


プリン液やカステラの元は、レシピの要領で作ってある。加えて卵と牛乳は、箱庭産を使った特別製にした。

何となく、そう何となくそれが良いような気がしたのだ。


「よろしくお願いします」

迅は祖父と共に約束の時間に訪れたが、奥の部屋に通されたのは一人だった。

布団から上半身起こした状態の「物見の巫女」と相対した。


この村には、現在「物見の巫女」、「癒やしの巫女」、「見鬼の巫女」がいると言う。眼の前にいるのは、近所のお婆さんだけれど、巫女として相対しているのは不思議な気分だ。


子供の頃、祖母と共にこの家へ遊びに来た時には、よくお菓子を貰った記憶がある。その時の人の良さげなおばあちゃんという印象は残って入るが、別人のような雰囲気だった。

これが役割をもって相対しているということなのだろう。


「よろしくお願いします」

迅はそう言って頭を下げた。

「こんな格好で、ごめんなさいね。この頃、ちょっと起きるのが面倒でねえ。

でもまさか迅ちゃんが、後を継ぐとは思わなかったわ。肩の力を抜いてちょうだいな。そんなに緊張しなくてもいいわよ。貴方の力を見るだけで、それ以外は見えないから」


その声は昔と変わらずに優しく、思わずホッとしてしまう何かがあった。


姿勢を正して、正面を向き物見の巫女と目が合った。ふわっとその目の中に引き込まれそうな何かを感じる。だがそれは一瞬で過ぎていった。


「あらあら」

少し、戸惑い気味に物見の巫女は言う。


「貴方、力を全く感じなかったのは封印されているからなのね。でも、その封印が手を中心にすこしほつれているわね。それで力が放出されて、箱庭に力を与えられるようになっているようね。

あなたの箱庭は、あなたに、憑き物ね。貴方の力そのものではないわ。でも、あなたの箱庭はとっても貴方を気に入っているから。余程の事が無い限り、貴方と共にいるでしょう。

貴方からの力の供給が増せば、広がっていくかもしれないわ」


「広がるって」

「そうね、今は一軒家ぐらいの広さかしら。受け渡される力が多くなれば、家自身が大きくなるという事もあるでしょうし、敷地がより広がっていく事で、何軒も家が建つこともあるでしょうね。

また、何か力を得るような事が起きれば、広がっていくでしょう。

ただ、あなたの力はまだ、封印されたままだからねえ。その封印が解けなければ、さほど広くはなれないと思うわ」


ほうっと息を吐くと、

「鈴花さんが前に言っていたの。貴方が6歳の時に、一時力を感じたんだって。でもその後はまったく感じなくなったので、気のせいだったのかしらって。

そうじゃなかったのね。きっとあなたが6歳の時に、貴方の力が封印されるような事があったのね。

でも、今の私だと貴方の力を封印したものが何か、どうやったら解けるのか迄は、読み取れないわ。

その封印が解けないと、貴方の持っている力も見えないわね。ここまでしか判らなかったわ」

少し疲れたのだろうか、顔色も悪くなったように見える。


「ごめんなさいね。ちょっと横にならせて貰うわ」

申し訳なさそうにそう言って、彼女は横になった。


「どうもありがとうございました。あの、蒸しパンとかお土産もってきたので後で食べてください。では、失礼します」


「あら、ありがとう。後で頂くわね」

迅はもう一度深く頭を下げて挨拶をし、部屋を出た。


居間では、祖父が山野辺の叔父さん達とお茶を飲んでいた。

「あの、おばあさんはちょっと疲れたといって横になっています」



迅が伝えると、

「ちょっと、様子を見てくるわね」

と小母さんが部屋を出て行った。


残った小父さんに

「今日は、ありがとうございました」

そう伝えると、

「いや内の祖母ちゃんのお役目だからな」

そう笑って応えてくれた。


何が見えたのか、それについては一切尋ねてこない。それは本人やその話が必要な者以外、聞く必要は無いからだ。


誰がどんな能力を持つのか、関わりが無ければ知ることはない。

そうして、山野辺家を後にした。



 迅の話を聞いて酒呑も、祖父も首を傾げる。

「封印されているってか。なんでまたそんなことに。お前が6歳ってことは、今から17年くらい前か ? その頃になんかあったかな」


「ばあさんやお前のプリンを食べてもそのまんまということは、呪詛とかじゃあないんだな。まあ、物見のばあさんですら判らんことは俺が考えても判らんだろうよ」

祖父はとっとと投げた。


「箱庭は憑き物だったんだな」

「俺の能力っていうのとは、違うって言われた。俺についている憑き物だって。酒呑も言ってたけど、封印の綻びは手にあるらしい。で、この綻びから漏れてくる力を得ていると言ってた」


「多分、封印が綻びたのはお前の言ってた異世界転移っつう奴のせいかもしれんな。でも、そうすると、箱庭は随分と昔からお前に憑いてたのかな。それとも向こうで憑いたのか ? 判らんな」


「そうだなあ。箱庭はどっち産なんだろうね」

祖父と迅、二人が話しているのを聞いていて酒呑が

「なんじゃ、箱庭っていうのは」


ということで、翌日は酒呑に箱庭を案内することになった。


箱庭の家は、日本家屋風になったままだ。迅は今の方が気に入っている。

「コイツはすごいな」


色々と見回った後で、酒吞は家の真正面で腕を組み仁王立ちしている。しばらくの間、何やらを難しい顔をしていた。


そうかと思ったら、ニパッと笑い、

「そうか、そうか。それでは離れは俺が貰おうぞ」

と言い出す。


「今な、箱庭と話をした。同じ主を戴く物同士だ。あの離れは、俺の寝床だ。離れから洞窟に行き来が出来るそうだ。箱庭はなかなか優秀な奴じゃな」


嬉しそうに言う。

「え、箱庭、話せるのか」

「お主とは無理じゃ。同じ主を持つ者同士、魔の物同士故に意思疎通が成り立つ。言葉を介すわけじゃないしな。

箱庭はまだ未熟なのでな」


早速、酒呑は洞窟へと帰って行ったが、その後も毎日ではないが飯を食べに来るようになった。

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