墜つトリ、翔る。
うさぎパイセン、オーナーはもうダメだ。
第1話プロローグ【星の産まれる日】
あと僅かな期間でこの世界が終わるらしい。
終了だ終了。投げやりに何処かの大国の大統領が、宗教の指導者が、聖人が獄中の死刑囚が大量殺人が露見していない今現在では一般人がどこにでも居る家族が年寄り父親母親姉兄妹弟が。
誰もが投げやりに終了だ終了。と、嘆いて宙を仰いでいた。
仰いでいた中、僕は小さな部屋に居た。
(ねえ、聴こえる)
小さな脳内に声を響かせ、僕はぐるり、と周りを見渡す。世界はもう終わるので辺りは暗く、違和感を覚える程に温い。息が詰まる。
(地獄ってあるのかな)
多分、これは僕の耳が拾っている、というより僕の孤独が生み出した心の声か、もしくは部屋の外から聞こえていると錯覚している声なのだろう。
どちらにしろ僕は僕の問題を解決しなくてはならない。
『ないよ』
一人、声にならない声を出す。
『人は死んだら情報になるんだ』
僕の持論だ。
人が死ぬ。肉体は無くなる。人は肉体があるからこそその人足り得る。存在の本質は肉だ。脳だ内臓だ骨だ筋肉だ。物体があるからこそそれが精神。心こそ肉体。肉体こそ心。老いようが若かろうが肉体があるならそれはその人だ。では、その肉体が消えたら。燃えて灰カスになって煙は空に上りそこから雲が湧き雨になり海に落ち、地面を湿す。骨は石となり岩となり砂になり大地に還る。それは、もう人ではない。人から何者にもなれていない、もしくは、何者にもなれている状態だ。しかしもう人ではなかろう。
そして死は地獄などという概念も天国という概念もない。それは生者の為にある。死人には人でなくなる、もっと言うと死人そのものは人としてではない何か、なのだ。死者を辱めてはならない、というのは生者の決まりで、死者にとって辱めも何も無い。だって辱められる肉体(こころ)もないのであるから。
死んだら。
生者の目線で行くと死者はその生者の記憶にある。脳髄に刻み込まれている。その灰色の器官に皺とシナプスとして電気信号の海に存在している。
なので、生者の中では死者は存在している。生きていると言っても過言では無いかもしれない。
その生者が死んだら中の死者は記憶の箱ごと物理的に消える。そして件の死者を記憶に留めている生者が減っていくとどうなるか。
薄くなっていくのである。
消えはしないだろう。
うすくなっていくだけなのだから。
ある者は言うのだ。
〈人は2度死ぬ〉
1度目は肉体の死、2度目は記憶からの忘却による死。
しかし、そこから地獄に行くなどと誰も行っていない。勿論、天国、極楽と呼ばれる地にも。
死は死である。
死者に取ってみれば薄くなるだけで、恐怖も解放もないだろう。未知の感覚に委ねられるだけだ。自身が薄くなり、拡散される。情報、細胞、分子原子。
それを人は地獄と呼ぶのだろうか。あるいは極楽。
少なくとも永遠と呼ぶ彼岸にはまだとおい。
おーい、おーい、と鳥の声が聞こえる。
八咫烏だ。
明けを告げる神使。もうすぐ世界の終わりを告げる。
(1番闇が濃いのは、夜明け前だって、知ってた)
星が落ちてきた。
どん、どん、どん、
周りはチカチカと火が起こる。日が怒る。陽が興る。
僕はここから出ていかなければならない。だって世界は終わってしまうのだ。
ぐにゃり、と体に火がつき顔が真っ赤になる。あつい。
あつい。進まなければ。世界が終わる。世界が終わる!
世界が終わっても。
僕はその先が見たい。
進んだ、先に燈が見えた。
抜け出し、世界が、
「大丈夫、生きています。健康な女の子ですよ」
新しい世界に、ようこそ。
『これから、あなたは死の灰と共に明日を渡る八咫烏。死んでは生まれる明けの星。烏よ。』
そう声をあげたのは。
【星の生まれる日。】
墜つトリ、翔る。 うさぎパイセン、オーナーはもうダメだ。 @shinkyokuhibiki
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