*人気者*

 四月某日。入学式から一週間がたったある日。


 「白崎学院しらさきがくいん」と金色の装飾がほどこされた黒い看板を横目に校門をくぐると、「キャー!!」という女の子たちの黄色い歓声が聞こえてきた。


「待って……あれって……」

「この間入学してきた美青年……え、えにし様!?」

「お隣は姉様の照子てるこ様と、同級生で内部生の牡丹ぼたん様!!」

陽紋ようもん様も豊葉とよは様も、陰ながら調和していて美しい〜……」


 女の子が騒いでいる理由は、学校一人気な五人組が堂々歩いていらっしゃったから。


 高等部1―C、天然で清楚、ガーリッシュな人気者、すみれ色の長い髪を一つに結わえた、亮門縁りょうもんえにし

 高等部2―B、縁くんの姉で頼りがいのあるしっかり者、茶色の雑な超長い髪が目を引く、亮門照子りょうもんてるこ

 中等部3―D、芯が強く、常識的で知的な印象を与える、白髪と緑目と金の眼鏡が調和した、汰咲陽紋たえみようもん

 高等部1―C、運動神経抜群で端正な顔立ち、青い毛先がきれいな黒髪が特徴のツンデレ王子、長谷谷牡丹はせたにぼたん

 初等部5―A、ややはねた黒髪、黒と赤のオッドアイが珍しい、ちょっと生意気な最年少、平良坂豊葉たいらざかとよは

 容姿はもちろんのこと、声や性格のファンも非常に多くて、学校一人気者の五人組なんだ。

 ほかにも、特別卒業生として、学校の運営のOB的な存在の人もいる。その人は平良坂常葉たいらざかときわと言って、豊葉くんの異父姉いふしなんだ。彼女も人気で、卒業した今でも伝説の美女として神聖化されているんだって。


 ……無論、こんなわたしとは無関係、接点のない……といいたかったんだ、本当は。

 でも……一つだけ、その人たちと私には、接点がある。それは――……。

「ねー牡丹? その……小高? で一緒になった女の子って……どの子なの?」

「あれ。あの……ぎ、銀色の……」

 牡丹くんと私には、接点があるんだ。

 それは、小学校にて。

 小四から卒業までずっとクラスメイトで、一番仲の良かった子が……まさかの、牡丹くんなの。

 私は近所の公立中学校に、牡丹くんは中学受験をして区内の私立中学校に進学して、そこで別れちゃったんだけど……今でも思い入れのある人物。


「ずいぶん変わった見た目の子だね。遺伝かな」

「縁、君が言えることかい? その髪の毛だって、遺伝のせいで目立ってるじゃないか」

 完全に悪目立ちする見た目なのに……なんで私は入学式の日に、縮毛矯正しゅくもうきょうせいをして、黒髪に染めて、……っていうことをして登校しなかったんだろう……。

 地味っ子を装ってたら全然何も問題……いや、かえって浮いちゃうから、どっちに転んでも結果は同じだったかもしれない。


「話しかけてみる? 人畜無害じんちくむがいそうだし」

正真正銘しょうしんしょうめい嘘偽うそいつわりなにもなしに、人畜無害だよ」

 ……な、なんで……。

 わ、わざわざ、私ごときなんかに話しかけるなんて選択をするんですかああああああああ⁉


 嫌な予感がして……目立ちたくなくて、ダッと地を蹴って、走り出す。

「縁、むやみに追尾するな! アイツ、持久走でぶっちぎりの学年一だった。おまえでも追いつけない。一限目は体育なんだから、朝から倒れるな!!」

 そ、そんな……私、さらに目立っちゃうよおおお!!

 やだなの……私は、目立ちたくない……影の下で生きていたい主義の人間なんです……!!


 なんとか靴箱まで逃げて、急いで上履きに履き替えたときには、すでに彼らをまいていた。


 ふ、ふう……逃げられた……。


 しかし、牡丹くんの言う、人畜無害とは……私自身、人を裏切ろうも思えば裏切れるほど、有害な人間だと思うんだけど……。

 次からはもう何事も起きぬよう、離れていよう。

 そう考える私は――甘かった。

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