姫君は2/3の確率で王子を彼氏に選ぶ。

月兎アリス

プロローグ

 神奈川県、横浜市。


 みなとみらいの町のほとり、海沿いの遊歩道にポツンと座り込んでいたのはまぎれもなく、私、神城狗巫かみしろいぬみだ。

 ほかに対した私服も持っていないため、白衣びゃくい緋袴ひばかまという巫女服姿は見すぼらしく、工夫はない。洒落しゃれてもいない。


 私の目の前を行き交うのは、デートを楽しむカップルや、散歩をする人たち、お出かけ帰りなのか、デパートの紙袋を持った五人組の女子大生。

 みんなの表情はいきいきとしていて、笑顔にはえくぼさえあった。


 一方の私は……。


「……あ」

 ふと、頭上から声がして、ハッと上を向く。

 黒色のパーカーのフードを深くかぶった男の子。背は私よりずっと高くて、足は長い。パーカーの下に着ているのは、どこかの学校の制服。

 地面に落ちていた学校のパンフレットを拾い上げて、私の前に見せる。


白崎学院高等部しらさきがくいんこうとうぶ


 私の第一志望の共学校。……制服がかわいくて、自由な校風が特徴の、人気の学校。

「これ、俺が行く高校」


 白崎学院は幼小中高一貫校だけど、途中途中に入試がある。内部生と外部生は同じところで授業を受け、多様性を意識した教育理念から、人気がある。


 まだ入試は行なっていない。……この子は、もしかしたら、内部生なのかもしれない。

 フードの内側から見えた、サファイアブルーの瞳が瞬いた。


 その瞳の色が――かき消そうとしていた私の、幸せだった小学校生活の日々の記憶と、ふと重なったんだ。


 ……あなたは……誰……?


「受かるといいね。てかおまえ、頭いいからヨユーで受かるか」

 声はあのときよりうんと低くなっていて、聞いたときはわからなかった。……でも、耳の奥の記憶の面影を残していて、泣きそうなくらい懐かしい。


 ……既視感きしかん……?


 それとも……本当に……。


 かつての日々の記憶に浸っているうちに、彼はふっといなくなってしまった。


 彼は、私がよく知っている人でした。


 そして――私の運命の人だった、んです。

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