第11話 アサシンズ
ムワっとした湿気と日中暖められた地面からくる熱が僕らを包む。夕日も沈みかかり、頭上に張り巡らされた提灯の灯りが次第に明度を増してきた。現代にいながら過去を感じることのできる神社。それでいうとさっきまでいたあの立派な日本家屋もそれに類することだろう。小さな子供から浴衣を着た若いカップル、お年寄りが一堂に会する。
普段なら若いカップルに嫌悪の眼差しを向けているのだが今日は舞奈さんが隣にいる為、僕は胸を張って縁日を回った。
かき氷、杏子飴、金魚すくい、焼きそばにたこ焼き。僕は縁日を楽しむ人達と溶け込んだ。僕は舞奈さんに視線を向ける。楽しそうにかき氷を頬張る舞奈さんがいた。
──あぁ、誰かと関わることがこんなにも楽しいなんて知らなかった………
そして僕らはとある
『ドネル・ケバブ』
トルコ発祥のこの
縁日の
しかし酒田さんは言っていた。
『勘違いしてはいけません』
彼等は日本で働きたいと思ってやって来てくれたのだ。彼等を恨むのは筋違いだ。本来恨むべき相手はディープステートであり、それに操られている日本政府なのだ。
舞奈さんとのこの楽しい時間、そしてここに集まるたくさんの老若男女、僕はこの時間と彼等彼女等を守りたいと思った。
ケバブの出店から離れた僕らだが、まだ気まずさが僕らに覆い被さっていた。舞奈さんはなんだか悲しそうな顔をしていた。
その時僕は思った。
──舞奈さんを悲しませる奴は許さない!
僕は日本政府に怒りの炎を燃やした。同じ日本人なのにどうして彼等は我が身可愛さで保身に走る?最近の日本政府は不正な政治献金や裏金問題、そして変な宗教団体とズブズブの関係だ。政教分離など聞いて呆れる。彼等は選挙に受かることしか考えていない。どうして皆のために仕事をしないんだ?
怒りの炎に薪をくべていると、僕らは射的の前を通った。射的のお兄さんは、客寄せの為に手を大きく叩き、宣伝する。
「どうぞどうぞ!皆さん!日々の鬱憤が貯まってるんじゃないですか?」
大きな声でお客さんを呼び込もうとする射的のお兄さんは、続けて声を飛ばした。
「そこのお兄さん!」
僕らの前にいた女性とデートしているらしき男性に射的のお兄さんは声をかける。
「何か仕事でやりきれなかったことがありそうですねぇ、どうですか?一発、ぶちこんでやりませんか?」
射的屋のお兄さんは銃を取り出し、先端に弾をセットする。そして構え、並べられている景品である玩具に向かって撃った。
パンっと乾いた音が縁日を彩ると同時に発射された弾が有名アニメの悪役のフィギュアの顔面に命中した。
「誰もが自分の想いをぶつける権利があります!幸せになる権利もあります!景品がとれなくたって、一発ぶちこめば全てが解決!さぁ、やっていきませんか?」
お兄さんの口上に乗せられた男性は射的に吸い込まれるようにして入り、銃を受けとる。射的屋のお兄さんは再び聴衆に向かって言った。
「よぉ、ジョン!」
ジョンと声を掛けられた3人組の1人は明らかに日本人だった。というか3人組の若者は3人とも、どっからどう見ても日本人である。
「俺?」
声を掛けられた男は反応した。お兄さんはその3人全員にあだ名をつける。
「リチャードにサミュエルも!どうだ、やらないかい?自分の理想や夢を持っているだろ!?それを叶える方法がここにあるんだ!」
ジョンとリチャードとサミュエルと呼ばれた3人組はそれぞれ銃を受けとる。
「さぁ、夢を叶えて来い!一発ぶちこめば全てが手に入るんだ!!」
射的屋のお兄さんはそう言って次々とお客さんを勧誘する。というかお兄さんの演説が面白くて縁日に来た人達は射的の前で足を止めていた。するとお兄さんは僕と目を合わせて言ってきた。
「よぉ、アーサー!」
僕のことをアーサーと呼んできた。
「この世の中は地獄だ!だけどコイツで地獄を天国へと変えようぜぇ!!」
僕は銃を受け取った。舞奈さんも楽しそうだった。
「サラもやるかい?」
舞奈さんのことをお兄さんはサラと呼んだ。舞奈さんも銃を受け取って、僕らは的に狙いを定める。
そして引き金を引いた。
世界が変わった気がした。
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