第4話 告白
入ったことのないカフェに僕はいる。1杯600円もするコーヒーを頼み、テーブルに到着したその高級コーヒーに僕は何も入れずブラックで飲んだ。その方が男らしいと思ったからだ。テーブルの上には800円もするトーストされたサンドイッチとボイスレコーダーが置かれていた。そしてテーブルを挟んで向かい側にコンビニの前で僕に声をかけてきた
「すみません。不躾にお声をかけてしまって」
そんな唇を動かして
「あ、えっと…はい、大丈夫です……」
大丈夫。何が大丈夫なのか。この場の気の効いた言葉も、何を話して良いのかすら僕にはわからなかった。というか何故謝罪されたのかすらわからない。女性とこうやってお話するのは初めてだからだ。
「改めまして、私はこういう者です」
舞奈さんはそう言って、僕に名刺を渡してきた。僕は名刺を見て羅列されている文字を、声を出して読んだ。
「立ち上がれ日本の党?」
そうか、舞奈さんは駅前で演説していた人の政治団体に所属しているのか。
「はい!私、まだ大学生なんですけど政治活動をしていて」
「す、凄いです……」
僕は思ったことを口にした。
「ぜ、全然凄くないですよ!」
舞奈さんは両手をブンブンと振って否定した。その姿も僕は可愛らしいと思った。
「朝日さんは今、おいくつなんですか?」
「ぼ、僕は20歳になったところです」
僕の言葉に舞奈さんが両手の指をちょんと合わせながら反応する。
「えー!同い年じゃないですか!」
「そ、そうなんですね」
僕は後頭部をかきながら何故だか照れてしまった。
「あ、これドンドン食べてくださいね!支払いは勿論私が払いますから!」
「え?でも……」
「遠慮しないでください!私が誘ったんですから私が払うのは当然です」
女性とデートをしている時、男が奢るのが当然であるとSNSで声高に叫ばれたことがある。だから僕がもし女の人とデートをしたら全部僕が払うつもりだった。しかし舞奈さんは自分が払うと言っている。
──これは、試されているのか?
第一印象は大事である。だから彼女がトイレに立った時、お会計を済ませてしまおう。そうと決め込んだ僕は、目の前のサンドイッチに手をつけた。
「美味しいですか?」
そう質問された。正直、お腹が満たされれば何でも良いと今まで思っていたので、何かを美味しいかどうか気にしたことなどなかった。
「お、美味しいと思います……」
僕の反応に舞奈さんは何かを感じたのか、彼女は口を開く。
「け、警戒しますよね……すみません。でもやましいことなんて本当にないんです。ただ朝日さんの待遇とかを訊きたくて……」
「待遇?」
「はい、あ、ちょっと録音してもいいですか?」
僕は頷く。彼女は黒いレコーダーに手を伸ばして、スイッチを入れた。レコーダーのディスプレイがオレンジ色に光る。
彼女は質問してきた。
「まずは、朝日さんの仕事内容を教えてください」
僕は彼女の質問に答えた。
「次に勤務時間と休憩時間を教えてください」
このようにして大人の男女は関係を気付くのかと思った僕は何の疑いもなく彼女の質問に答える。なんだか自分がヒーローになったような気がした。
僕の回答を心に刻む為か彼女は小さな声で口ずさむ。
「安全装置なしの足踏み操作式プレス機の操作…機械を作動させながらのメンテナンス……厳しい生産ノルマの為の効率化……それに手取りが14万円……あの!最近新しい従業員が入ってきませんでしたか?」
「あぁ、デルマン君ですか?今日もまた2人ぐらい入ってきましたけど……」
「2人って2人とも外国人ですか?」
僕は頷く。
舞奈さんはレコーダーを止めて、深呼吸をした。
「あの朝日さん……」
なんだか畏まる彼女の振る舞いに僕は胸を高鳴らせた。
──告白だ!
告白される。そう思った。しかし彼女の口からは想いもよらない言葉が出た。
「朝日さん、貴方は搾取されてます!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます