第11話 人魔友好だよ、魔王ちゃん


俺はドルガを連れて草原へやって来ていた。


人間領と魔王領の中間にある場所。


そこで俺は自分の武器を取り出した。


「ヘブンズブレイド」


ブン。


右手には光り輝く白い剣。


「ヘルズブレイド」


左手には黒い剣。


左手と右手に剣を握った。


両方俺が天界の神々から授かったものだ。


「その武器がどうした?!俺の聖剣の前では無力だぞ?!魔王軍?!」


ベータが口を開いた。


「なに?この武器?この世界の武器じゃない、こんなのどこで手に入れたの?」


「はっ!そんな脅しでビビらねぇぞ?!」


ダッ!


駆け寄ってくるドルガに俺は聞いてやる。


「なぁ、ドルガ。俺は普段武器を持たない。その理由が分かるか?」

「武器が使えねぇんだろ?!食らえ!スラッシュ!」


ブン!


聖剣を振り下ろしてきた。


俺はそれに向かってヘブンズブレイドを振った。


ザン!


俺の剣が聖剣を断ち切った。


それだけじゃ終わらなかった。


俺の斬撃は超強力な風圧を発生させる。


「ばかなっ!聖剣が真っ二つに?!それより!……っ!なんて風だ!うわぁぁぁぁあ!」


風に巻き上げられてドルガは一瞬の滞空時間を経て落下してきた。


ドサッ。


俺は「はははは」と軽く笑ってからドルガに視線を戻した。


「さて、会話をする時間も無駄だ。貴様を地獄に送ろう、か」


俺はヘルズブレイドで目の前の空間を真横に切り裂いた。


そこに扉が現れた。


「な、なんだ?この扉はっ?!」


「地獄へ繋がる扉だよ。名を、ヘルズゲート」


パカッ。


扉がひとりでに開いた。


そこから無数の手が伸びてドルガの体を拘束した。


「ち、力が抜けるぅぅぅぅ」


そのまま手はドルガの全身を掴んで扉の方へ引きずっていく。


「や、やめてくれっ!」


扉のふちを手で掴んで、なんとか耐えているドルガを俺は見下ろしていた。


「さっきの質問の答えを教えよう。俺が普段武器を使わないのは、使ってしまえば跡形もなく相手が消えるからだ。消えてしまえば会議に参加させることができない。


だから武器を使わないんだが……俺が使った、ということはお前が死んでもいい、と思ったということだ」


「会議?!なんの話か分からんが、このままでは俺は消えてしまうんだろ?!助けてくれぇぇぇ!!!」


「お前は会議に参加する資格無し。このまま地獄へ落ちるがいい。さぁ、連れて行け、地獄の使徒たちよ」


「う、うわぁぁぁあぁあぁぁあ!!!!」


バタン。


扉が閉じた。


俺は両手の剣をアイテムポーチへと戻した。


それから切り裂いてしまった聖剣に目をやった。


(あらら。本当は切るつもり無かったんだけどな、豆腐みたいに切れてしまった)


俺は聖剣の残骸を回収しながらレイナに聞いた。


「すまない。これはどうしたらいいだろうか?」

「こちらで処理しておきます。お気になさらず」


俺はそれからレイナに言った。


「すまない。友好の話はこれで流れたかな?」


過程はともあれ、俺は人間に手を出した。


それがどういう解釈をされるか、だが。


「先に手を出したのはドルガですよ。あなたは悪くありませんよタクトさん」


「それなら、よかったよ」


ニッコリとした笑顔を浮かべておいた。



ドルガの始末が終わった俺たちは当初の予定通りケーキを配り始めていた。


一時はどうなるかと思ったがちゃんとケーキ配りができて良かった。


「おいしー!」

「魔王軍のやつらすげぇな。こんなうめぇケーキを作れるなんて」

「今までヤバい奴らって聞いてたのに良い奴ばっかだし」


そんな会話が聞こえてきた。


ベータの奴はご満悦の表情だった。


「やはりボクのデータは最高のようだ。人間の味覚に合わせてわざわざ味を調整してやったからな、ふふっ」


なんてことを口にしていた。


そんなベータを見ていた時だった。


「タクトさん」


レイナに話しかけられたようだった。


「どうしたの?」

「いろいろと感謝していますので、改めてそのお礼に。それから」


レイナはポッ、と顔を赤くして言ってきた。


「今だけ私の執事として振舞ってはいただけませんか?」


そう言われて思い出した。


(そう言えば俺執事だったな)


「お嬢様、どうかしましたか?」


「きゅーん!」


両手で胸を抑えていた。


「お嬢様、私にできることがあれば、なんなりとお申し付けください」


レイナは意を決したように俺を見てきた。


「あ、あのっ……」


なにやら真剣な表情である、が。


何を言おうとしているのだろうか?


「魔王軍をやめて私の執事になってください。お金は払いますから。今よりもいい待遇を約束します」


俺は首を横に振った。


「なぜ、だめなのですか?」


「俺が仕えると決めたのは魔王ちゃんだけだから」


それから


「俺が魔王軍を離れたら魔王ちゃんに味方が残らなくなるかもしれない、だから置いて離れるなんてできないよ」




そのあと、ケーキは無事に完食されたことになった。


人間たちにはなかなか好評だったらしく、今度また食べさせて欲しいとの声が上がるくらいだった。


魔王ちゃんの世界征服への第一歩は大成功だった。


このまま魔王ちゃんが世界を支配するのもそう遠くない未来かもしれない。



翌日。


俺たちは魔王城の会議室に集まっていた。


「では、次の作戦会議をしましょう」


魔王ちゃんによる会議が始まろうとした時だった。


バァン!


会議室の扉が開いてフェルンが顔を見せた。


「フェルン。そろそろ会議が始まる。早く席に着け」


俺はそう言ってみたがフェルンは首を横に振った。


「そ、それどころじゃないよ!タクト!」

「どうかしたのか?」

「今魔王城にレイナって聖女が来てるよ!タクトを呼んできて欲しいって」


「用件は?前回の聖剣の件だろうか?」

「分かんないけど、応接間に案内したよっ!」


レイナが聖剣の件を掘り返すとも思えないが、とにかく応接間に向かおう。

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