第12話「友好の証です」だって、魔王ちゃん
応接間に入ると既にレイナがソファに座っていた。
俺を見て小さく笑うと手をフルフルと、軽く振ってきた。
「用件は?こう見えて忙しい身だ」
「なにかなさっているんですか?」
「魔王軍の幹部をまだ全員殴れていない」
「へっ?味方を殴るんですか?」
ぼけーっと口を開けてからこほんと咳払いしてからレイナは本題を切り出した。
「人魔友好をより確固たるものにしたいのです」
「まぁ、条約を結んだわけでもないしな」
俺たちはケーキを配っただけだ。
言ってみれば「仲良くしましょう」と口約束をそのへんのモブ市民としただけである。
もちろんこれで全ての人間と友好関係を結べる訳では無いので、更に確固たるものにしようとしたのが、今回の会議なのだったが……。
レイナは覚悟を決めたような目で俺を見てきた。
「私は王都セントラルの公爵家の娘なのです」
「あー、ごめん。そう言われてもこの世界のことよく分からないんだよ」
そう言ってみるとレイナは説明してくれた。
「ラスダの村はセントラル王国の一部です。言ってみればセントラル王都というのが都市というわけです。そして、その都市の中で私はもっとも偉い貴族の娘なのです」
「簡単に言えば、めっちゃ偉い女の子ってこと?」
「はい」
初見からただ者では無いとは思っていたけど、かなりえらい子だったらしい。
「そこで、私と結婚しませんか?私は人間サイドで身分の高い者です。そんな者が魔王軍の人と結婚したとなれば、更に人魔友好は確固たるものになるでしょう」
「なるほど。つまり政略結婚というやつでいいか?」
こくん、と頷くレイナ。
でも、慌てて手を振ってきた。
「で、でもですね。私としてはイヤイヤというわけではございません!タクトさんのことは好きですから!」
恥ずかしそうな顔をしながら聞いてくる。
「我々人間サイドから示せる最大限の友好の証です」
「いいよ」
そう答えるとパァァァァァっと目を輝かせたレイナ。
「あ、ありがとうございます!これからはタクトさんの妻として、いっぱい頑張りますので!」
「だが、これは口約束に過ぎない。式のようなものは行わなくていいのか?」
「そのことですが」
スっ。
レイナは懐から手紙を取り出すと俺に渡してきた。
「一度セントラルの王都へ足を運んでいただけませんか?そこで結婚式を行いたいと思います」
「ふむ。分かった、魔王ちゃんに休暇をもらってこよう」
これも人魔友好のためだ。
魔王ちゃんならすぐに休暇をくれることだろう。
◇
ガチャッ。
会議室の扉を開ける。
魔王ちゃんに近寄ると俺は要件を切り出す。
「魔王ちゃん、休暇が欲しい」
パチクリ。
大きくまばたきした。
「休暇?なにかするのでしょうか?」
俺はこれまでのことを話した。
「それは休暇なのですか?兄様」
「魔王ちゃんに仕える以外の時間はすべて休暇だよ」
「ぜんぜんいいですけど、たまには本当に休んでくださいね?いつでも休暇は出しますので」
魔王ちゃんはほんとうに優しい。
俺は超ホワイトな環境で働けている。
優しくてかわいい上司ちゃんに恵まれてなんて幸せものなんだろう。
「ところで、魔王ちゃん。ベータの姿が見えないけど、どこへ?」
「どうしても研究したいことがあると言うので研究棟に戻りましたよ」
魔王ちゃんはそれから狂犬グリムに目を向けた。
「狂犬さん?ひとりだけケーキ配りにも参加していませんでしたけど、兄様の結婚式に同行してくれませんか?」
そう聞かれてもグリムはもちろん答えない。
「魔王ちゃん。狂犬に人の言葉は理解できないよ。話しても無駄だよ」
俺がそう言った時だった。
バタン!
扉が開いた。
「はぁ、はぁ」
ベータが入ってきた。
ベータは誰かを引き連れているようだった。
ベータは「くくくく、あーはっはっはっは」と笑っていた。
「ものの数時間で完成させてしまうなんて!ボクは天才だなっ!」
「なにが完成したのでしょう?分かりませんけど、とても喜ばしいことですね」
ふふふ、と笑っている魔王ちゃん。
「キミ、魔王様に自己紹介しろ」
ベータに促されてその子はおずおずと前に出てきた。
俺はその姿を見て既視感を覚えた。
(白い髪の毛、赤い瞳。まるで狂犬グリム、なのだが犬耳が生えている)
俺がそう思っていたら犬耳少女は口を開いた。
「皆様初めまして、グリムって言いますっ!」
ペコっ。
頭を下げていた。
「ふつつか者ですが、この度魔王軍の幹部として働くことになりました!」
みんな目をまん丸にしてる中ベータが説明した。
「オリジナルのグリムから髪の毛を回収して作ったんだ。どうだ?すごいだろ?」
みんな困惑しているとベータはさらに続けた。
「オリジナルから改良した。オリジナルは言うことを聞かない言葉が通じない問題児だったが、この子はめちゃくちゃ素直だ!なんと!言うことを聞く!」
ベータは女の子を見て「お手」と言った。
ポン。
グリム二世はお手をしていた。
(オリジナルとは別物だなこれ)
そう思っていたらベータはさらに驚くべきことを口にした。
「性別も男から女の子に変更した。更に野蛮な思考も削除した。グリム、好きなものと嫌いなものを口にしろ」
「好きな物は平和、愛、勇気、お花、人間さん。嫌いなものはバトル、殺戮、痛いの、血、です」
(狂犬要素完全に消えてる?)
魔王ちゃんが頷いてこう言った。
「狂犬さん、あなたに初めての任務を与えましょう」
「どんな任務でしょうか?魔王様」
「タクト兄様のサポートをお願いします、これから王都に結婚式に行くそうですので」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます