第10話 いよいよケーキを配るよ、魔王ちゃん


俺たちはラスダの村へとやってきた。


魔王軍幹部が総出でケーキ配りである。


世界中探してみても人間にケーキを配りに行く魔王軍なんて俺たちが最初ではなかろうか?


フローラに案内された俺たちは酒場にやってきていた。


ケーキを食べ始めるのは夜の予定だ。


そして、今はまだ昼なので時間があるのだが、俺達にはやることがあるので早めにこの村にきた。


やることというのはもちろん聖剣の回収だ。


「フェルン、友達のところまで案内を頼むぞ」

「うん!」


俺はフェルンと共に酒場を出ていくことにした。


酒場を出てしばらく歩く。


フェルンが薄汚い裏路地に入っていく。


「こんなところに友達はいるのか?人が住んでるところとも思えないけど」

「うん」


そう答えてフェルンは進んでいく。


やがて、開けた場所に出た。


開けたと言っても公衆トイレくらいの大きさのスペースの場所だ。


そこでは汚いソファとかが乱雑に置かれていて、何人かの子供達がいた。


「フェルンだ!」

「フェルン!おかえり!」


フェルンは子供たちに出迎えられていた。


フェルンは子供たちと会話しながら一番奥にあるテントに目を向ける。


「タクト、あそこ。あそこに荷物があるよ」


「回収しよう」


俺がそう言った時だった。


テントの中から声が聞こえてきた。


「ガキ。ここにフェルンとかいうやつから預けられた荷物があるんだろ?」


野太い男の声。


俺は異常な気配を感じてテントに近寄っていった。


テントの入口には垂れ幕がかかっていて、中は見えなかった。


垂れ幕を退かすと、中にいたのは鎧姿の金髪の男だった。


それから、対面には土下座させられている女の子。


「なにをしている」


俺が口を開くと男は俺の顔を見た。


「なんだ?お前は」

「荷物を取りに来ただけの通りすがりさ」


男はくくくっと、笑った。


「奇遇だな、俺も荷物を取りに来たんだよ、なぁ。レイナ」


男はテントの隅に目をやった。


そこにはレイナがいた。

俺には目も合わせずに男を睨んでいた。


「なぜ、返還を待てないのですか?ドルガ。待っていれば返ってくるものなのですよ」


ドルガと呼ばれた男は答えた。


「魔王軍の言うことなど信用ならんからだ。聖剣を返還する?そんなことあるわけないだろ?だから、俺が先に回収する、という話だ」


そこで、土下座している女の子は顔を上げた。


「これは、フェルンから預けられた大事な荷物なんです。渡す訳にはいきません」


俺は今までの会話から状況を理解した。


なるほど、この男は聖剣がここにあることを聞いて奪いに来た、ということか。


「そこのキミ。荷物をその男に渡していい。フェルンはそう言っている」


「お兄さん、だれ?」


「魔王の執事さ」



ドルガは聖剣を受け取ると意外にもすんなりと帰っていた。


ドルガがいなくなった後俺たちはテントを出ることにした。


レイナが話しかけてきた。


「良かったのですか?」

「いいよ、どうせ返すものだし。手間が省けた」


(ただまぁ、言えることがあるとしたらレッドカード一枚くらいの不愉快さはあったけど)


俺たちは酒場まで戻ってきた。


「さ、気を取り直してケーキ配りの準備でもするか」

「はい」


レイナはニコッと笑って俺たちの手伝いをしてくれることになった。


ちなみにだが、今この場所にはさっきの子供たちもきていた。


フェルンの友達はいわゆる孤児らしかった。


話を聞いたんだがフェルンはどうやらあそこにいた子供たちに食べ物をあげるために王都で盗みをしていたらしい。


(まぁ、だからと言って魔王ちゃんの会議に参加しなかった罪は消えない訳だが)


俺は机の上に皿やスプーンなどを用意していく。


あとはこれにケーキを乗せて配って終わりだ。


だと言うのに。

そのときだった。


ギィッ。


扉が開いた。


中に入ってきたのは……


ドルガだった。



「おいおい、レイナ。フローラ、まじで魔王軍のケーキ食うつもりなのかよ。ぶひゃはははは」


腹を抱えて笑っていた。


「それがどうしたのですか?聖剣は返還されました。ケーキも既に毒味を済ませてあります。無害なおいしいケーキです」


反論を始めたレイナだけど、俺はレイナを手で制した。


「やめなよ。言って聞くような相手じゃないことは分かる」


ドルガはニヤッと笑っていた。


「話ができそうな奴がいるな?」


ドルガはそう言うと聖剣を掲げた。


まるで、この場にいる人間の注目を集めるようにだった。


「聖剣は王都に返す話でしょう?ドルガ」


レイナの声にドルガは「ばーーーーーーか」と言って、続けた。


「ここに魔王軍がいるんだ。丸腰で、叩き潰せば英雄だぞ?しかも叩き潰せる武器はここにある!」


ペロリ。


舌を舐めていたドルガ。


俺は大真面目な顔を作ってから、言ってやることにした。


「忠告はしておいてやる。今なら冗談で済ませてやるぞ?」


「はっ。誰が!俺がお前ら全員殺してやるよ!誰が最初に殺されたい?!」


「俺が相手をしてやろう」


その途端、オッサムが叫んだ。


「やめろ!ドルガ青年!死に急ぐには早すぎるぞ!君はまだ若い!」


その言葉に続くようにベータ、ゴクアークも叫び出した。


「そうだ、やめるんだ!悪いことは言わない!やめておけ!私のデータは信頼した方がいい」

「命を捨てるでない!ワシも失言を許そう!てかやめろ!頼む!やめてくれっ!」


勢いに圧されたのかドルガが口を開いた。


「なんなんだよ、こいつら。たかが執事だろ?」


俺は最後にもう一度だけ聞いてやることにした。


「黙ってケーキを食え」


「けっ!誰が食うかよ!こんなマズそうなケーキ!お前らみたいな悪人と仲良くケーキなんて食えるかよ!気持ち悪いっ!」


時間が止まった。


誰も身動き取らないし言葉も発さない中、


アリシアが涙を流していた。


「この世界は今日で終わります。さよならお父さんお母さん。産んでくれてありがとう」


俺はドルガを見て宣言した。


「レッドカード5枚くらい出すよ。死刑。生かす価値なし。ドルガ、表へ行こう、余計な人を巻き込みたくない」


執事ほとけの顔も2度目までだぞ。


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