第8話 踏み絵の時間だよ、魔王ちゃん
翌日。
俺はラスダの村に繋がる門の近くまで来ていた。
同行メンバーはゴクアークとオッサムである。
ゴクアークは
『イリスが向かう村が安全かどうか確認しなければならない』
オッサムは
『ゴクアーク様をお守りするっ!』
と言って俺に同行した形である。
ザワザワ。
村の方が騒がしい気がする。
耳を済ませてみると、
「なにあれ?」
「全身真っ黒の魔王みたいなやついる」
「コスプレでしょ」
みたいな会話が村から聞こえていた。
バカ2人が目立ちすぎているようだ。
俺は少々頭を抱えながら門の方に近付いていった。
すると門を守っていた兵士が俺たちに質問。
「失礼、誰だ?名前と身分をよろしく頼む」
俺達は順番に名乗ることにした。
「タクト、魔王の執事です」
「ゴクアーク、元魔王です。魔王職からは引退済みです」
「オッサム、魔王軍幹部です。現役の幹部です。すごいでしょ?」
目をぱちぱちさせて兵士は叫んだ。
「敵襲だぁぁあぁぁあぁぁ!!!!」
ゴクアークが目をぱちぱちさせていた。
「え?!ワシらは悪いやつじゃないよ?!」
・
・
・
あのあとフローラが俺たちの前までやって来てくれてなんとか場を取り持ってくれたのだが。
だが、頭の硬い人間がひとり増えていた。
【聖女 レイナ】
・反魔王思想の人間。とにかく魔王軍を憎んでいるらしい。
「話は聞きました。しかし、魔王軍の者を村に入れることは反対します」
「レイナ。話はしただろう?2人はともかくタクトは信頼していいはずだ。私は魔王城でもタクトには良くしてもらった」
「なりません。二、三日前まで戦争をしていた相手ですよ?」
チラッ。
レイナは俺を見てきた。
値踏みするような目だったせいで、少し不快感はある。
なんというかこいつを驚愕させて「へっ?」と言わせたい衝動が少しだけ芽生えてきた。
「まぁいいでしょう。人間がいるのなら、話は変わります。あなただけの入村なら許可しましょう」
俺を指さしてそう言ってきた。
「本当か?それで構わない」
「ただし、条件があります」
レイナは背後にいた兵士に指示を出した。
兵士は詰所から画板のようなものを取ってきた。
俺たちに絵を見せてくる。
そこにはゴクアークの顔が描かれていた。
「ワシはやっぱイケオジじゃなぁ」
「さすが、ゴクアーク様。かっこいいでございます」
バカ2人はほっておいて、レイナに聞いた。
「この絵がどうかしたのか?」
ニコッと笑ったレイナ。
レイナは絵を地面に置いた。
「踏んでください、タクト。あなたが心から魔王色に染まっていないのであれば簡単に踏めるでしょう?こんな絵」
俺はプルプルと拳を震わせた。これは歓喜から来る震えだった。
合法的にゴクアークの顔の絵を踏めることが嬉しくて仕方がなかったのだ。
そのとき、俺の拳をオッサムが見ていた。
そして、口を開いた。
「タクト、屈辱的なんだな。気持ちはわかるぞ、人間にここまで言われたら誰だって腹が立つよな。初めてお前と心を通わすことができたなっ!」
レイナがクスクス笑いながら聞いてくる。
「踏めませんか?タクト。踏めないのであれば、入村は許可できません。なので、お帰りください」
俺はレイナに聞いた。
「踏むだけでいいのか?」
「はい。踏むだけで私はあなたを信頼します。さぁ、踏みましょう。ですが、できませんよね?あなたたち魔王軍の人にとって、魔王ゴクアークは神様のようなものですもんね?知っていますよ。あなたたちがこの絵を踏めないことくらい」
俺は左に立っていたゴクアークの左手の親指で指した。
「ここに本物がいるのに、絵を踏むのか?」
「本物がいるからこそですよ。踏んでしまえば忠誠心がない、ということで魔王軍にはいずらくなるでしょ?」
なんとなく俺と彼女の中で話が食い違っているのを感じた。
「いや、そうじゃない」
レイナは首を傾げた。
「どういうことでしょう?」
「せっかくここに本物がいるんだから、本物を殴ってやろうか?」
「へっ?」
レイナの表情が驚きで崩れた瞬間だった。
俺はゴクアークの顔面をぶん殴った。
「ぬべっ!」
地面に転がるゴクアーク。
「悪く思うなよ。入村に必要な手続きだ。これからお前の顔を踏むぞ。いやー、残念だなー、魔王様の顔なんて踏みたくないんだけどなー。でも入村に必要だから仕方ないよねー?心が痛いなー」
「え?!ちょ、ちょっと待って?!それ私情も入ってるよね?!ぜったい?!」
俺はニコッと笑って言ってやった。
「うん?私情なんて、これっぽっちも入ってないよ?残念だよ。文句なら聖女さんに、どうぞっ!」
俺がそう言った時だった。
「ま、待ってください!」
レイナが止めて来た。
息を荒げながら俺を見ていた。
「し、信用します!信用しますからっ!」
目を見開いて俺を見ていた。
さっきまでの余裕は少し無くなってきていた。
俺はなんとなくスカッとした。
でも、畳み掛けるように俺は魔王の肖像画を踏みつけた。
それから肖像画を拾うと両手で持って膝うちをかましてやった。
バキャッ!
真っ二つに割れた画板を更に重ねて半分に割る。
肖像画が4分割された。
「レイナ、これで十分だよね?」
レイナはひどく困惑したような表情で頷いていた。
ゴクアークはポツリと呟いていた。
「命の危険を感じるんじゃが……」
◇
俺だけ入村を許可されたので俺は村の中に入ると歩きながらフローラに聞いた。
「なんかあったの?まさか踏み絵をやらされると思わなかったよ」
俺の質問に答えたのはレイナだった。
「魔王軍幹部を名乗る者が王都で盗みを働いているのですよ。魔王軍をよく思わないのは当然でしょう?むしろ、私は魔王軍のことが嫌いです。もちろん、あなたも」
ニコッと笑いながらそう言ってきた。
俺はなにも悪くないと思うので黙ってると、レイナはこう続けた。
「それに、数日前にはとんでもないものを盗んで行ったんですよ」
「なにを盗んだの?」
「【聖剣】ですよ。魔王を倒すのに最適な唯一の武器。知らないのですか?あなたたちが盗むように命令を出したんでしょう?」
「知らん」
「え?」
戸惑っているレイナ。
まぁ無理もないだろう。
彼女たちからしたら俺達は一枚岩だと思っているんだろうし、まぁ実際先代まではそうだったわけだしな。
だが、今は違う。
「魔王軍の幹部が迷惑をかけたようだな。お詫びとしてその泥棒幹部を捕らえるのを手伝おう。そして、聖剣は見つかり次第返還しよう」
そう言ってみるとレイナはまた目を大きく見開いた。
そして、ポッと、頬を赤めてこう言った。
「やっぱりさっきのは聞かなかったことにしてください。あなたは例外とします」
(お?これは好感度アップってとこかな)
今なら会話出来そうなのでレイナと話すことにしよう。
「ところで、その泥棒幹部ってのはどこに?」
「このラスダ村のどこかにいるそうです。私がここに来たのは捕獲が目的なので」
なるほどな。
そういうことだったか。
「ひとつ、頼みがあるんだレイナ」
「頼みとは?」
「幹部を捕縛することに成功したら、ケーキを食べて欲しい」
ぱちぱち。
目を瞬きさせたレイナだった。
「け、ケーキを?構いませんけど」
このとき困惑していたレイナの顔を俺は一生忘れることは無いと思う。
「でも、幹部はどうやって捕獲するつもりなんですか?私達も手を焼いているのですが。相手は最速を名乗っている人物なのですが」
スッ。
彼女は俺にメモを渡してきた。
【フェルン】
・魔王軍最速の幹部。本気を出して逃げれば魔王だって捕まえられなかった相手らしい。その他のステータスは貧弱である。色々あってゴクアークに懐いて忠誠を誓っているらしい。
「なんだ、これなら捕まえるのも簡単じゃないか。飛んで火に入る夏の虫、ってね」
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