不当な理由で妹系魔王ちゃんが幹部連中に裏切られて泣いたので、執事の俺が全員フルボッコにして魔王ちゃんの前に連れていくことにした。
第6話 【ゴクアーク視点】最強パワハラ暴力執事系お兄ちゃんを連れてきたよ……魔王ちゃん
第6話 【ゴクアーク視点】最強パワハラ暴力執事系お兄ちゃんを連れてきたよ……魔王ちゃん
タクトが出ていった部屋でゴクアークは盛大にため息を吐いていた。
「はぁぁぁぁあぁあ……息が詰まる」
オッサムも口を開いた。
「お気持ち察しますよゴクアーク様」
そこでアリシアはゴクアークに声をかけた。
「ゴクアーク」
腕を組んで左手の人差し指で右腕をトントンと叩いていた。
一目見てイライラしてるんだろうなというのは誰の目にも明らかだった。
態度もそうだし、かつての上官を呼び捨てにしたからだ。
「いろいろと言いたいことはあるが、あんな血も涙もないパワハラ執事どこから連れてきた?話くらいは聞いてやるぞ」
ゴクアークは額を抑えて呟いた。
「異世界からだ」
口を開いたのはベータだった。
「おかしいよね。過去の異世界召喚者はあそこまで強い人間なんていなかったのに」
「なんでも、天界という場所で千年修行してからここにきたらしい、『魔王様にふさわしい執事にならなくてはならない』と気合を入れていたらしい」
オッサムが口を開いた。
「ゴクアーク様。どうするんですか?このままではめちゃくちゃですよ魔王軍は」
「とは言うがオッサム。イリスはあれで幸せそうだぞ」
「え?」
「ワシはイリスが幸せならそれでいい。たとえタクトの靴を舐める下等生物になろうと、イリスが幸せならそれでいい」
「ご、ゴクアーク様……そんなに親バカ魔王だったのですね、あなた様は」
ゴクアークは盛大に笑うと会議室の床にゴロンと寝転がった。
「さて、ワシは寝るぞ。もともと老齢だからという理由で引退したしな。ぐがーっ」
寝始めたゴクアーク。
その他のメンバーは顔を見合わせていた。
それからオッサムに視線が集まった。
最初に口を開いたのはアリシア。
「ところでオッサム、お前が魔王ちゃんの会議をサボろうと言い出したからこうなったのだぞ?どう落とし前をつける?」
「だがお前らは良かったのか?イリス様が魔王軍を率いても」
「別に構わないが。だって、私は勇者と冒険をする予定だったのだからな。お前があのパワハラ執事の怒りを買わなければ私は無事に魔王軍を離反できていたぞ?そうなってしまえば、誰が魔王でも大した問題では無い」
状況が状況なせいで、誰もアリシアの裏切りには言及しなかった。
そしてアリシアはグリムに目を向けた。
「お前があのパワハラ執事を怒らせたせいでグリムは死んだんだぞ?」
「うぐっ……」
「我々は生きているが、グリムは死んだんだぞ?」
「うぐっ……」
「地獄にいるグリムに謝れ。そして私にも謝るがいい」
そう言うとアリシアは腕を組んで俯いた。
「寝る。どっかの老害のせいで今日は散々な目にあったぞ」
「はぁ……」
ベータにも怪訝な目を向けられるオッサム。
オッサムは頭を下げた。
「調子こいてすいませんでした」
それからオッサムはオカーマを見た。
「オカーマ、お前はどうしてあんなパワハラ執事に従っているんだ?」
「だって、彼強いもの♡魔王軍では強さは絶対のものよ。それなら一番強いタクトちゃんが1番偉いに決まってる。それだけよ」
それきり黙り込むオカーマ。
オッサムはそれから横にいたグリムに目をやった。
そして、ちょん、と体を押してみた。
グラッ。
椅子ごとグリムの体は床に倒れた。
「ひぃっ、本当に死んでるのか……」
ベータは頷いた。
「死んだものは生き返らない。そうなりたくないなら、なにが正解かは分かるよね?オッサム」
「ベータはどうするのだ?」
「もちろんタクトに従う。どう計算してもタクトに従うのが一番賢いし」
オカーマは呟いた。
「決まりね。オッサム、腹を括りなさい。もうみんな、タクトちゃんに従う覚悟は出来ているのよ」
そこで、オッサムは違和感に気付いた。
「タクト様に従うのか?イリス様ではなくて」
「えぇ、そうよ。実質的に魔王はタクトちゃんよ。少なくともあたしとベータはタクトちゃんに従っているわよ」
「正直タクトに従うのは……」
オッサムのプライドが邪魔していた。
オッサムは血筋を大事にする人間だ。
だからなんの血筋もない赤の他人に従うつもりにはなれなかった。
その時だった。
コンコン。
会議室の扉がノックされた。
ガチャッ。
扉が開いて顔を見せたのは
「い、イリス様?!」
「シィィィィーッ」
人差し指を口に当てて黙らせるイリス。
イリスは入口の近くにトレーを置いた。
そのトレーの上には食事が乗っていた。
「お腹、空いたよね?兄様には内緒ですよ?」
イタズラっ子のような笑顔を浮かべるイリス。
「い、いいのですか?イリス様……」
「うん、ぜったい内緒だからねタクト兄様には。絶対怒るから兄様は」
その時だった。
「誰が怒るって?魔王ちゃん」
オッサムはその声を聞いて絶望した。
「に、兄様?!」
タクトも顔を見せた。
「魔王ちゃんは甘いよな。そいつらに裏切られたって言うのに」
「それは仕方ないんでしょ?かわいそうだよ、みんなお腹すいてるのに、それに勇者と戦ってくれてたんでしょ?」
イリスはタクトのついた大嘘を信じてきっていた。
(俺は……なんてことを……こんな無垢で寛大な人を裏切ったのか……)
オッサムは後悔して、同時に理解した。
(俺は今この人の器の大きさを見てしまった。この人は確かにゴクアーク様の娘だ……この器の大きさ……半端な人間では持ち合わせることができない)
オッサムは片膝を付いてイリスの前で跪いた。
「イリス様、あなたこそ魔王様にふさわしい。俺はなんということを……」
オッサムは顔を上げてイリスに誓った。
「この命あなたに捧げましょうイリス様。あなたこそ魔王様にふさわしい」
そのときだった。
ドカッ。
オッサムの顔面をぶん殴ったタクト。
「ごはっ!ぬべっ!」
「なにをいい話でした、みたいにまとめようとしてるんだ、オッサム。お前は裏切り者だぞ。俺はお前が死ぬまでお前の犯した大罪を覚えておくぞ」
そう言って会議室を出ていったタクト。
去り際に一言だけ言った。
「だがまぁ、飯くらいは許可してやるよ。ラブアンドピース」
イリスも最後にこう言ってタクトについていく。
「オッサムさん、ラブアンドピース♪♪」
オッサムは頬を赤らめて両手でハートマークを作ると言った。
「らぶあんどぴーすぅっ!」
その時だった。
「どうだ?ワシの娘は天使であろう?」
ゴクアークが起きてきた。
物音で起きてきたのだろう。
「はい、天使ですイリス様は」
「そうかそうか」
オッサムの肩にポンと手を置いたゴクアーク。
その手に力が籠っていく。
「あ、あのゴクアーク様?」
「そういえば、忘れておったな。お前がイリスの護衛をしなかったことを。ワシはこう見えて実はブチ切れておったのじゃ。よくもワシの大事な娘の会議に参加しなかったな?お前」
ニコッと笑ったゴクアーク。
オッサムは思った。
(あっ、許されないやつ)
・
・
・
ゴクアークはオッサムをボコしたあと、会議室の扉横にあるホワイトボードに目をやった。
「日本語、か。会議参加者、と書いてあるのか。ん?1人足りなくないか?これ」
ゴクアークは足りてない1人(結城 拓斗)を書き足した。
それから既に死体となっている狂犬グリムに目をやった。
「まぁ、いっか。奴は言うことを聞かない狂犬な問題児じゃしな。自業自得じゃ」
現在、会議参加者
4(+死体1、+部外者2)/13(+2)
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