第5話 乱入者だよ、魔王ちゃん
「お父様?!」
中に入ってきたのは先代の魔王様であるゴクアークだった。
【先代魔王 ゴクアーク】
・先代の魔王を務めたえらい人。歴代の中でもかなり強いらしい。そして俺をこの世界に召喚したヤツである。ひとつ気になることがある。
なんでこの親からあんな天使のような魔王ちゃんが生まれたんだろう?
不思議で仕方がない。
ゴクアークは魔王ちゃんを見ると口を開く。
「イリス!無事だったか?!卑怯な勇者から襲撃があったと聞いて飛んで来たのだが……その様子を見ると大丈夫そうだな」
「はい!お父様、なんとか大丈夫でした!」
先代の魔王様は俺を見てきた。
「タクト!お前が何とかしてくれたんだな?」
「もちろん、ですが。執事として当然のことをしたまでですよ」
「謙遜するな。なかなかできることでは無いぞ、褒めてつかわす」
尊大に笑っているゴクアーク(もちろん邪悪な笑顔である)だったが、急に魔王ちゃんを心配するような顔を作る。
「ところでイリスよ。お父さんは心配だったぞ。お前がちゃんと魔王をやれているのかどうか」
「ご心配には及びません!この通り幹部の皆さんも会議に来てくれていますよ」
ジーッ。
ゴクアークは会議室を見て言った。
「と言ってもかなり空席が目立つようだが」
その時だった。
オッサムが口を開いた。
「とうぜんですよ。急に魔王を交代すると言うのです。ここに来ていないメンバーはみんなその事に戸惑っていて、気持ちを表明しているのですよ」
俺はオッサムに目をやった。
だが、オッサムは怖いもの知らずと言うようにゴクアークに向かって続けた。
「魔王様。俺たち幹部が仕えたのは "あなた" だ。あなたの娘であるイリス様ではない。このままイリス様を魔王にするのは反対だ」
「えっ?私やっぱり嫌われてたんですか?」
魔王ちゃんの目がまん丸になる。
「オッサム、口をつつしめよ」
俺はオッサムにそう言ったが、オッサムは地の利を得たと言うように、俺に刃向かってくる。
「若造。俺はただ現状を伝えているだけだ」
だが、それに対する返答は意外にも魔王様の口から返ってきた。
「オッサム。よさんか、ワシはイリスを魔王にした。よって、これからはイリスに従うのだ」
「俺はイリス様には従えません。この方は魔王としてふさわしくありません」
ゴクアークはしばらく頭を悩ませてから魔王ちゃんに目をやった。
「イリスよ。オッサムはこう言っている。お前が魔王としてふさわしいことを示せ、と」
「え?で、でも、私強くないですよ。お父さん」
「強くなくてもいい。お前が魔王としてふさわしいリーダーシップを発揮するのだ。そうすれば自然とこの者たちはお前に従うようになる」
オッサムはイリスを見ていた。
というより全員の視線がイリスに集まっていた。
そんな中、ゴクアークが言った。
「我々の目的は世界征服である。世界征服を成し遂げるまでの計画を話してみろイリス。それが妥当なものであれば、この者たちは従う」
そう言われて魔王ちゃんは言った。
「ら、らぶあんどぴーす♡」
「ラブアンドピース?」
ゴクアークは困惑していたようだった。
「イリス、それはどういう意味だ?」
「人間さんたちと仲良くするのです。そうすれば、世界征服なんてしなくても世界はひとつになれるのです」
ワクワクしたような顔をしていた魔王ちゃんだったけど、ゴクアークは「やれやれ」と呟いた。
「イリス。人間たちは話して伝わる相手ではない。力でねじ伏せて従わせるのだ。ラブアンドピースなどと腑抜けたことを言うでない。我々のスローガンは『人間なんて皆殺し』である。復唱してみなさい」
魔王ちゃんがウルウルし始めた。
「うぇぇぇ、言えないよぉ、そんなヒドイことぉ……」
「イリス、泣くなお前は魔王だろ?」
俺はゴクアークをぶん殴った。
「ぬ、はっ!」
吹っ飛んで床に転がるゴクアーク。
会議室が静寂に包まれた。
その静寂を、俺は破った。
「なんで殴られたかは語るまでもないだろう?」
次に口を開いたのはオカーマだった。
「うふっ。さすがタクトちゃん。あたしが見込んだだけのことはあるわね」
ゴクアークが俺を見てくる。
「タクトォ、貴様っ!いまなにをしたのか理解してるのか?!執事の分際でっ!」
「お前こそ何をしたか理解しているのか?ゴクアークよ。口には気をつけろ。魔王ちゃんはお前の友達ではない」
ザッ、ザッ。
俺はゴクアークに近付きながら続ける。
「不敬罪である。この場で魔王ちゃんに口答えするな。なにが復唱しなさいだ、お前が復唱しろ『らぶあんどぴーす♡』それが新生魔王軍のスローガンだ。頭に刻め」
俺は勘違いできないようにもちろん両手でハートマークを作ってやった。
「魔王様っ!」
オッサムが俺とゴクアークの間に入ってきた。
「邪魔だ、退けよ老害。レッドカード1枚目だ。2枚目を切らせればこの世から退場させてやるぞ」
パーン!!!
俺はオッサムの横っ面を裏拳で殴り飛ばして会議室の壁に頭から突っ込ませた。
パラパラ……壁が崩れる。
それを見て目を見開くゴクアーク。
「なんだと……?あのオッサムを一撃で……?」
「さてと、ひとつ聞いてやろうか、ゴクアーク。今の魔王は誰だ?ボケが始まってないのであれば答えられるよな?」
そう聞いてみたらゴクアークは「くくくく」と高笑いしてから叫んだ。
「いいだろう!死が望みか?!小僧!ここで殺してやろう!かつて最悪最強の悪魔と呼ばれ恐れられた歴代最強の魔王の力でねじ伏せてやる!ふぁぁぁあぁぁあぁあぁぁあ!!!!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!
大気が震えていた。
ゴクアークの姿が変わっていく。
人間に近かったその姿はまるで竜と人の融合体に近いものだった。
そう、まるでそれはさきほど見てきた【アルティマ】と似たような姿だ。
「どうだ?!強そうだろ?これがかつて世界を恐怖と絶望で包み込んだ魔王ゴクアークの真の姿である。異世界から来た人間よ。このチョー強い力で上下関係をはっきりさせてやるぞ!」
◇
俺は壁に埋まったままのオッサムの背中に尻を乗せて座った。
そして、ボロボロになっているゴクアークの頭を踏みつけていた。
ゴクアークの顔は殴られすぎて腫れ上がっている。
「ゴクアークよ。貴様は魔王軍の規律を乱そうとした反逆者である。犯罪者よ。まずは俺の靴を舐めるところから出直せ。犯罪者は俺が部下として飼ってやることにしよう。まずは上下関係というものを教えてやるぞ」
「タクト様のお靴はおいしいでございますです、ぶへぇ……レロレロ」
周りからの視線が少し痛い気がするが、俺は魔王ちゃんに言った。
「魔王ちゃん。少し邪魔が入ってしまったが、このまま話を進めよう。まだ会議の途中だからね」
パチクリ。
まばたきして魔王ちゃんは言った。
「タクト兄さん、そういうのはだめですよ」
「なにが?」
「やりすぎです。教育は大事ですけど、らぶあんどぴーすの精神が大切なのです。お父様に優しくしてあげてください」
俺はゴクアークの肩を一回だけ蹴りつけると言ってやった。
「だってよ、ゴクアーク。いまの魔王ちゃんは心優しい方で良かったな?」
「は、はい。魔王様イリス様はとてもお優しい方でございます」
「おい、ゴクアーク。お前に自由をくれてやる前にひとつ確認したいことがある」
「な、なんでしょう?タクト様」
「今の魔王軍のスローガンがなにか言ってみよ」
ゴクアークは叫んだ。
「ラブアンドピースゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
「よく出来たな、えらいぞ。とりあえず椅子に縛り付けておいてやろう。魔王ちゃんのお言葉をここでありがたく拝聴していくがいい」
「え?ワシも会議に参加するんですか?ワシは引退した身なんですけど」
「もちろん、お前の息が絶えるまで特別に参加させてやろう。安心しろ。会議への参加料金は永久無料だ。年会費永久無料」
俺がそう言った時だった。
「ふぁ〜ねむねむ〜なのです………」
こくん、こくん。
ウトウトし始めた魔王ちゃん。
そこで俺は時計を見た。
もう既に日付が変わろうとしていた。
「たいへんだ。もうこんな時間か。すまない魔王ちゃん、執事の仕事を忘れていた。くっ……」
俺は反省した。
自分が不甲斐ない。
「魔王ちゃんのスケジュール管理は執事の俺の仕事なのに。さぁ、魔王ちゃん、今日はもう寝ようぜ」
「うん、タクト兄様!いっしょに寝よ!」
俺は魔王ちゃんを適当にあしらいながら会議室を出ていこうとした。
その時だった。
壁に埋まっていたオッサムが話しかけてきた。
「我々も帰っていいですか?タクト様」
俺はこいつの図々しさに我が目を疑った。
「は?いいわけないだろ?ここにいろよ」
オカーマに目をやった。
「オカーマ。こいつらが勝手にこの会議室から出ないように見張っていろ」
「分かったわタクトちゃん♡」
アリシアが話しかけてくる。
「タクト、シャワーくらいは?」
「1日くらい我慢しろ。明日の朝ここにきていない奴は世界の果てまで探しに行ってぶん殴る。俺は怒っている」
「ひっ……」
俺は魔王ちゃんを連れて会議室を出ていった。
しかし、今日は疲れたな。
現在、会議参加者
4(+死体1、+部外者1)/13(+1)
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