第4話 データキャラを連れてきたよ、魔王ちゃん
俺はオカーマから聞いた通りの場所にやってきた。
「ここか、実験棟ってのは」
魔王城の敷地内にそびえ立つ実験棟と呼ばれる建物。
ここは先代の魔王がベータという幹部のために用意した建物らしい。
中ではベータによって生物実験とかいろいろ行われているらしい。
俺は中に入っていくことにした。
「実験棟か、初めて入ったが悪趣味な場所らしいな」
アリシアがそう言った。
実験棟には沢山の実験生物が放し飼いされているらしく、1人では危険かもしれない、ということでオカーマが同行させたのだ。
俺は1人でいいと言ったのだが、念の為ということらしい。
実験の結果、中は軽いダンジョンのようになっているそうだ。
中に入ると視界の端でなにかが動いた。
「なにか動いたな」
「実験生物じゃないかな?気をつけてくれタクト」
アリシアがそう言った時だった。
「ギガァァァァァァァァァァ!!!!!」
俺の視界の外からなにかシッポのようなものが伸びてきた。
むんず。
「なんだ、これは」
俺はその鋭いものを掴んだ。
グッ。
グッ。
シッポの持ち主はがんばって俺の手からシッポを抜こうとしている。
「とりあえずこっちにこい」
グイッ。
しっぽを思いっきり引っ張った。
すると、本体がこっちの方に近寄ってきた。
「あだっ!ぐあっ!」
ボテボテと地面をバウンドしながら近付いてきたのは人型のものだった。
「ひぃっ!」
両手を使って顔を守ろうとしているのは人間のようだった。
「なんだ、人か」
シッポを離した。
それから俺は聞いた。
「お前がベータか?」
謎の生物は首を横に振った。
「いえ違います。私はベータ様の部下です」
「ならちょうどいい。ベータのところまで案内しろ」
「ですがベータ様は今……」
「うだうだ言うな。さっさと案内しろ」
俺は謎の生物を歩かせ始めた。
後ろをついて行きながらアリシアに聞いた。
「これが実験生物か?」
「そのようだね。すごい長いシッポだなぁ。しかも武器になるなんて」
と、感心しているようだった。
やがて、謎の生物はとある部屋の前まで案内した。
「ここがそうですが、声をかけたりしない方がいいと思います」
「なぜ?」
「基本的に機嫌が悪いのですよ、ベータ様」
そう言うとゾクゾクと身を震わせた部下。
「何かある度に我々にパワハラするのですよ。私なんて視界に入ったからという理由だけでこの姿にされました。元はあなた方と同じ姿だったのに」
「それはたいへんだな」
俺はそう言いながら扉を蹴りつけた。
扉が吹き飛んで行った。
「話聞いてましたか?ベータ様が怒りますよ?」
「話は聞いてた。案内ご苦労」
部屋の中に入っていくことにした。
ちなみに中はいわゆる研究室みたいな感じになっていた。
緑色の液体、培養液?のようなものが入ったガラスケースがいくつかも並んでいたり謎のコンピュータが大量に並んでいる。
俺はそんな中を歩いていく。
しばらく歩くと黒髪ショートカットでメガネをかけて白衣の女が見つかった。
「お前がベータか?」
聞くと頷いた。
「そうだけど」
【ベータ】
・マッドサイエンティスト。三度の飯より研究が好きらしい。魔王軍の中での能力はモブ以下だが、生み出した生物兵器はとても強いため、幹部の座まで上り詰めたらしい。
俺はいつものようにとりあえず聞いてやることにした。
「お前、なぜ会議に来なかった?魔王ちゃんの招集は聞いていただろう?」
「研究で忙しかった。あんな頼りなさそうな魔王の会議に参加するほど暇ではない」
アリシアは俺に言ってきた。
「ベータは魔王ちゃんだから来なかった、ってことはないよ。先代の時からも会議にはいなかった人だから」
ベータは口を開いた。
「扉直して出て行ってくれないかな?」
「貴様に発言権は与えていない」
ピクリ。
眉を動かすベータ。
アリシアはポカーンと口を開けて俺を見ていた。
「お前は魔王ちゃんに呼ばれている。お前が出ていけ」
アリシアが「それ、入ってきた側のセリフじゃなくない?」ってボソッと呟いてた。
ベータは俺を見て口を開いた。
「頭が悪そうだ、君とは話しても無駄なようだね、ボクは今機嫌が悪い」
パチン。
指を弾いたベータ。
そのとき、一番でかいガラスケースの中にいた実験生物が内側からガラスケースを叩いた。
ビシッ!
ガラスケースにヒビが入った。
「君はタクト、だっけ?話には聞いてるよ。あの甘々な現魔王の執事だっけ?」
ペロリ。
舌で唇を舐めてこう言った。
「執事のひとり消えるくらいなら魔王も許してくれるよね?ってわけで、さよならだ。ボクの貴重な研究の邪魔をした君には死んでもらう」
ガシャーン!
化け物がガラスケースの中から出てきた。
「ギャォォォォォォォォォォォ!!!!!」
中から出てきたのは人とドラゴンが融合したようなモンスター人間。
「どうだい?ボクの最高傑作、究極の生物兵器【アルティマ】。先代魔王の髪の毛から数年かけて作り上げたんだ。理論上は魔王だって倒せるくらい強い。詳細な戦闘データが欲しいところだったんだ、君で戦闘データをとることにしよう、タクト」
そこで狂気的な笑顔を浮かべた。
「戦闘データを取るためには最低限30秒の時間が必要だ。それまでにくたばってくれないでくれよ?くくく、あはははははっ!!!せいぜい逃げ回ってくれよ?」
アルティマに目をやったベータ。
「アルティマ、あの人間を蹴散らせ」
「ターゲット、かくにん。殲滅する」
ペタッ。
ペタッ。
アルティマと呼ばれた生物兵器が俺に近寄ってくる。
「タクト、あれはまずい」
アリシアがそう言ったが、俺はアルティマに近寄ると声をかけた。
「人の言葉は分かるか?」
「我、お前殺す」
ベータが口を開いた。
「無駄だよタクト。アルティマはボク以外の言葉を聞かない。ボクが君の殺戮命令を出した以上アルティマは君を殺すまで止まらない、さぁ。殺るんだ、アルティマ」
しかし、アルティマは動かない。
動揺しているベータ。
「アルティマ?なにをしている?人間のひとりくらいお前なら息をするように殺せるだろう?データによるとお前が負ける確率はゼロだ」
「はひゅー、はひゅー」
アルティマは俺を見て呼吸を荒らげる。
そして、その場に膝を着いた。
「アルティマ?どうした?」
「危険」
「危険?」
「ターゲット……
危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険!!!恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖恐怖!!!」
ガタガタと歯を震わせ始めたアルティマ。
そのまま頭を抱えて蹲った。
「アルティマ?どうしたんだ?」
目を見開くベータ。
その時だった。
アルティマは自分で首を切断して自害した。
「えっ?」
目を見開いたベータ。
「戦闘データは取れたかい?これで満足しただろう?お前の独り言は黙って聞いてやった。だから、今度は俺の話を聞け」
ザッ、ザッ。
俺はベータに近寄った。
「無理やり捕縛する前に最後にもう一度だけ聞いてやろう、ベータ」
「わ、私の。アルティマがぁ、ありえん。どれだけの年月をかけたと思って……」
ベータは顔を青ざめさせて後ずさった。
「魔王ちゃんが会議室で泣きそうな顔をして待っている、今から会議に参加するつもりはないか?」
ベータは目を泳がせて俺を見てきた。
「なんて、威圧感。こんなのデータにない。対処方法が分からない」
そして、震えながら口を開いた。
「なにが、目的だ?」
俺はニヤッと口元を歪めて言った。
「ラブアンドピース、平和的な解決さ。だから頼むから俺にお前を殴らせるな。本当は殴りたくないんだよ」
だが、こいつは1度魔王ちゃんを裏切っている。
ケジメが必要だ。
「殴りたくないと言ったな。あれは嘘だ。やっぱ殴るわ」
俺はベータの前で右拳を作った。
「歯を食いしばれよベータ。俺の【愛と平和パンチ】は痛いぞ」
そのとき、ベータは口を開いた。
「君はたしか異世界人で、出身は日本だったよね?」
「そうだが」
なにかのメモに目を通してベータは涙を流しながらこう言った。
「私は女ですけどひょっとして今から殴られるんですか?女なのに殴られるんですか?おかしくないですか?私、女なんですけど?」
なにを言い出すかと思えば、そんなことか。
俺はニコッと笑ってやった。
「もちろん、殴る」
「え?うそっ?!即答っ?!君の世界では男が女を殴るのはだめなことだろう?データ通りならこれで殴りは回避可能……」
「こざかしいヤツだな。女だからパンチ一発で済ませてやろうと思ったがヤメだ。上段回し蹴りだ。歯や骨が砕けたり、口の中が血まみれにならないようにご注意ください、お嬢様」
ドカッ。
ベータのメガネはパリパリと割れて、ベータの体は宙を舞った。
◇
ガチャッ。
会議室に戻ってきた。
「ま、魔王しゃま。このベータ、会議に遅れたことを謝罪しましゅ」
ベータはあれ以降特に抵抗することなく会議に参加した。
しかし、席に座りながらも怯えたような目で俺を見ていた。
ブツブツブツブツ……
「ボクの究極生物兵器アルティマを倒すなんて……信じられん……」
小声でブツブツそんなことを言っていた。
そこで魔王ちゃんが一際高い声を出した。
「良いのです。ベータさん。遅れたことは赦します」
頭を下げるベータ。
それからベータは聞いた。
「ところで、この招集はなんのためなんでしょう?」
ベータの質問に答えたのはオカーマだった。
「ケーキ作りよ〜ん」
目を細めたベータ。
「なぜ、ボクらがケーキ作りを?」
俺はベータに言った。
「ラブアンドピースのためだ。復唱せよ。ラブアンド……」
ベータは怯えた目で俺を見ながら言った。
「ピース……」
何も知らない魔王ちゃんは無邪気な笑顔で繰り返す。
「らぶあんどぴーすぅ!」
そんな会話をしていた時だった。
ガチャッ。
会議室の扉が開いた。
入ってきたのは……
現在、会議参加者
4(+死体1)/13
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