第2話 勇者のライバルと戦闘狂を連れてきたよ、魔王ちゃん


 オッサムが話した場所にやってきた。


 幹部はバラバラで別々の場所にいるようだが一番近いやつのところだ。


 魔王領の一番高い建物である時計塔と呼ばれる場所のテッペンにそいつはいた。


 時計塔は標高が高い。

 吹き抜ける風がそいつの赤い髪の毛をユラユラと揺らしていた。


「よう。探したぞ、アリシア」



【アリシア・レッドグリフ】


・魔王軍幹部で一番剣の腕がいいやつ。何度か勇者と戦ったことがあるらしく、お互いライバル視しているそうだ。そして、ちょっとした友情が芽生えているらしい。



「タクトだったか?」


 俺を見てそう言ったアリシア。


 俺は単刀直入に聞いてやることにした。


「なんで会議に来なかった?一応聞いてやる」


 手荒な真似は好きでは無い。

 とりあえず言葉での説得からしてやる。


「オッサムに誘われたんだ。『今の魔王様は魔王の器ではない。もう従うのはやめよう』って」

「あのクソジジイなら結局会議に参加してるぞ」

「え?」


 困惑しているアリシア。


「ひょっとして幹部で会議に参加していないのは私だけだったりするか?」

「うん(大嘘)。だけど魔王ちゃんの心は広い。今から参加するなら遅刻を許すってさ」


 目を泳がせているアリシア。


 それから、小さく口を開いた。


「実はな。魔王様の命令で勇者と戦うウチに気付いたんだ。私は本当は勇者の仲間になりたいのではないか、と」

「仲間になってどうする?」

「分からない。共に魔王様を倒すかもしれない」


 アリシアは儚げにクスッと笑った。


「そうなればお前とも敵同士、だな」

「まだ魔王ちゃんは許してくれるぞ?会議に参加するつもりは無いか?」


 アリシアは首を横に振った。


「いや、私だけ会議に出ずに裏切ったのであれば、他の幹部からの心象も悪いだろう。その状態でやっていけるとも思えない。だからすまない」


(なるほど。説得しても改心しなさそうだな。では、無理やり連れていこう)


 アリシアはこう続けた。


「離反させてもらうよ、魔王様にはそう伝えておいて……」


 バキッ!


 俺はアリシアをぶん殴った。


 ドサッ。


 時計塔の床に倒れ込むアリシア。


 いきなりの事で動揺しているのか目を見開いている。


「一応、最後の忠告だ。会議に参加しろ。頷かなければ殴って無理やり参加させる」


「そうか、タクト。残念だ。お前とは戦いたくなかったが、私にも意地がある。お前を倒して、離反させてもらおう!」



 パンパン。

 手を叩いて俺はその場でロープでアリシアをグルグル巻にした。


 アリシアは俺の事を怯えた目で見ている。

 その背中には「裏切り尻軽ビッチ」と書いた紙を背中に貼り付けてやった。


 その時だった。


「よう。面白そうなことしてるじゃねぇかよっ!お二人さん!血の匂いがしたぜぇ?!」


 ザッ。


 一人の男が時計塔の上に瞬間移動してきた。


 白髪に赤い目の男である。


「ひゃはっ。殺しあってるなら俺も混ぜてくれよ。丁度誰か殺してぇと思ってたんだよ」


【狂犬のグリム】


・絵に書いたような戦闘狂。常に誰かとの戦闘を欲しているバトルジャンキー。戦闘欲求のみで生きているため、誰かに従うことは無い。先代の魔王様ですら完全に手なずけられなかったような狂犬。命令違反も何度もしている問題児のクズ。



 床で寝ているアリシアに目をやるグリム。


「タクトォ、てめぇがやったのか?アリシアを?ひゃはっ!やるじゃねぇかよ」

「お前は人の言葉が分かるか?狂犬グリム。人語で話しても問題ないか?」

「当然だ。言葉くらいは理解してるぜ」

「そうか。なら、単刀直入に言おう。今から会議に参加しろ」

「けっ、やなこった。現魔王の方針は『ラブアンドピース』だぞ?世界征服をした後人間を生かすのが夢だとよぉ。まったく、笑っちまうぜ」


 ペロリ。


 舌で唇を舐めたグリム。


「先代の魔王は世界征服をするためなら皆殺しにしていいと言った。だから魔王軍にいたのに、『ラブアンドピース』じゃ意味がねぇ。人間は皆殺しだっ!争い!戦い!バトル!殺戮!これらが俺を満たす最高の調味料!」


「どうしても今の魔王ちゃんには従えない、と?」


「ったりめぇだ。従わねぇよ?!あんな平和ボケしたチビに従うくらいなら死んだ方がマシだぜ?!俺は俺の好きなようにやらせてもらうぜっ!なんならあの魔王を殺してみたいな?!血はどんな色なのかなァ?!」


「そうか、残念だ。狂犬グリム。ならば俺も好きにやらせてもらおう」


 俺はグリムの胸に手を突き入れた。


 血が暖かい。心臓の鼓動が手に伝わってくる。


「かはっ……?」


 口から血を吐き出すグリム。


 俺の体にグリムの血が降りかかった。


「なぁ、狂犬くん。犬畜生でも血は赤いんだな」


「なにをして、やがるぅぅぅぅ、タクトォ」


 がしっ、と俺の腕を掴んでくるが、その手に力は入らない。


「お前が死んだ方がマシだと言うので、殺す。魔王ちゃんに従うくらいなら死んだ方がマシなんだろ?」


「ま、マジかよ、おまえぇ」


「キミの死体を会議に参加させよう。会議室は暗い。生きてようと死んでいようと見分けが付かんだろう」


 がくり。


 グリムの体から力が抜けた。


 どうやら死んだらしい。


 手を引き抜くと支えを失ったグリムの体が床に転がった。


「ひ、ひぃっ!死にたくないぃぃぃぃぃ!!!」


 アリシアの目が泳ぐ。


「アリシア、こうはなりたくないだろ?」


 こくこくこくこくこくこく。


 ブンブンブンブンブンブン!

 何度も何度も首を縦に振るアリシア。


「俺は何がなんでも幹部全員会議に参加させる。そのためには手段は問わない。殺しだってするし、骨だって折る。下手なことは言わない方がいいぞ?分かってるよな?それくらい俺は怒ってる」


「は、はいっ!余計なことは言いません!絶対に!」

「そっか。聞き分けがいい人は好きだよ、俺(ニコッ)」



 ガチャッ。


 会議室に帰ってきた。


「魔王様申し訳ございませんでした。このアリシア、会議に遅れてしまったことを謝罪します」


 アリシアは会議室を見た。


 オッサムと目が合った。


「オッサム、どうしてそんなに傷だらけなのだ?」

「聞くな。思い出させるな。それにアリシアも顔面青くなってるぞ?」


 アリシアはすべて察したようで空席に自分から座って行った。


 俺はグリムの死体をオッサムの横に座らせてロープで縛り付けた。


 その様子を見た魔王ちゃんが口を開いた。


「狂犬さんも来てくれたんですね!一番来てくれないと思ってたんですけど、嬉しいです!タクト兄さんもさすがです!狂犬さんを連れてきてくれるなんて!」


 俺はグリムの声真似をして答える。


「けっ。来てやったよ、だから殺させてくれよなぁ?!人間を!」

「ぶぶー、狂犬さん、殺しはNGなのです。人間さんを殺してはいけません」


(俺が殺したのは狂犬と呼ばれる "犬" だから問題ないな。せーふ)


 魔王ちゃんは両手でハートマークを作った。


 俺たちに向かって笑顔で口を開いた。


「ラブアンドピース♡なのです。愛と平和で世界征服はできるのです♡」


 俺も魔王ちゃんの真似をしておこうと思う。


「魔王ちゃん、ラブアンドピース♡」

「タクト兄さん♡」


 オッサムが俺の作業を見て小さく呟いた。


「狂犬が、死んでるぅぅぅ」

「あくまで生きてるように振る舞えよジジイ。魔王ちゃんの泣き顔を俺は見たくないぞ。魔王ちゃんならきっとこのクズでも死んでることに気付いたら悲しむ」

「は、はい」


 グリムの死体を椅子に縛り付けた後俺はオッサムに目を戻した。


「次の奴の居場所、吐いてもらおうか」


 オッサムは俺の目を見ていた。

 目が泳いでいる。


「吐かなきゃ殺されるぅぅ」


 俺はその言葉に答えた。


「心外だな、グリムは手なずけられないと考えたから動かなくしただけだ。会議中に勝手に動き回られたり命令違反して裏切られても困るからな」


 オッサムはおそるおそる俺の目を見ていた。


 安心させるためにもグリムは例外だと伝えておこう。


「現状、動かなくなるのはグリムだけだ。ラブアンドピース。平和的にいこうよ。復唱せよ。ラブアンドピース」


「ラブアンドピースゥ……」


 オッサムはポツリと呟いてから次の奴の居場所を吐き出した。


 俺は会議室を出ていく前にアリシアを見た。


 ビクッ!としてた。

 よっぽど俺のことがトラウマになったらしい。


「ど、どうしたの?タクト」


 怯えたような目で見てくるアリシアに俺は言った。


「挨拶しようとしただけだよ。ラブアンドピース(挨拶)」

「ら、ラブアンドピースゥゥゥ〜」


 涙目になりながらそう返してきたアリシアだった。




現在、参加者

2(+死体1)/13

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る