不当な理由で妹系魔王ちゃんが幹部連中に裏切られて泣いたので、執事の俺が全員フルボッコにして魔王ちゃんの前に連れていくことにした。

にこん

第1話 人望がなさすぎるよ、魔王ちゃん

 俺の名前は結城 拓斗。


 異世界転移者である。


 つい先日ファンタジーな異世界に召喚された。

 魔王様の陣営だ。


 魔王様の手によって召喚された俺だったが、与えられた命令はひとつ。


『ワシはもう無理だ。娘に後を継がせる。まだ小さな娘である。そのため近くでサポートしてやってくれないか?タクト』


 というもの。


 魔王様はもう老齢と言うやつで動くのもしんどいらしい。

 そこで娘に魔王の座を渡した。


 そんな流れがあって俺は新魔王ちゃんの執事となった。


 そして本日、新生魔王ちゃんによる初めての会議が開かれる。


 いわゆる魔王軍会議というやつである。


 幹部を集めて世界征服について会議するらしい。


 俺は幹部連中の出席確認をするため、会議室の前で幹部の方々がくるのを待っていた。


 しかし


「来ないぞ?誰も」


 待てど暮らせど魔王ちゃんが指定した時間に誰も来ない。


(ひょっとして魔王軍の猛者らしく会議室に直接テレポートしてるのか?うん、きっとそうだよな)


 って思いながら待ってたら、一人の女が遠くに見えた。


 目をこらすと女剣士のようである。


(やっと1人目が来たか)


 幹部が一人来たことにほっとしていると女は目の前までやってきた。


「失礼。この先には魔王がいる、ということでいいだろうか?」

「魔王 "様" 、な。言葉に気をつけろ」

「魔王……様はこの先にいるだろうか?」

「もちろん、案内するよ」


 俺は幹部の方に対して粗相がないように会議室の扉を開けた。


 その瞬間だった。


「タクト兄さん、どうしよ……誰も会議来ないよぉ、私嫌われてるのかなぁ?」


 瞳がウルウルして泣きそうな魔王ちゃんの姿が目に入った。


 それと同時に信じられないものが見えた。


 この会議室には誰もいなかった。


 会議室の席は13席ある。


 なのに……


 ひとつも席が埋まっていない。


 これは、どういうことだ?


 いや、答えはひとつしかない。


(誰も会議に来ていないのか?)


 そう思っていたら女剣士が剣を引き抜きながら口を開いた。


「魔王……様。ここで死んでもらう」

「なんでぇぇぇぇぇぇぇ?!!!」


 魔王ちゃんが泣き始めた。


「私は勇者だ。貴様ら魔王軍を壊滅させに来たのだが……壊滅させるのは面倒だ。よってトップだけを潰すことにした、それで、指揮者はいなくなり、実質壊滅だろう?」


「そんなぁぁぁぁあぁぁぁっ!!!ふえぇぇぇぇ、殺されちゃぅぅぅぅぅ!!!」


 俺にすがりついてくる魔王ちゃん。


「私死んじゃうよぉぉぉぉぉ!!!なにもしてないのにぃぃぃ!悪い子なの?私」


 そこで異変に気付いた勇者。


「これが、魔王?これ、が?この無害そうな奴が?」


 魔王様を2度見した勇者。


 信じられないようだ。


 そこで頭を抱える勇者。


「魔王軍の幹部に気をつけろ、と言われて送り出されたのだが、ここに来るまでに魔王の幹部には出会わなかった。ストレートでここまで来れたのだ。これは幹部が裏切ったということだろうか?」


「ひどいよぉ。幹部のみんな裏切っちゃったの?私の事守ってくれるって言ってたのに。うぇぇぇぇぇん」


 ウルウル泣いてる魔王ちゃん。


 俺は勇者の顔を見た。


「お前はこんなにも……かわいそうな魔王ちゃんが殺せるのか?」

「うぐっ……」


 言葉に詰まる勇者に俺はさらに聞いた。


「お前に殺せるのか?人の心は持っているか?」

「殺せるわけがないっ!」


 剣を収めた勇者。


 どうやら話が分かるようなので俺は勇者に言った。


「魔王城に来たいなら次はアポを取ってきてからきてくれ」

「魔王城にくるのにアポが必要なのか?」

「いきなりくると魔王ちゃんがびっくりして泣くだろ。魔王ちゃんには勇者を受け入れる心の準備が必要だ」

「分かった」


 勇者は魔王ちゃんを見て言った。


「魔王ちゃん、それでは今日のところは失礼します。今のあなたを殺してもなんの意味もなさそうだ」

「ありがとう、勇者さん!タクト兄さん、この人を魔王城の外まで送ってあげて」

「分かった」


 俺はそう答えると勇者を魔王城の外まで送ることにした。


 魔王城の敷地内から勇者が出ていくのを見送った。


 その時だった……。


 俺はこの近くに人の気配を感じた。


「だれだ」


 そう聞くと物陰からヌッと人影が出てきた。


「魔王軍幹部のオッサム・ハゲルンデスだ。今回の会議は幹部全員と結託して拒否した。つまり全ての元凶だ」


 髭面の男がそう名乗ってきた。



【オッサム・ハゲルンデス】


・魔王軍の結成当時からいる古株。魔王様を一番崇拝していたベテラン幹部である。しかし、理由があったのか会議には出なかったらしい?



「なぜお前ほどのベテラン幹部が会議に出なかった?それも他の幹部と結託しただと?理由があるなら言ってみろ。一応聞いてやる」


 オッサムは答えた。


「あの小娘は魔王様ではない」

「何を言っている?あの方は魔王様だぞ」


 そう聞くとオッサムは答えた。


「俺が崇拝して忠誠を誓ったのは "先代" の魔王様である。あのような小娘ではない。俺はあんな小娘を魔王様とは認めん!断じてな!」

「ほう。そうか。時代の変化についていけないか?老害ジジイ」

「若造。貴様はここに来て日が浅いから分からないのも無理もないだろう。しかし、事実としてあのような小娘に魔王様の座は務まらんっ!」

「だが、あの子を魔王に選んだのは前代の魔王様だぞ?務まると思ったから選んだのだろ……」


 言いかけた俺は思い出した。


 最後の先代魔王の言葉を。


『タクト、あの子はまだ幼い。まだ魔王になるには早すぎるだろう。幹部連中も言うことを聞かないことがあるかもしれない。だからお前がサポートしてやってくれ』


(あぁ、思い出した。前代すらも魔王ちゃんが魔王を務めるには早いと言っていた)


 しかし、それと、会議に出なかったという問題は別である。


「お前が認めなくても今は魔王ちゃんが魔王だ。それが事実である」

「だからなんなのだ?」

「今からでもいい。会議に出ろ」

「ぷっ……若造が……昔の魔王様を知らぬような新兵が偉そうな口を叩きおる。やれやれ、これだから最近の若いのは……くくく、ふはははは」


 そう言うとオッサムの体は変形を始めた。


 人型だったオッサムの体は、まるでゲームに出てくるような悪魔のような姿へと変形した。


「これが、オッサムの真の姿である。100%の力を出せる我の本当の姿!この姿になった俺はもはや魔王様ですら止められんっ!貴様をねじ伏せてやろう新兵!貴様に明日は訪れない!二度と夜は開けない!なぜならここで死ぬからだ!」



 ガチャっ。


 俺は会議室に戻った。


 中に入ると魔王ちゃんがいた。


「タクト兄さん、勇者さんは送ってくれましたか?」

「もちろんだよ(ニコッ)」

「怖いよ。勇者さんが私を殺そうとするなんて、ふえぇ」


 俺は魔王ちゃんと話しながら、力が入っていないオッサムの体を空席に座らせた。

 ロープでグルグル巻にして動けないように固定する。


「魔王ちゃん。オッサム・ハゲルンデスは今から会議に参加するって」

「ず、ずびまぜんでした……魔王様……」

「ど、どうしたんですか?!オッサムさん!そんなにひどい怪我をして……大丈夫ですか?いったい誰がそんな事を?!」


 オッサムは俺を恐ろしいものを見るような目で見てきた。


 ポツリと呟いた。


「ボコボコにされました……化け物がいたんです……こ、この男はぁぁぁぁあぁぁあ……」

「おいっ(ボソッ)」


 俺はオッサムの両頬を右手で掴んで小声で言った。


「余計なことは口にするな。勇者にボコられたことにしておけ」

「勇者にボコボコにされて、会議に遅れてしまったんですぅ」

「え?で、でも勇者さんはストレートできたって……」


 俺は勇者を悪役にすることにした。


「勇者が嘘をついたんだよ魔王ちゃん。勇者は悪いやつだ。魔王ちゃんを殺そうとしに来たんだよ、そんな奴の言うこと信用しちゃだめだ」

「そ、そうなのかな?」


 俺はニコッと笑って魔王ちゃんに言った。


「各地でオッサムのように魔王軍の幹部が勇者パーティに襲われているかもしれない。俺は今から救援に向かうよ。それで、幹部連中を連れ帰って会議に参加させるよ」

「ほ、ほんとうですか?!」

「うん。魔王ちゃん、俺に二言はないよ」


 そのとき、魔王ちゃんはオッサムに目をやった。


「どうして、ロープで縛ってるんですか?」

「え?力が入らないらしいから、落ちないように、さ。ははは」


 それから俺はオッサムに聞くことにした。


「おい、オッサム、次のやつを探しに行く。他の幹部はどこにいる、全員ボコボコにして連れ帰ってロープで縛り付けてでも会議に参加させてやる」


 オッサムは涙を流した。


「泣きたいのは魔王ちゃんだぞ?お前が先に裏切ったんだろうが泣くなクソジジイ、さぁ、奴らの居場所を吐け。洗いざらい話すんだ。さもなくば、この世から消す」


 オッサムは掠れた声を出した。


 話を聞いたあと俺は会議室を出ていこうとしたのだが、


「ホワイトボード、か」


 扉の横にホワイトボードがあることに気付いた。


 今何人ぶん殴って、会議室に連れてきたのか簡単に分かるように、メモでも書いておくことにしよう。





現在、会議参加者

1/13

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る