第10話 クジャク
ほとんどの鳥は、雄は性を飾り立て、雌は選ぶ側。
こんな決まりが生まれたのは産卵のプロセスには雌の側に膨大なエネルギーを必要とするからだ。
「あむ、ちゅ、ん、ちゅぷっ、んんっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、んちゅ、れろ、ぷちゅ、はぁ、はぁ、はぁ…」
そのため、努力が出来ない子孫しか作れない雄で浪費しないよう、雌は相手の選択に特に注意深くなければならない。
「ちゅ、ん、ちゅぷっ、んんっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、んちゅ、れろ」
雌はつがい相手の強さ、健康、活力など彼の子孫に伝えられる特質を知るために、声や羽毛などを注意深く観察し、真剣に相手の選択に努める。
「あむ、ちゅ、ん、ちゅぷっ、んんっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、んちゅ、れろ、ぷちゅ、はぁ、はぁ、はぁ…ふふ」
そのため、遺伝子を広める機会を最大にするよう種によっては、雄は最善の光の中で魅力を示すような、派手な求愛ディスプレーを発達させて、雌をライバルたちから引き離す。
雌から好まれる特質は、時と共に大げさになった。
雄のこのプロセスの進化のコストの説明としてクジャクほど良い例、有名な例はない。
「あむ、ちゅ、ん、ちゅぷっ、んんっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、ちゅぷっ、んちゅ、れろ、ぷちゅ、あははは、ぐすっ、あは」
性選択が多くの世代で重ねられたおかげで、雌を得るための尾羽の飾りの光輝くような特別な仕様が作り出された。
クジャクが僕じゃないのは確かだった。
◆
「スマホないと不便なんだな…」
僕はユイちゃんとの待ち合わせに苦労しながらそんなことを思ってつい呟いてしまった。
手紙には待ち合わせ場所が書いてあった。家のパソコンで調べてメモ書きして歩いてるんだけど、知らない場所は苦労する。
父さんの時代はどうしてたんだろうか。
ユイちゃんを責めるわけにはいかないし、ちゃんと知らないって言えば家に迎えに来てくれただろうに、僕って奴は。
待ち合わせの時の嬉しそうなユイちゃんの顔がもう一度見たくてつい格好つけてOKしてしまった。
「繁華街なんて来ることないからな…」
しかもこのセットアップ。母さんセレクトだし、似合ってるのかもわからない。鳥だって飾り立てるっていうのに、僕って奴は。
「あれ? 椎名君じゃないかしら」
「あ…修の…」
「もぉ、涼よ。お久しぶりね」
道に迷っていたら偶然にも修のお姉さんに出会った。やった。僕はついてる。
◆
「それにしても…三時間前は早くないかしら…」
「スマホを持ってないので…早めに来て場所だけ確認しようかと…待ち時間は本屋さんで…あははは…」
ユイちゃんとの待ち合わせ場所を聞くと、誰ととか時間はとかいろいろと足早に聞かれた。相変わらず涼さんはお喋りが好きだな。
「へ〜そっかそっか。どんな子なの?」
「僕には勿体ないくらい尽くしてくれる彼女です」
「写真…はないのよね。ふーん、見た目は?」
「えっと」
そっか。写真もすぐ出せるのか。スマホは便利なんだな。ユイちゃんの写真は卒アルくらいしかないし、そんなもの持ち歩けない。
「その顔見ればわかるわ。可愛い子なんでしょ。お姉さん妬いちゃうなあ」
「や、やめてくださいよぉ」
「あははは、照れちゃって。受験の時お世話してあげたでしょ。少しくらいいいじゃない。もぉ可愛いなぁ」
そう言って僕の頭をこれでもかとクシャクシャに撫で回す涼さんは本当に嬉しそうだ。
「修もこれくらい可愛かったらいいのに。そうそう、あの子もようやく出来そうなんだって、彼女」
「そうなんですか?」
そんな事一つも教えてくれてないけど、そうなのか。あれだけお節介してくれていた手前、照れ臭いのかもしれない。
「実は今日お洒落して出掛けたからさ、気になって来ちゃったの。まさか同じ場所で待ち合わせなんて思わなかったけど、仲良しなのね。ふふ」
「へー」
「ようやく姉離れしてくれるなかなって期待してるの。えーと、名前は確か…ユイナちゃん、じゃなかったかしら」
「え…?」
ユイナ…? たまたまだろうか。
「知らない? 同じ高校じゃないのかな? 中学は確か一緒だと思うけど。ふふ。ね、一緒に覗きに行きましょ?」
涼さんはそんなことを顎に指を添えながら言った。
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